老人向けUBER、無人宅配便、農地A/Bテスト。Y Combinator S16のDemo Day。

インキュベータに参加したスタートアップが、インキュベーション期間の成果を、2-3分の時間で投資家の前で一斉にピッチをするのが「Demo Day」の一般的なフォーマットです。

進化するDemo Day:「Investor Day」という新しい取り組み

先週月曜日と火曜日の二日間は、Y CombinatorのS16バッチの「Demo Day」でした。

インキュベータに参加したスタートアップが、それまでの3ヶ月程度のインキュベーション期間の成果を、2-3分の時間で投資家の前で一斉にピッチをするのが「Demo Day」の一般的なフォーマットです。

しかしながら、投資家にとって非効率(興味のない会社も多い)、起業家にとって非効率(単に情報収集目的だけの人も多い)、一日が潰れてしまう、など問題点も多いということで最近様々な新しいフォーマットが試されています。

今年から、StartX(Stanford大学のOB向けのインキュベータ)では、すべて「オンライン化」「非同期化」が行われ、投資家は事前に予約した時間帯に、興味があるカテゴリーのスタートアップのプレゼン動画をどこからでも見れるようになりました。時間や視聴スタイルも非常にフレキシブルで素晴らしい仕組みだと思います。

今回、YCでは「Investor Day」という新しい仕組みが導入されました。

これまでは、100社超のピッチを二日ずっとライブで聞き、その後YCが用意する専用のウェブサイトから投資をしたい会社を「Like」することで意思表示を行い、後日個別にSkypeやミーティングなどを設定するというフローでした。

ウェブサイトを活用することで、「単にLikeを押しまくって情報収集をしようとする人を排除できる」などの利点はあったようですが、ミーティング設定の部分が非効率でした。

今回導入されたInvestor Dayは、投資家の側が「自分のLikeをランキング付け」し、さらに「Likeの理由を記入できる」ようにし、それをベースに起業家の側が「投資家をランキング」し、最後に「システムが自動的にミーティングを設定する」というものです。二日間のピッチの最終日の夜に、システムにより設定されたミーティング日程がメールで届き、水曜日にそれに従って会場に行くと、一気に何社もの会社に会って投資の話ができるという仕組みです。

もちろん人気が殺到した会社には会えないなどもありましたが、前回よりははるかに効率的な仕組みになっていました。それでもトータル3日間を連続で費やすことになるので、まだ改善の余地はあるのかもしれません。インキューベータは乱立し、起業家、投資家の数はそれぞれ幾何級数的に増加をしている中、まだまだ新しい効率的、効果的な仕組みが導入されていくことでしょう。

プレゼン企業は98社(前回は127社)

今回プレゼンに参加をしたスタートアップの数は、98社でした。前回が127社、その前が102社なので、大体100-130くらいという規模で安定しているようです。

今回も、その98社をビジネスの「カテゴリー」で分類してみると以下のようになります。

前回のデータはこちらにありますが、全体的な傾向はここ数回変化がありません。

また、前回同様「ハードウェア(HW)」系の存在感は大きく、3Dプリンタで個別に必要な成分をカプセル化する「パーソナライズされた薬」など、ハードウェアのイノベーション(3Dプリンタ)とソフトウェア/サービスのイノベーション(パーソナル医療)が「かけ算となって生まれるイノベーション」が大きなうねりとなっていると感じました。

業種は「金融」「医療」「セキュリティ」がTop3

今度は、「業種」で分類してみると以下のようになります。

「金融」と「医療」は前回と同様にTop3入りです。

金融 / FinTechは、全く新しいトレンドが生まれているというよりは、「ドキュメントのオンライン化(Lendsnap)」「既存サービスのAPI化(Fellow)」「AI活用(Legalist)」という一般的なアプローチでできることが、金融の世界にはまだまだあるということだと思います。

医療は、面白いものがいくつかありましたが、非公開企業なので残念ながらここでは書くことができません。

今回の2社から6社に一気に増えたのが「セキュリティ」カテゴリーです。

ウェブ(Wallarm)のセキュリティやクラウド(ZeroDB)のセキュリティは、目新しい分野ではないですが、ますます個人、企業のウェブ、クラウド活用が進むことでニーズが広がり続けている分野です。一方で、非常にアメリカらしい銃犯罪関連(Amberbox)ドローンによる防犯(Apptonomy)という目新しい取り組みもありました。

Scrumが注目する10社のスタートアップ

1 : Yoshi(オンデマンドガソリン)

スマホのアプリから、オフィスや自宅にいつでも来てくれて、車のガソリンを満タンにしてくれるサービス。かなり多くのスタートアップが参入し、資金も集まっている分野なのですが、規制の問題もあるようです。

2 : Robby(無人宅配便)

人間の代わりに、オフィスや家に荷物を届けてくれる自動走行ロボット。空を飛ぶドローンによる宅配のニュースもたくさんありますが、ドローンに比べて危険性が格段に低く、技術的な実現性も非常に高いため注目されている分野です。すでに同様の技術を使って、スイスの郵便局で実験が始まっています。

3: Flex(スマート生理用品)

前回も「オンデマンドコンドーム」というのがありましたが、意外と多いのがこの分野です。これは生理中も性行為が可能という製品のようです。先日ひげそりサブスクリプションスタートアップの$1BのM&Aがありましたが、巨大な市場なので可能性は大きいです。

4: GoGoGranparents(老人向けUBER)

すっかり社会インフラとなったUBERなどのオンデマンドサービスですが、スマホを持たない老人たちには使えないサービスです。GGGは、固定電話から特定の番号にかけるとUBERなどが利用できるというものです。

5 : People.ai(営業マン評価AI)

メール、カレンダー、Salesforceなどと連動して、営業マンの行動をすべてトラッキング、AIにより分析、効率化を図るというソリューションです。実際大手のネット企業で20%以上営業マンの効率が上がるなどの成果がでているようです。

6 : Luminostics(スマホ尿検査 )

スマホに接続する小さな器具を使うことで、病院に行かずに様々な尿検査ができるというもの。たった15分で検査ができるということでした。この分野は先日ユニコーンスタートアップ Theranosの大スキャンダルがあったばかりなので、慎重に見る必要はあると思いますが。

7 : Raptor Maps(農地ABテスト)

こちらもまだまだできることの多い農業の分野のスタートアップです。同じ土地の別の区画で、種や肥料などのパラメーターをいじって経過をDroneで撮影、分析してABテストをするというサービスです。確実に成果がでそうな分野です。

8 : MultiplyLabs(パーソナライズ薬)

3Dプリンターを使って自分専用のサプリを作ってくれるというサービス。毎日飲む処方箋薬を個別包装してくれるサービスが急成長していますが、これはさらに一歩先をいく発想で面白いです。

9 : Instrumentl(研究費マーケットプレイス)

研究者が研究でなく研究費の獲得に多くの時間をかけているというのは、洋の東西を問わず大きな問題です。それを自動でマッチングするというマーケットプレイスです。すでにHarvardなどで活用されており大きな成果をあげているようです。

10 : Airo Health(摂取カロリートラッカー)

これからメジャーなプラットフォームにも色々な新しいセンサーが乗ってくるという噂のあるウェアラブル業界ですが、これは摂取カロリーが測定できるというもの。本当に精度高く測定できたら可能性は巨大ですね。

今回も本当に幅広い分野の社会課題の解決にチャレンジするスタートアップにたくさん出会えました。

次回は来年の春。また新しいイノベーションに出会えるのが今から楽しみです。

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