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もし、その仕事にチャレンジが必要なら、クリエイターを呼んでみませんか?

2015年08月10日 15時58分 JST | 更新 2016年08月09日 18時12分 JST

日本を代表する自動車メーカー"技術の日産"の社長であるカルロスゴーン氏が"モノづくりからコトづくりへの変革"というチャレンジを提唱してから10年。日本のモノづくり企業の思想や姿勢は変わっただろうか。アメリカではアップルはもちろんウォービーパーカーなどのデザイン発想や人々のライフスタイルの変化を促すような"コトづくり"発想のプロダクトを製造・販売する企業の成長が著しい。これまでの日本企業の、不可能を技術で実現してきた"モノづくり"のチャレンジ精神が、"モノづくり"から"コトづくり"への変革に活かされるために、今なにが求められているのか。

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変化は始まっている。日本で企業が"モノづくり"から"コトづくり"にシフトしていく兆しが三つある。例えば組織が大きくなることで硬直化してしまう状況を動かすために、発想も人的資源も柔軟にできるスタートアップ企業と大企業が協働する事例が増えてきた。富士通や富士ゼロックス、NTTドコモや伊藤園がスタートアップ企業と合同事業を進めていくプロジェクトを設置したことは、業界内外の注目を集めている。生活に密着した発想による全く新しい技術の使い方の発見や、闊達な人材交流が期待されている。

また、生産前にユーザーから資金を調達するクラウドファンディングもここ数年、活発になっている動きだ。これはメーカーや生産者が市場に製品を投入する前にどれくらい期待があるかを確認するための需要確認や受注生産の機能を果たす。大手メーカーや若手クリエイターとの協働プロジェクトを進めるグリーンファンディングを運営するワンモアの沼田代表はこのように語る。

「画期的な新しい発想の商品は企画段階での市場調査では得てして否定的にとられる。ユーザーの想像が追いつかないから。でもプロトタイプを見るといかにそれが自分の生活を変えるかが想像できる。クラウドファンディングが画期的な生活を変えるような製品が市場に増えていくことの手助けになればいい」

このグリーンファンディングが正に日産自動車と協働することで実現したプロジェクトが先ごろ話題になった。「究極のスマートバーベキューカープロジェクト」だ。

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電気自動車の普及啓発のために、日産の業務用電気自動車e-NV200をベースに世界初のバーベキュー専門の電気自動車を開発。さらにクラウドファンディングで一般の生活者から資金を集めて機能を強化していくというプロジェクトだった。テレビの情報番組やネットニュースなどそれまで"環境"と"節約"の文脈でしか語られてこなかった日産の電気自動車の技術がバーベキューやSNSといった若者たちの娯楽の文脈で語られた。"モノづくり"が"コトづくり"に的確に翻訳された好事例だ。

「究極のスマートバーベキューカープロジェクト」の実現・成功には、グリーンファンディングともう一つの組織が関与している。それが筆者も所属する広告会社TBWA HAKUHODOだ。筆者を含むこの会社のクリエイターのチームが、放送作家の鈴木おさむ氏や、日本バーベキュー協会の下城会長といった専門家を巻き込んだチームを結成。商品のコンセプト開発からプロジェクトマネジメントやPRを実際に行っていった。

 

このようなクリエイターとの協業こそが"モノづくり"から"コトづくり"への変革の三つ目の兆しだ。近年、メーカーが、広告会社やフリーで活躍するクリエイターと協同してプロジェクトを進めることで、それまでのそのメーカーの常識を大きく覆すチャレンジに成功した事例が増えている。たとえばQUIKSILVER の「TRUE WETSUITS」という商品がある。

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これは、サーフィン好きのビジネスマンのために開発された世界初の水陸両用型ビジネススーツ。ウェットスーツの素材でできており、サーフィンと仕事を一着でやり遂げられるというアイテムだ。この商品は国内外で大きな話題となり、先ごろフランスで行われたカンヌライオンズ クリエイティビティフェスティバル2015 でPR部門の金賞を受賞した。

また、日産やQUIKSILVERといったメーカーとの商品開発の他にも、変わったところでは医療機関とのプロジェクトもある。多くのニュースで報道された倉敷中央病院の研修医採用に向けての『実技トライアウト』がそれだ。

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日本最大級の患者数を誇りながらも、地方にあるために研修医の確保に苦労してきた病院が、日本で初めて研修医採用に実技試験を取り入れた。ミクロ鮨や5mm折り鶴などユニークかつ超絶難度の試験内容が話題になった。従来の筆記試験や面接だけでは測れない受験者の精神性や限界状況での判断力をみるための病院としてのチャレンジだった。

いずれも広告会社TBWA HAKUHODOが関与したプロジェクトだが、これらはどれも広告ではない。あくまで実際に売られている商品であり、機能しているプロジェクトだ。本来の事業に、クリエイターによる別の角度からの発想を取り入れることで大きなニュースやビジネス成果をあげることができた。カンヌライオンズ クリエイティビティフェスティバル2015で話題をさらったR/GAをはじめとしてこれまで広告をメインドメインにしてきた会社が、メーカーやスタートアップと協業し、その卓越したクリエイティビティやアイディアのチカラで、"コトづくり"発想の"モノづくり"を加速させている潮流は今や世界的なものになっている。国内でもTBWA HAKUHODO QUANTAM など同じ構造の取り組みが始まっている。

背景には、広告会社のビジネスモデルに対するプレッシャーがある。この10年、"商品を開発して販売する仕事"でよかったはずのメーカーが"モノづくり"から"コトづくり"への変革を迫られてきた。その他方で、広告会社もまた変革を迫られていた。CMをはじめとしたいわゆる広告制作と広告枠の販売というビジネスモデルから、コミュニケーションに対する知見やクリエイターの技術・発想を、いかにメーカーをはじめとするクライアントのマーケティングに役立てるか、というビジネスへの変革だ。なかでもメディアの広告枠の取引を担当することのない、クリエイターたちは広告領域以外のビジネスへのチャレンジの矢面に立たされた。いつしか、一部のクリエイターはチャレンジの専門家になっていった。いや、ならざるを得なかったのだ。企業にチャレンジを促す技術。それは多くの人がイメージするようなデザインや、コピーライティングといった広告の技術単体ではもちろんない。また、逆にいえば先の事例であげたような車やスーツ、試験内容を考える商品開発の力というわけでもない。本質はそういった「表現」や「プロダクト」といったアウトプットの手前にある。人々の欲望を察知し、クライアントであるメーカーの技術・商品・サービスが、実際の暮らしのなかでどうすれば機能するかを設計する力だ。それは"モノ"をつくる力ではなく、新しい"ルール"をつくる力というとイメージしやすいかもしれない。

だから、この文章を読んでいるあなたが、あなたの組織・会社のどのポジションにいたとしても、このことは覚えておいてほしい。経営者だとしても、マーケッターだとしても、技術者だとしても、もちろん宣伝部でも、広報部でも、あなたのビジネスにチャレンジが必要なのであれば、そのプロジェクトにはクリエイターがいた方がいいのだ。この時代において、クリエイティブとは、チャレンジとほぼ同義だからだ。 "モノづくり"から"コトづくり"に変わっていくチャレンジは決して簡単ではないだろう。しかし、悲観は気分、楽観は意志。これもまた、チャレンジし続けた偉大なクリエイターの先達のことばだ。