米連邦最高裁スカリア判事急逝はなぜ重要?

2月13日、米連邦最高裁のスカリア判事が急逝しました。これは米国の政治にとってかなり重要な展開です。

2月13日、米連邦最高裁のスカリア判事が急逝しました。これは米国の政治にとってかなり重要な展開です。

説明します。

米国連邦最高裁は9名の判事から構成されています。アメリカの大統領の任期は4年ですが、連邦最高裁判事は任期というものがありません。つまり一度任命されたら、一生務めるわけです。

このように生涯任期を採用している理由は、判事の意見が、そのときの政治の風向きや保身の動機などに左右されないようにという配慮からです。

現在の9名の判事のうち共和党大統領が任命した判事は5名、民主党大統領が任命した判事は4名でした。

でも共和党のレーガン大統領に任命された、保守的な価値観を持つスカリア判事が死去したことで、オバマ大統領はオバマ大統領の考え方に近い判事を任命するチャンスを得たことになります。

もしオバマ大統領がリベラルな判事を連邦最高裁に送り込むことが出来れば、上に述べた旗色は、共和党大統領任命判事4名、民主党大統領任命判事5名となり、形勢逆転するわけです。

連邦最高裁は、どんな権力を持っているのでしょうか?

よく社会科の授業で三権分立ということが言われます。それらは:

司法(連邦最高裁)

立法(議会)

行政(大統領府)

です。司法は法律に基づき裁く人、立法は法律を作る、もしくは改変する人、行政は政府を運営する人です。この三つがちゃんと分離していることが、権力の濫用の防止につながると考えられているわけです。

連邦最高裁の持っている力の例として、憲法に関する連邦最高裁の判決は絶対的拘束力を持ちます。言い換えれば議会が可決した法案を無効にする力を持つわけです。さらに大統領の権力を制限し、軍最高司令官(Commander in Chief)としての大統領の権限を制限することも出来ます。

連邦最高裁で進行する裁判は、テレビに放映されませんし、裁判での細かいやりとりは、一般大衆にリアルタイムでは報じなくて良いです。つまり軽薄な世論を心配せず、じっくり考えることができるわけです。

連邦最高裁の帯びた最も重要な仕事は、アメリカ合衆国憲法の精神を解釈し、判例を通じて、憲法の「読み方」を明確化することで論争を決着させることにあります。それは国民が憲法に求める価値観を代弁したものであり、国民がアメリカ政府になにをやって欲しくて、なにをやって欲しくないか? ということをハッキリさせるという使命を帯びているわけです。

オバマ大統領は、レーガン大統領を除くと、任期中に最も沢山の連邦最高裁判事を任命した大統領ということになります。既に2名任命しているので、今回で3人目です。これは連邦最高裁の色彩を、これまでの保守的で共和党寄りのものから、リベラルで民主党寄りのものにする可能性があるわけです。オバマ大統領はもともと憲法学の大学教授だったので、このチャンスの持つ意味の大きさについては、誰よりも良くわかっていると思います。

なおオバマ大統領が任命した、スカリア判事に代わる連邦最高裁判事は、議会の承認を得る必要があります。上院は共和党が過半数を占めているので、大統領が任命した候補を却下する可能性が高いです。

この問題は現在進行中の米大統領選挙の争点になりうると思います。

共和党大統領候補たちは「オバマ大統領はあと1年足らずの任期しか無いのだから、次期判事の任命を自重し、次の大統領に任せるべきだ」と主張すると思います。でも連邦最高裁判事が定員の9名ではなく8名で運営された場合、大事な決定で4:4と意見が割れてしまうリスクもあります。

いずれにせよ大統領が1年近い期間、次の人への遠慮から次期判事を任命しないということは、普通ではありえません。

(2016年2月15日「Market Hack」より転載)

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写真で見るアメリカ大統領選挙

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