損を放置しないことの大事さについて

ヘッジファンドの世界では月次パフォーマンスでマイナスになることをドローダウンといいます。ドローダウンをどう管理するか? という問題は、どう勝つか? ということと同じくらい、いや、それ以上に大事です。これを説明するために、いま「ありえない」例を示します。上のグラフは、いま仮にA君、B君、C君という三人の投資家が居たとして、それぞれが元本100からスタートして、毎年、どのような成績を出したかのシミュレーションです。

ヘッジファンドの世界では月次パフォーマンスでマイナスになることをドローダウンといいます。

ドローダウンをどう管理するか? という問題は、どう勝つか? ということと同じくらい、いや、それ以上に大事です。

これを説明するために、いま「ありえない」例を示します。

上のグラフは、いま仮にA君、B君、C君という三人の投資家が居たとして、それぞれが元本100からスタートして、毎年、どのような成績を出したかのシミュレーションです。

A君も、B君も、僕は凄いと思います。なぜなら過去50年間のS&P500のトータルリターンは年率ほぼ9.8%(配当込の数字)なので、A君もB君も市場平均の2倍以上のパフォーマンスを、75%の確率(=4年のうち3回)で出しているからです。

それに比べるとC君はS&P500の平均トータルリターンに一度も勝ててないので、凡庸な成績と言えるでしょう。

ところが、同じ結果を%ではなく、金額で示すと下のグラフのようになります。

カリスマ的に相場の上手いA君もB君も、4年目までに増えた資産は38%で、凡庸なC君の31%と、それほど大きな差はありません。これでもか! これでもか! というような凄いパフォーマンスを出してきたA君やB君が、結果的にフツーの投資家のC君に大差をつけられなかった理由は、ドローダウンの存在です

さて、上の例は、絵空事です。言い換えれば「出来過ぎにバラ色」のシナリオです。現実的には大多数の投資家は下のような失敗をしでかします。

上の例ではA君もB君も、20%勝った年と20%やられた年が同数あります。大体、個人投資家の多くは「それでも、おれは負けてない!」と主張します。

なるほど、勝った回数と負けた回数が同数だから、負けてないと言えば、まあ負けてないと主張できないこともありません。

しかしそれは「幻覚」です。都合のいい、ミスのすり替えです。現実から目を逸らせているのにほかなりません。

いま同じパフォーマンスを金額ベースで表示しなおすと、下のグラフのようになります。

A君も、B君も元本割れしていることがわかります。つまりやられたら、やられた分よりもっとパーセンテージ・ベースで取り返さないと元には戻らないのです。

もうひとつ興味深い点はC君です。ひとつ前のグラフでのC君のパフォーマンスを見ると、7%が出ている年が2回、ぜんぜん儲からなかったけど、損も出なかった年が2回あります。これは既に紹介したS&P500の過去50年間の平均パフォーマンス(=年平均9.8%)からすれば、ぜんぜん満足できない戦績だけど、悪い年にトントンにおさえ、損を出さなかったことが幸いして、A君やB君を尻目に、ちゃんと元本を14%も増やしていることがわかります。

以上はごく単純なシミュレーションですが、ドローダウンをいかに抑えるかという発想の大切さを教えていると思います。

それでは具体的にドローダウンをどう抑えれば良いのでしょうか?

これは皆さんの投資スタイルによって変わってきます。それによりアプローチを変えないといけない点に特に注意してください。

【グロース投資、ないしはモメンタム投資の場合】

グロース投資、あるいはモメンタム投資が好きな人の場合、ドローダウンを限定する方法はひとつしかありません。それはロスカットの基準を設けることです。たとえば僕の場合、買い値から8%以上、その株が下がったら、どんな理由にせよ損切りします。これは傷口を大きくしないためです。

グロース投資、あるいはモメンタム投資の場合、10回買って、10回儲かるという可能性は限りなくゼロに近いです。だからそういう妄想は捨ててください。むしろ10回買えば、6勝4敗くらいが自然です。

だからその4敗の傷口を小さくし、6勝の利食いを大きくすることを考えないといけないのです。8%のロスカット基準を自分に課すということは、傷口を小さくするためのディシプリン(規律)なのです。

【バリュー投資の場合】

バリュー投資の場合、上に述べた8%のロスカット基準は使いません。その代り、フェロモンむんむんの、キラキラ女子のような株は、そもそも相手にしません。つまり買い注文を発注する以前の銘柄選択の段階でディシプリンを働かせるわけです。

そう書くと(オレはちゃんとした銘柄を、しっかり調べて、厳選している!)と自信たっぷりの答えが返ってきます。僕は、そういう痛いコトを平気で言う人を、心の底で笑っています。

ちゃんとした銘柄とは、バリューラインの「収益の予想可能性Earnings predictability」で90%以上、「財務力」でA以上、営業キャッシュフロー・マージンで最低15%以上あるような銘柄です。そうすると、数はものすごく限られてきます。

これはお見合いで言えば、さしずめ「三高」です。でもここでの「三高」は1.背が高い、2.学歴が高い、3.収入が高いではなく、次のようなポイントになります:

1.収益の予想可能性が高いこと

2.財務力が高いこと

3.営業キャッシュフロー・マージンが高いこと

その結果、若い女の子がお見合いの相手の履歴書と写真を見た時、デフォルトの反応となっている:

いゃだ~ァ、この人。まるで新橋あたりを歩いているオッサンみたいなルックスじゃん

というリアクション......これに酷似する、ある種の地味さ、人生の耐え難い退屈さ......そういう物足りない思いを噛みしめながら投資する、、、とまあ、これがバリュー投資の極意になるわけです。

そういう言い方でわからなければ、ジョンソン&ジョンソン(JNJ)、ノバルティス(NVS)、コカコーラ(KO)などの、変わり映えしない「いつもの銘柄」に落ち着く以外に無いのです。

姫っ、恐れながら申し上げますが、長期で連れ添える相手たるもの、決してルックスではござらん。

というわけです。

つまり「絶対に損切りしない!」と胸を張れる前に、そもそも損切りする必要の全くない、冒頭の例で言えばC君に相当する銘柄をちゃんと選んでいるかを問題にしないといけないのです。

■ ■ ■

PS. 一方、グロース投資は喩えて言えば「ウクライナ美女すげー! 神レベル!」というノリに近いです。見る銘柄、見る銘柄、すべてがナスターシャ・キンスキーに思えて仕方ないわけです。こういうビョーキを患っている投資家は(僕を含めて)非常に多いです。

でも(これは凄いかも......)と思った銘柄の大半は、四半期決算を数回経た後に、「ゲーッ! 劣化、激しすぎ!」という恐怖に変わるわけです。

大半の個人投資家は、成長企業の決算の「とりこぼし」に甘すぎ!

ちょっとでも劣化の兆しが見えたら、即刻、逃げてください。

(2014年8月29日「Market Hack」より転載)

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