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だいぶ慌てている様子のバクダッド市民 過激派の次のターゲット?

2014年06月14日 23時26分 JST | 更新 2014年06月15日 00時24分 JST

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先週、イラク北部の町、モスールが過激派ISIL(Islamic State in Iraq and the Levant)に奪われました。

ISILは返す刀で南進し、幾つかの都市を制圧しながら、イラクの首都、バクダッドに迫ろうとしています。

ニューヨーク・タイムズは敵の迫り来るバクダッドの様子を次のように伝えています。

まず金曜日はイスラム教の休日なので、普通、お店は閉まっているわけですが、旅行代理店は「バクダッドを離れたい!」という市民のために航空券の手配で大忙しらしいです。同国では今でも短冊形をして裏面がカーボン紙になっている、昔ながらの航空券が使われているそうです。

航空会社は臨時便を増便しており、ビザが無くても行けるグルジアやイスタンブールが人気のようです。「とにかく、二週間くらいバクダッドを離れて、本当にISILが攻めてくるのかを見極めたい」という心境のようです。

笑えるのはクルド人自治区のアルビールも人気になっているという点です。なぜならアルビールは今回陥落したモスールの隣町だからです。しかしアルビールはクルド兵によって防衛されているので「バクダッドよりむしろ安全だ」という風に考えられているわけです。

ただグルジアの場合、ビザは要らないけど、入国に際しては2000ドルの所持金が無ければ入れてくれません。だからこのようにアタフタしてバクダッドを離れることが出来る人たちは、あくまでも中流以上の人たちだと言えます。

一方、バクダッドの労働者階級のシーア派の若者たちは志願兵募集の掛け声に応えるかたちで地元のスタジアムに集結し、首都防衛の戦いに備えつつあります。

もちろんISILがバクダッドを攻撃するかどうかは、今の時点ではわかりません。ISILはIslamistsであり、イスラム教に基づいた、カリフをリーダーとする国家の建設を目指す人たちです。

現在のイラクはアメリカがイラク戦争でサダム・フセインを政権の座から排除した後、まがりなりにもデモクラシーの形態を取っています。つまり政教が分離されているわけです。

これに比べてイスラミスト、つまりイスラム国家主義者たちは回教の教えに基づいた国家運営を望んでいます。これはたとえばエジプトのムスリム同胞団の考え方に近いです。なおエジプトのムスリム同胞団は選挙という枠組みを通じて影響力の伸長を目指しましたが、大統領に選ばれたムハンマド・ムルシー氏はその後のエジプト軍の政権掌握で大統領の座を追われています。

話をイラクのISILに戻すと、今のところ彼らが目指している勢力圏はシリアのスンニ派居住地域ならびにイラク北部のスンニ派居住地域を包括する一帯です。ここは石油開発のコンセッションが国際入札にかけられた場所を含んでいるとはいえ、今までの生産実績は少ないです。他にこれといった産業も無く、今回制圧した各都市を除けば、ただ大海原のような砂漠が続く地域と言っても過言ではありません。

イラクの北部油田地帯は地図上グレーの部分です。なおモスールを盗った後、ISILが南下したので、クルド人自治区(赤の破線以北)のクルド兵たちはキルクークに進駐し、守りを固めています。

だからISILが青の破線で示した地域をおさえただけでサステイナブルな国家建設が出来るかと言えば、それはちょっと首をかしげざるをえないのです。

或る意味、今回ISILが主な活動の舞台をシリアからイラクにシフトした理由は、シリアでの戦況が一進一退になったからだという風にも考えられます。もう少しのところで追い落としに成功するかに見えたアサド政権は、イランのクッズフォースの支援で踏みとどまっています。

それで支持基盤がぜい弱なマラキ政権のイラクを揺さぶることで流れを変えることを狙ったというわけです。

このように現在のISILの実力ではバクダッドを盗るのは少し無理という印象があります。

(2014年6月14日「Market Hack」より転載)