パブリック・スピーチの怖さ

およそ経営者に要求される様々なスキルのうちで、最も重要な能力は、社員、得意先、社会一般と瞬時に「つながる」ことのできる、卓越したパブリック・スピーチ力だと思います。

およそ経営者に要求される様々なスキルのうちで、最も重要な能力は、社員、得意先、社会一般と瞬時に「つながる」ことのできる、卓越したパブリック・スピーチ力だと思います。

ここで言う「つながる」とは、共感を得る、賛同を得る、関心を得る、認知を得る、理解を得るなどを指します

アメリカで、ある会社のCEOになるためにはパブリック・スピーチ力が要求されます。

若し、パブリック・スピーチによるコミュニケーションの力量が不足していると、例えば社員に対して目標設定をするというような、基本的なコトすら、なかなか徹底できなくなります。

するとメモを何度も出すなど、「布告による経営(management by decrees)」に陥ってしまいます。企業経営で、布告ほど無視されやすいものはありません。

つまり組織の敏捷さ(agility)、効率の良さなどは、CEOからの号令の徹底によってほぼ決まってしまうわけです。

アップルのスティーブ・ジョブズ、オラクルのラリー・エリソンなどの名物経営者は、パブリック・スピーチにチカラが漲っていました。

残念ながら日本の学校では、パブリック・スピーチ(public speaking)のスキルは殆ど教えません。

人前で喋る訓練が、まるで出来てないこと......これは僕自身、アメリカに来て、もっとも苦しんだことです。

どれだけアメリカ人より微分積分が出来たところで、サッと人前に出て聴衆を唸らせるような説得力とエネルギーに満ちたトークができなければ、自分は永遠に「使われる側」、つまり労働者階級に甘んずることになります

僕の考える優れたパブリック・スピーチは、次の三要素を盛り込んでいます:

1.聴衆の前で、自分のプレゼンス(押し出し)があること

2.ストーリー(実際のエピソード)をまじえること

3.データ(数値)により裏付けられていること

このうちの、ひとつでも欠落していると、もうそれは優れたパブリック・スピーチではありません。

例えば、ここ数日話題になっている『ハリーポッター』のエマ・ワトソンの国連におけるスピーチですが、これは悪い例の典型です。(ここでは彼女の主張に対し、賛同する、ないしは反対する意図はありません。あくまでもスピーチ・スキルの分析として引き合いに出します)

まず彼女の醸し出す雰囲気ですが、コチコチに緊張して、Terrifiedしている印象を与えます。

またメモを見ながらスピーチしており、これは拙いだけでなく、謝意を述べている来賓や主催者に対して失礼です。

またその場(=ここでは国連会議場)の空気をしっかりと受け止めていないと思います。

彼女の着ている服装は白い清楚な洋服だけど、まるでトレンチコートを思わせる、防御的(defensive)な印象を与えます。つまり押し出しが弱いわけです。

加えてスピーチの「ストーリー力」が弱いし、自分の主張のデータ(数値)による裏付けもいまひとつです。

フェミニズムの問題は、男性陣から反感とかを買いやすい、難しい主題なので、その「負のパワー」を利用して、背負い投げするような巧さが要求される場面ですが、残念ながらエマの主張は直球一本槍で聴衆は心を動かされていない様子が伝わってきます。

別の例として昨日LINEの田端さんがインディアナポリスで開催されているセールスフォース社の「CONNECTIONS 2014」に登壇しました。

僕はうっかり時間を間違えてしまったので、実は彼のスピーチのライブストリームを視聴していません。

(参考までに下は初日のキックオフの様子。喋っているのはセールスフォースのマーク・ベニオフ→エマのスピーチとは、パワーが全然違います)

でもツイッターにポストされた、下のスナップ写真を見ただけで(ああ、このスピーチは成功だったんだな)ということがすぐわかりました。

それはどうしてか? というと、田端さんは、まるで武蔵と小次郎が巌流島の決闘を行っているような塩梅で、モデレーターに対峙しているからです。その「場」を支配(own)できているかどうか、みなさんにわかりますか?

このステージは円形で、ちょうどプロレス会場のように360度聴衆に囲まれています。参加者は1800くらいだと思います。

ステージに演台は無いので、その後ろに隠れたり、メモを頼りに喋ることは出来ません。こういう場所では、頭のスイッチをOFFにして、ちょうど映画『スターウォーズ』でルークがそうしたように、Forceに頼る以外に無いのです。

優れた経営者はパブリック・スピーチの場を利用してアジェンダを設定し「戦場」を定義します。例えばアップル・イベントで言えば、スティーブ・ジョブズが「これからはタブレットだ」と言えば、タブレットが主戦場になるという風に。

自分に有利なような地形を指して「ここが戦場だ」と宣言し、終始、自分がリーダーとして振る舞い、他の多くの追従的企業に「金魚のフン」的な戦いかた(例:Sumsung)を強いるわけです。

(2014年9月25日「Market Hack」より転載)

Google共同創業者、ラリー・ペイジ

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