新国立競技場見直しについて:原科先生からの手紙

参加と合意形成研究会を主宰する原科幸彦先生は、アセスメントの世界的大家です。「アセスメント」とは「査定」のことで、事前に調査して決定することです。

新国立競技場計画は白紙見直しになりました。

これから、次の案を策定していくうえで、もっとも大事なことは合意形成の仕組みです。

参加と合意形成研究会を主宰されている原科幸彦(はらしなさちひこ)先生は、アセスメントの世界的大家でいらっしゃいます。

「アセスメント」とは「査定」のことです。

「査定」とは、事前に調査して決定することです。

我が国では「環境アセスメント」という言葉しかなく、かつ正確に運用されているとはいいがたいのですが、アセスメントには世界的なフォーマットがあるのです。

その原科先生より、新国立見直しに際してお手紙をもらいました。

昨年来いろいろな場面で私を励ましてくださいました。

私には、たくさんの私にとっての勝海舟先生がいらっしゃるのですが、原科先生はヨーロッパ文化における市民社会の成立と、その維持のための知的戦いについて、多くの示唆をいただいております。

【ハイブリッド会議なら、半年で答えを出せる。新国立】

原科です。

新国立競技場問題、緊要なのは、プロセスの透明性です。この先の監視、さらには関与をしっかりしないと、結局膨大な国費を消費することになりかねません。

今朝の朝日新聞第2面の報道で気になることが、2つありました。

●コンサートは維持費の助けにはならない

一つは、コンサート利用の件です。グランドに屋根がないと、「コンサート利用は制限され、将来的な収支を圧迫する可能性もある」との記述は、ミスリーディングです。

その理由は、ご存知の通り。天蓋を作るための追加投資の結果、維持費は年間数億円程度だったものが、一気に数十億円に跳ね上がる。これは、本末転倒。スポーツ施設に純化した競技場を作り、コンサート利用は、空いているときに貸すだけにする。特段の追加設備は不要です。

●整備計画づくりの進め方:透明性が鍵

もう一つは、整備計画づくりの進め方です。

文科省ではなく、今度は内閣官房に設置した再検討推進室で作るとしています。これは一歩前進ですが、それだけでは問題。再び不透明なプロセスになる可能性があります。検討プロセスの透明化を担保しなければならない。9月上旬をめどに計画を作るとしていますが、私は公開の議論をもとに計画づくりを行うべきと考えます。

私にはその成功体験があります。すなわち、実学としての社会工学の成果があります。

この方法は、IOCが定めたオリンピックムーブメント・アジェンダ21に適うものです。IOCのアジェンダ21では、計画策定の前に、environmetal impact study をして十分な環境配慮をするよう求めています。計画の見直しは、十分な環境配慮を求めていますが、その環境の中身が日本国内の概念と大きく異なります。アジェンダ21には、cultural.social and natural environment と明記してあります。すなわち、国内のアセス概念ではなく、国際協力分野で使われている、環境社会配慮の概念に近いものです。

このような多様なインパクトのチェックは一部の専門家だけに委ねるわけにはゆきません。問題に関わる多様なステークホルダーの関与も必要です。その方法はあります。専門家とステークホルダーが同じテーブルを囲むハイブリッドの公開会議の場をつくります。ハイブリッドモデルのメンバー構成による会議、ハイブリッド会議です。

このハイブリッド会議の場をまず作り、様々な助言を受けながら計画づくりを並行して行う。計画づくりとインパクト・チェック統合したプロセスが、計画づくりを成功に導きます。その成功例を、廃棄物処理計画紛争の解決や、国際協力分野での、合意形成が難しかった環境社会配慮ガイドライン作りの成功など、私はいくつも経験してきました。

このハイブリッドモデルを適用した、公開の会議で整備計画を作って行く、このことが透明性を担保してくれます。計画策定プロセスの透明性の担保が不可欠です。

そうすれば、これまで最も経費の多かったロンドン五輪競技場の650億円程度で、新国立競技場は造れるはずです。一部では、財務省は1800億円程度までは認めるだろうなどとの声も聞かれますが、とんでもない。そんな財政規律のないことでは、世界に誇れるオリンピック・パラリンピックにはなりません。

私のメモを、添付します。

(2015年7月27日「建築エコノミスト 森山のブログ」より転載)

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