基本構想策定義務付け廃止から5年 自治体が工夫をこらした「総合計画」のゆくえ

地方自治法における基本構想策定義務付けが廃止されたのは、地方分権の一環として市区町村の自主性の尊重と創意工夫の発揮を期待する観点から措置されたものである。

1.地方自治法改正による基本構想策定義務付け廃止の経緯とその影響

我が国の地方自治体の大部分は、まちづくりの基本的な理念や目標、方針などを定める基本構想、基本構想にもとづく具体的な施策を示す基本計画、基本計画にもとづく具体的な事業を示す実施計画などからなる「総合計画」を策定し、これにもとづいて行政運営を行っている。

このうち、最上位の計画である基本構想は、かつて地方自治法により市区町村に対してその策定が義務付けられていたが、地方分権改革の取り組みの中で、国から地方への「義務付け・枠付けの見直し」の一環として、地方自治法の一部を改正する法律(平成23年法律第35号)が平成23年8月1日に施行され、基本構想の策定を義務付けていた規定が廃止された。

弊社では、平成28年11月に実施した「自治体経営改革に関する実態調査報告」(全都道府県、市及び東京都特別区対象、回収率57.2%)の中で、地方自治体の総合計画の実態把握を行っており、その結果によれば、基本構想の計画期間は10年以上としている自治体が多いものの、基本計画の計画期間は5~9年以下としている自治体が多い。

基本構想策定義務付け廃止から5年以上が経過しており、既に少なくない地方自治体が、義務付け廃止後に基本構想や基本計画の改定期を迎え、それを契機に基本構想も含めた総合計画全体の位置づけや構成・内容の再検討を行っていると考えられる。

そこでここでは、前述の弊社調査の結果をもとに、地方自治体における総合計画の現状と今後の課題について述べることとする。

2.総合計画の策定状況

(1)基本構想の策定状況

総合計画の中でも、市区町村に対して長い間策定が義務付けられていた基本構想は、義務付けが廃止された現在でもほとんどの地方自治体が策定しており、前述の弊社の調査結果では、策定していない地方自治体は、元々策定が義務付けられていなかった都道府県の17.2%と、一般市の2.9%のみとなっている。

(2)総合計画を構成する計画の策定状況

基本構想策定義務付けの規定が1969年に地方自治法に設けられた際、別途旧自治省の委託調査報告である「市町村計画策定方法研究報告」により、基本構想を頂点とする総合計画の標準的な構成・内容が示された。

同報告は、総合計画は基本構想、基本計画、実施計画の3層の計画で構成することが「適当である」としており、当時の多くの地方自治体が同報告にそって総合計画を策定していた。

こうした経緯から、これまで大部分の地方自治体が3層の総合計画を策定してきたが、弊社の調査結果では、現在は、多くの団体が依然として3層の総合計画を策定しているものの、24.4%がそれ以外の構成で総合計画を策定している。

(3)従来とは異なる方針や計画の例

従来の総合計画とは抜本的に異なる方針や計画により行政運営を行っている例も、少しずつ見られ始めている。

例えば、神奈川県藤沢市では、地方自治法改正を契機として平成26年から「藤沢市市政運営の総合指針」にもとづく行政運営を行っている。

従来の総合計画と異なる点は、課題の緊急性、重要性を踏まえた重点的な取り組みを示すものであり、個別の分野別計画の上位計画ではなく、各分野を通じた重点化プログラムとしての性格を有している点である。

そのため、内容も基本方針(策定の背景と意義、構成と期間、めざす都市像、目標)、重点方針(喫緊に取り組む重点課題に対応するまちづくりテーマ、重点施策)に絞ったコンパクトなものとなっている。さらに、計画期間についても、機動的な見直しを重視し、首長任期に合わせ4年としている。

このように、策定義務付け廃止後もほとんどの団体が基本構想を策定している一方で、まだ多くはないものの、従来とは異なる構成の総合計画や、抜本的に異なる方針や計画により行政運営を行う例も見られ始めており、今後こうした計画の多様化が進む可能性がある。

3.計画の位置づけに関する動向

平成23年の地方自治法改正で廃止された基本構想の策定義務付けの規定では、基本構想は「計画的な行政の運営を図るため」のものとされていた。この規定が廃止されたため、基本構想の策定の是非だけでなく、基本構想や基本計画をどのような位置づけのものとするかも、改めて各市区町村が自ら定義することが必要になった。

総合計画が地方自治体の行政運営の目標や方向性を定める計画(以下、行政計画とする)であれば、計画の推進に責任を負うのは地方自治体であり、市民や事業者など地域の主体には、あくまで理解と協力を求めるにとどめることとなる。

これに対し、行政だけでなく、地域のすべての主体が目標を共有し、その実現に向けて取り組む事項を定める計画(以下、公共計画とする)であれば、地方自治体だけでなく、地域のすべての主体に一定の役割と責任を求めることとなる。

これまで、総合計画は行政計画として位置づけられている例がほとんどであったが、近年、市民等との協働による行政運営の重要性が指摘されていることから、総合計画を公共計画として位置づける例が見られる。

例えば、岩手県滝沢市では、基本構想を公共計画の性格を有する「地域社会計画」と位置づけ、さらに基本計画を市民が主体となる「市民行動計画」(地域別計画)、市行政が主体となる「行政計画」(市域全体計画)の二つの計画で構成している。

こうした計画の位置づけについても、策定義務付け廃止後の改定にあたっては、各地方自治体が改めて独自に検討、判断する必要があり、公共計画としての位置づけを有する総合計画も今後増加する可能性がある。

4.計画への数値目標設定の動向

地方自治体は、まち・ひと・しごと創生法にもとづき、地域の持続的な発展に向けた総合的な施策展開を位置づける「総合戦略」を平成27年度に策定した。この計画は、計画の基本目標と具体的施策に数値目標を設定し、これを用いた進行管理を行うことが義務付けられている。

「総合戦略」は、雇用、産業振興、子育て支援、生活環境など地方行政の幅広い領域の施策を対象としており、総合計画のうち、施策を位置づけている基本計画との関連性が高いが、弊社の調査結果では、基本計画のすべての施策に数値目標を設定している団体は5割強に留まっており、数値目標を全く設定していない団体も12.6%見られる。

総合戦略や地方創生交付金を用いた事業に対し、数値目標を用いた進行管理が義務付けられたことが契機となり、総合計画についても、数値目標を用いた客観性の高い進行管理に対する地方自治体や地域住民等の意識がこれまで以上に高まっており、今後、こうした取り組みが進展すると考えられる。

5.総括

地方自治法における基本構想策定義務付けが廃止されたのは、地方分権の一環として市区町村の自主性の尊重と創意工夫の発揮を期待する観点から措置されたものである。総合計画がその役割を終えたということではなく、前述の通り策定義務付け廃止後も依然としてほとんどの地方自治体が基本構想を策定している。

また、策定を取りやめる場合も、自治体が行政運営を計画的に行うためには、行政運営全体を見据えた中長期的な方針や計画は必要であり、藤沢市の例に見られる通り、新しい考え方にもとづく何らかの方針や計画が策定されると考えられる。

一方、引き続き総合計画を策定している団体でも、その構成や内容、位置づけは多様な事例が見られはじめている。国による一律の規定が廃止されたことで、今後は、こうした独自の工夫による個性的な総合計画が増加するものと考えられる。

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