歯科衛生士に見離された歯――歯科衛生士不足、最後にババをひくのは

歯科衛生士は一般的に離職率が高く、また復職が困難と言われています。歯科衛生士の99.9%は女性です。復職がむずかしい理由は女性の働く環境が整っていないことに起因するのです。

歯科衛生士ななぜ不足しているのか?統計から実情にアプローチして行きましょう。

■ 需要と供給がくずれてしまった歯科衛生士の雇用、東京都を例にすると...

今、東京では募集しても全く衛生士が来ない歯科医院が多数あります。

呼べど叫べど来ない衛生士。高額の求人掲載費を払っても反応なし。人材派遣会社に衛生士の給料の何ヶ月分も払い、やっと来たと思ったらすぐやめる。雇用者(主に歯科医師)との相性なんて関係ありません。採用マニュアルもへったくれもあったもんじゃない、超売り手市場です。東京にはこんな歯科医院がザラにあります。一体どうなっているのでしょうか?

■ 東京都の歯科衛生士と歯科医師数

東京都では保健所、病院、介護保険施設、事業所、歯科衛生士学校などの就業機関は10,620機関(平成22年 東京都福祉保険局)あるのに対し、都内の歯科衛生士数は10,822人。一医療機関あたり、1.09人となります。また東京都の歯科医師数は16,045人(平成24年)、一医療機関あたり1.51人となっており、全国平均と同数となっています。図1は人口10万人あたりの都道府県別歯科衛生士数です。東京都は対10万人あたり82.2人。都道府県別ですと30位と下位に属しますが、ほぼ平均に近い数値です。統計からは東京都の歯科医院には1医療機関に歯科医師が1.5人おり、歯科衛生士が一人いる計算となります。

では現場はどうでしょうか?

例えば、私の開業(東京都江東区)している近隣には知人の歯科医院が3軒あります。親密な付き合いがあり、頻繁に会って情報交換をします。よく上がる話題のうちの一つに歯科衛生士の雇用についてです。もちろん募集しても来ないといった内容です。この3軒のうち、2軒は歯科衛生士が一人もいません。もう一件も非常勤のパートが週に3日来るといった具合です。たまたま私の医院では、運がいいことに常勤の歯科衛生士一人と非常勤が2名おり、うらやましがられます。頭数だけでこの4軒を平均すると、1歯科医院に歯科衛生士が1人となりますが、非常勤の実質労働時間は常勤より短く、歯科医院によっては一日中歯科衛生士がいないところもあります。

実際の1医院数あたりの歯科衛生士数はおおよそこの半分ぐらいの0.5人となります。

この0.5人という値は、たまたま出た訳ではなく、実態に促しているのではないかと直感的に感じます。時々会う他の歯科開業医も歯科衛生士がやっと一人いたり、いなかったりと、東京都ではどこも同じ状況だからです。

この統計との差が出ている一つの要因に、歯科衛生士の未就業者の存在が関係しています。

■ 就業率と離職率

歯科衛生士の勤務実態調査(平成23年 日本歯科衛生士会)の報告では、「就業している」が84.8%となっています。就業者から換算すると、全国平均の一医療機関あたり1.51人から1.28人となります。

また、離職率は就業経験年数から推測可能です。歯科衛生士の平均就業経験年数(常勤)は、16.6年となっており、20年以上の就業年数は全体36.0%となっています。これは継続した勤務が難しく、歯科衛生士の3人に2人は一度(場合によっては複数回)職場から離れていることを示しています。

■ 再就職の高い壁

歯科衛生士は一般的に離職率が高く、また復職が困難と言われています。歯科衛生士の99.9%は女性です。復職がむずかしい理由は女性の働く環境が整っていないことに起因するのです。また、この傾向は歯科医療経済の悪化と共に強まっています。

そして、一度離職した歯科衛生士が職場復帰するには大きな壁があるのです。その一番大きな理由に65.2%が「長時間勤務」を挙げています。また、そのうち4割が長時間勤務によって「育児、子供の預け先」の確保が難しいという結果が出ています。

東京や大都市圏の歯科医師過剰地区では、診療時間を延長することにより歯科医院の経営を成り立たせている状況が続いています。この状態が続くかぎり、家庭環境を重視する歯科衛生士は、再就職の意思があっても希望と合致しません。家庭を重視する歯科衛生士と経営ありきの歯科医院。溝は深まるばかりです。次回、この問題の解決策を検討していきます。(続く)

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