夏の妖怪「カッパ」の大先生、和田寛さんが亡くなった 遺族「天国でゆっくり研究を」

頭に皿をのせ、背中に甲羅を背負うユニークな姿をしているカッパ。今は「ゆるキャラ」になるなどかわいらしさが人気ですが、もともとはとてもこわい妖怪です。

この夏、朝日小学生新聞の妖怪の取材で、民俗学の研究者からショックな話を聞きました。カッパ研究で有名な和田寛さんが1月に亡くなられていました。80歳でした。

和歌山県出身の和田さん。幼い頃、地元で「ガタロ」と呼ばれるタガメを育てたことがカッパに興味を持ったきっかけでした。ガタロはカッパの別の呼び名で、タガメのガタロは大きくなればカッパになると思っていたそうです。カッパへの興味は増し、小学生の頃は近所のお年寄りに昔話をよく聞いていました。

大学卒業後、和歌山県立図書館に勤務するかたわら、全国各地を訪ねてカッパの言い伝えを集めました。92年からカッパの情報誌「河童通心(かっぱつうしん)」を発行。96年の退職後に研究が本格化し、2005年に出版した「河童伝承大事典」には40年ほどかけて集めた伝承計5403件を収めました。12年には630ページからなる「河童の文化誌 平成編」も出版。大阪府堺市の自宅には、私設のミニ図書館「河童文庫」を開き、膨大な数のカッパの資料やグッズを置きました。

ご遺族によると、和田さんは今年1月31日に脳梗塞で亡くなられました。突然のことでした。カッパの資料は自宅にまだひっそりと置いてあり、河童通心は370号で終了したそうです。カッパのことになると話が止まらない性格で、「カッパはこわいですが、弱い面やかわいらしい面もあるのが魅力」と語っていた和田さん。ご遺族は、天国でカッパに会っているか、まだカッパの研究を続けているのでは、といいます。

子ども向けに語っていただいた、カッパについての朝日小学生新聞の記事(2013年8月15日付)を再掲載します。

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頭に皿をのせ、背中に甲羅を背負うユニークな姿をしているカッパ。今は「ゆるキャラ」になるなどかわいらしさが人気ですが、もともとはとてもこわい妖怪です。どんな存在で、なぜ親しまれるようになったのでしょう。カッパ研究者の和田寛さんに教えてもらいました。

収集していたカッパグッズを持つ和田寛さん=2013年7月30日撮影

Q(質問) カッパは本当にいるのですか。

A(和田さんの答え) カッパは鬼とてんぐとともに、日本を代表する妖怪です。人々が自然をおそれる心がカッパを生み出し、話がつくられました。そのため、カッパはこの世に存在しません。

Q 何がモデルになったのでしょう。

A 各地に古くから言い伝えがあり、地域によって姿がちがいました。動物ではカメ、サル、カワウソ、鳥など。人では食料不足で飢えに苦しんだ時代、育てていくことができずに川に流された悲しい子どももモデルになったと考えられています。江戸時代の1750年ごろ、今の姿のカッパが登場します。当時の学者が各地のカッパを合体させたようです。

カッパは水の神様とされていることが多いです。泳ぐのが得意。キュウリや相撲が好きで、刃物が苦手です。

こんな姿の「カッパ」も。弥兵衛作「河童図」(1936年) 千葉県立中央博物館大利根分館所蔵

Q おそろしい妖怪なのですか。

A たとえば、人を水中にひきずりこみ、おぼれさせます。人の口に手を入れて、肝(命)を抜いて食べてしまいます。女性にばけて男性の血を吸う話もあります。

私は全国で聞き取り調査をした5千以上のカッパの民話を『河童伝承大事典』として出版しました。自分でもよくこれほどカッパのこわい話があるなと、思います。

Q なぜこわいことをするのでしょう。

A 自然をよごすなど人の悪い行動が原因になることが多いです。背景には、昔は農家がたくさんあり、生活と深く関わる自然をとても大切にしていたことがあるのでしょう。しつけに使うねらいもあったようです。

カッパには弱点ややさしい面もあるのが魅力です。頭の皿の水がこぼれると、力を出せなくなるのですが、相撲で対戦相手の人が礼をするのをまねて水が流れてしまいます。農家に水のめぐみを与えることもあります。

Q 今のカッパはかわいらしいです。

A 昭和の時代にカッパのイメージが変わっていきます。大きな影響を与えたのが1951年に漫画家の清水崑(故人)が「小学生朝日」(朝日小学生新聞の前身)に連載した「かっぱ川太郎」です。かわいさを追求したカッパが広がるきっかけになりました。カッパを使った町おこしが行われるようになり、環境保全のシンボルとする活動も増えました。最近は、地域のキャラクターとしてカッパの「ゆるキャラ」が各地で活躍しています。

1951年に漫画家の清水崑(故人)が「小学生朝日」に連載した「かっぱ川太郎」(和田さん所蔵)

Q 江戸時代からずいぶんかわりましたね。

A かわいい姿ばかり注目されるのは、人が自然を敬わなくなったこともあるかもしれません。少なくなっているカッパ伝説の語り手を育て、本来の姿を伝えていく必要があると思います。

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