福島・請戸小の記憶伝える絵本が完成 震災の教訓描く

福島県浪江町の請戸小学校の記憶を伝える絵本ができました。東日本大震災で津波におそわれ、東京電力福島第一原発事故の影響で子どもがばらばらになった学校。全児童が津波から避難して無事だったことなどを描き、震災の教訓を伝えています。

福島県浪江町の請戸小学校の記憶を伝える絵本ができました。東日本大震災で津波におそわれ、東京電力福島第一原発事故の影響で子どもがばらばらになった学校。全児童が津波から避難して無事だったことなどを描き、震災の教訓を伝えています。制作したNPO法人が希望者に送料代のみで送ります。

題名は「請戸小学校物語 大平山(おおひらやま)をこえて」。小学生高学年向けで約40ページ。3月27日に完成しました。

絵本は、子どもたちの声がひびく請戸小の学校生活から始まります。地震後、子どもの意見も参考に山道を登って逃げたり、たまたま通ったトラックにのせてもらい避難所にたどり着いたりしたことなどが描かれています。

武蔵野美術大学4年の榎田宣行さん(24歳)やライターの黒沢歩美さん(29歳)らが、被災地の支援活動などをするNPO法人「団塊のノーブレス・オブリージュ」(東京都新宿区)と協力して制作しました。

去年3月、榎田さんらが同NPOの企画で浪江町を訪ねたのがきっかけです。津波で壊れた請戸小を見て被害の大きさに驚き、子どもたちが避難して無事だったことも知りました。町の関係者から被害状況の説明も受けました。

「浪江町で起きたことを風化させてはいけない」。絵本を作り全国の子どもたちに伝えていこうと、帰りのバスの中で考えました。この企画が福島県の地域づくり総合支援事業に認定され、補助金を受けて絵本制作のための取材活動が始まりました。

海岸から約300メートルにある請戸小。今の請戸小校長の佐藤恭司(さとう・やすし)さんによると、4年前の3月11日の地震発生時、校内には1年生をのぞく子ども82人がいました。先生たちが子どもを校庭に避難させ、学校から1.5キロ離れた大平山を目指して走りました。地震から40分ほどで山中に入り、その約10分後に請戸小は津波におそわれました。

榎田さんや黒沢さんらは浪江町を数回訪ね、請戸小に通っていた子どもや震災当時の先生、住民に話を聞き、避難ルートを実際に歩きました。絵本では取材したことをていねいに文と絵で表現し、最後は「あなたにとっての大平山はどこですか」と、災害の備えを呼びかけました。

榎田さんは「地域のことをよく知り、逃げる場所を知っておくことが請戸小の教訓になる」。黒沢さんは「浪江町では震災で多くの人が亡くなっています。生きていることは当たり前ではない、ということも伝われば」と話します。

佐藤先生は、絵本ができたことを喜びます。「請戸小の子どもたちはばらばらになりましたが、みんなで学校生活を送り、避難して助かったことを後世に残していけることになりうれしいです。日本各地でさまざまな災害が起きる可能性がありますので、絵本を通じて教訓に生かしてほしいです」

絵本は5000部発行。巻末で避難の経緯などを時系列で詳しく紹介しています。NPO法人「団塊のノーブレス・オブリージュ」が希望者に発送します。詳しくは、担当の内田靖司さんのアドレス(uchida@dankai.jp)へ。内田さんらは紙芝居も作り、読み聞かせ活動もしていく予定です。(*記事中の肩書きなどは取材当時のものです)

朝日小学生新聞3月29日付の記事に加筆しました。紙面について詳しくはジュニア朝日(http://asagaku.com/)。

注目記事