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菅原琢 Headshot

2013年東京都議選の簡単なデータ分析

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東京都議選について簡単な分析を行ったのでここで紹介しておきたい。

自公圧勝の背景
都議選についての個人的な注目点は、現在の安倍自民党の世論調査に見られる数値上の「好調さ」がどの程度選挙結果に反映されるかである。2012年衆院選では、自民党は議席数では大勝を収めたものの、得票数などのデータは大敗を喫した2009年に比較しても悪化していた。有権者のうち比例区で自民党に投票した割合(絶対得票率)は17%以下であった。その後、株価の上昇等に代表される景気の気の部分の向上もあり、安倍内閣と自民党の支持率は高く推移している。

しかし、世論調査結果と選挙結果は単純にリンクするものではない。また内閣支持率は、政党支持が流動化している現在では乱高下しやすい状況にある(『「政治主導」の教訓』所収の拙稿参照)。世論調査だけでなく、実際の選挙結果でも、安倍自民党の支持が着実に浸透しているのかどうか、2012年衆院選で示された有権者からの不人気ぶりが、本当に変化したのかどうかが知りたいポイントである。都議選は参院選の前にこれを分析できる機会である。

ただし、東京都議選は地方選挙であり、国政選挙であり制度も異なる衆院選挙結果と比較するのは複雑な手続きが必要となる。そこでここでは、単純に前回09年の都議選と今回とを比較することで考えていきたい。09年は政権交代直前であるため、底値の自民党との比較という点で有意義な分析対象である。

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表1は今回の都議選の結果を前回との比較で示したものである。この表からは、自民党は圧倒的な支持を集めているとも言えないが、底値よりは回復傾向にあることがわかる。得票数は前回に比較して17.5万票伸びた程度であり、もともと自民党の支持率の低い東京とはいえ、内閣支持率60%超、政党支持率40%といった世論調査の数字の印象ほどには同党への評価は回復しているわけではない。

一方、相対得票率は10ポイント程度の大幅な伸びとなっている。これは投票率が54.5%から43.5%へと急落したことにより、票を維持した自民党が相対的に浮かび上がってきたということを示す。有権者数に占める自民党候補者の得票数(絶対得票率)は15.4%に過ぎない。それでも、表2に示すように、自民党と公明党は全公認候補を当選させ、大勝となっている。議席率はそれぞれ46%、18%となっており、議会の過半数を制している。

共産党倍増のメカニズム
自民党、公明党と同様の選挙結果を残したのが共産党である。得票数、絶対得票率は低下しているが、投票率の下落のおかげで相対的にポジションを上げ、議席を倍増させることに成功している。ネット選挙運動解禁を前にして皮肉なことだが、昔から根を張った組織選挙が有効だったという結果である。

もっとも、共産党は表1に示したようにわずか1ポイントの相対得票率を向上させたに過ぎない。それにもかかわらず、議席を倍増させているのはやや奇妙にも思える。図1は、3人区以上の選挙区における最下位当選者の得票率を比較したものだが、過半の選挙区で当選ラインが低下しており、共産党が議席を新たに得た選挙区の多くがここに含まれている。

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わずかな得票率の増加で共産党が議席を倍増させることができたのは、自公以外は候補者過多で乱戦になり、当選ラインが下がったためである。今回共産党は、17人中8人の候補が最下位で当選している。維新の会やみんなの党が多数の候補を擁立し、民主党候補から票を奪い、共産党が相対的に浮上したというのが基本的な説明になるだろう。朝日新聞のような護憲・反原発の訴え届くという解釈は1番目には来ないだろう。

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図2は、全得票に占める落選者の獲得した票の割合(死票率)を定数別に示している。3人区を中心に多くの選挙区で死票率が増加していることが明らかである。全体の集計でも22.6%から28.5%へと増えている。

こうした構図は前回の衆院選挙と大きな差は無い。今回の選挙が東京都という日本最大の都市を舞台とし、複数定数の中選挙区が中心となる選挙であるという条件や環境の違いが、自公だけでなく共産党にも「漁夫の利」をもたらしたのだと言えるだろう。

みんなの党vs.維新の会
2012年衆院選と大きく異なる印象の結果もある。日本維新の会の大敗である。読売新聞は「橋下共同代表の「慰安婦」「風俗」を巡る発言で苦戦し2議席にとどまった」と指摘しているが、都議選の結果でこれを確かめることは難しい。そもそも、政党支持率などのデータは継続的に低下しており、「発言」を殊更に理由として取り上げなければならない理由は、新聞記事の構成上はともかくとして、データ分析上はない。

2議席に終わった維新の会の一方で、7議席を獲得したみんなの党に自然と注目が集まる。2と7を比較すると大きな開きがあるように見える。両者に「勢いの差」があるとする論調は正しいように思える。しかし表1に示した得票数ではそれほど差はなく、むしろ維新の会のほうが上回っている。もっともこれも、維新の会が無駄に候補者を擁立したために増えているとも言える。

そこで、維新の会とみんなの党の両党の候補が出馬した選挙区のみを取り出して、得票率を比較したのが図3である。まず重要な点として、両党が同時に当選した選挙区はひとつもないことが指摘できる。そのうえで、みんなの党の候補者が差をつけて当選している選挙区がいくつかあるが、全体的に見ると似たような得票率の選挙区のほうが多いように見える。

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候補者の質などの要因により、どんぐりの背比べから抜け出してみんなの党の候補者が当選した選挙区がいくつかあり、議席数で差がついたものの、得票率で見ると議席数の印象ほどには両党に差はないと言えるだろう。このように両党が似たような程度の票を分け合い、さらには民主党候補の得票を奪った結果として、共産党候補が浮上したと考えることができそうである。ただしこれをさらに検証するためには、票の動きを見る必要があるため、世論調査データで有権者の行動を分析しなければならない。

まとめと議論
以上の簡単なデータ分析をまとめると、次のように言えるだろう。

自民党はどん底に比較して着実に支持を回復していることは確かだが、世論調査の内閣支持率や政党支持率の印象からは程遠いことがわかる。言い換えれば、世論調査で肯定的な回答を引き出してはいるものの、それらの人々を投票所に呼び寄せて投票させるまでには至っていない。小泉政権と比較されるが、小泉政権下の選挙では投票率が上がり、自民党は得票を増やし勝利しているので、様相は全く異なる。敵が弱くなっただけで自分が強くなっているわけではない。また、安倍~麻生内閣期に失った支持者はほとんど帰ってきていない。

自公にとっては、今回の都議選はひとつの地方選挙結果でしかない。また自身の好調さを示す材料では決してない。参院選はともかく、その後の3年間を安定して政権運営していくためには、支持が高く安定しているうちに実績を残して政権内の基盤を固めるのが大切だろう。『SIGHT』5月号で述べたように、世論調査で「よりマシ」「とりあえず」で消極的に支持されているのが安倍内閣の状況であり、こうした数字はいつ崩れても不思議ではない。

自民党と公明党の楽な状況を支えているのは、他党の選挙戦略の不味さである。票読みも満足にできない新党にとって、候補者擁立戦略や選挙協力などの交渉が難しいのは致し方ないことだが、結果的に、ふたたび、漁夫の利を与えてしまったのだから、支持者、投票者の利益を蔑ろにしたと言ってもよいだろう。自党の存在感と交渉力を高め、支持者に利益をもたらすためには、政策の異なる他党とも協力する必要がある。

根本的には、棄権者の増大が衆院選に引き続き問題である。棄権者は現状に満足しているので他者に委ねているのだという解釈もあるが、(今回の選挙のデータは持っていないが)実際には政治への不満を表明する割合は棄権者のほうが高い。票に託すほどの魅力的な選択肢が存在していないから棄権する人のほうが多いと考えられる。少し前までは民主党がその期待と不満の受け皿となっていたが、結局誰の味方をし、何をしてくれる政党なのか、所属議員ですらわからず、あるいは見解が一致せず、固い支持層を作り上げることができずにジリ貧となっている。

野党がこの状況を打開したければ、互いに協力して選挙を戦うことが重要となる。次の参院選を逃せば3年間チャンスはやってこない。また、7月の参院選に限らず、棄権者となった人々をいかに投票所に足を運ばせるか、地道な戦略を練る必要がある。衆院選で棄権した4割の有権者は広大な「票田」であり、選挙結果を反転させる力を持つ。今回の選挙でも示された棄権者の増大の問題は、有権者側の問題ではなく、魅力的な選択肢を提示できない政界の側の問題である。各党独自の異なる政策位置で支持層を開拓しつつ、小選挙区などでは協力していくような柔軟さが必要である。

(この記事は「311後の日本の政治論壇」6月24日の記事の転載です)