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『若い男性でも油断禁物? 栄養不足による貧血』〜血液内科医・女医の貧血観察記

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前回、長距離ランナーなどは男性であっても、汗による鉄分喪失や足底の衝撃による赤血球の溶血により、鉄欠乏性貧血になるというお話をしました( http://medg.jp/mt/?p=6734 )。今回も男性の鉄欠乏性貧血について少しお話ししたいと思います。

貧血のある患者さんが外来を受診されると、たいていの場合、まず医者は出血による鉄分不足を起こしていないかを確認します。若年女性であれば月経による出血、高齢者であれば男女問わず胃がんや大腸がんによる出血が貧血の原因となりやすいからです。もちろん、それ以外にも、栄養不良であったり、溶血であったり、さらには造血そのものの障害(白血病や再生不良性貧血といった病気)も考えながら診療していきます。

となると、月経もなく、がん年齢でもない、10〜20代の男性が貧血を主訴に受診されると、単純な貧血ではないかも...とこちらも少し身構えてしまうのですが、予想に反して、鉄欠乏性貧血だった症例をご紹介します。

知人の医師から、貧血の男子高校生を紹介されたことがあります。少し細めの体形でしたが、サッカー部に所属し、極端な好き嫌いもなく、大食いではないがしっかり食べていて、標準的な健康状態に見えました。しかし部活では疲れやすさを感じるようになっていましたが、採血でも鉄欠乏性貧血が確認されました。黒色便や血尿もなく、出血による貧血は考えられません。

他の血液疾患は考えにくく、鉄剤の投与に反応もよいため、鉄分補充で経過をみることにしました。成長期には身体が大きくなるために血液量も増えますし筋肉などを作るのに鉄分も必要とされます。このため相対的に鉄分不足になる可能性があります。かつ、運動部に所属し、そこそこ走り込みをしていたようなので、前回説明したような汗による鉄分喪失と、足底の衝撃による溶血性貧血があったと考えています。

もう1人、20代前半の男性が貧血で受診されたことがあります。身長180 cm以上で中肉中背な男性ですが、顔面が真っ白でものすごく疲れているように見えました。ボクシングをしていたのですがフラフラして練習についていけないというのです。

今まで大きな病気をしたこともなく、胃腸も問題ないというのですが、採血すると血色素量(Hb) 7.0 g/dL前後とかなり低値でした。実際、胃や大腸は検査しても問題なかったのですが、よくよく話をきくと、1日1食程度というのです。私だったらとても耐えられません。

しかもボクシングのための減量というのではなく、普段からコンビニ弁当1個という感じだったようです。自炊が苦手という男性は多いと思いますが、彼もその1人で、かつ収入減がバイトのみだったので食費を削るしかなかったようです。そのうち食べなくても我慢できるようになったと言っていましたが、180 cm以上の大きな身体を維持するための栄養を摂るには、1日1食ではまったく足りません。

貧血は、汗などで鉄分をロスしているのに加え食事からの補給がなかったために起きたのでしょう。外食でもコンビニ弁当でも、食べないよりはマシ、とにかくいろいろなものを食べるように言いました。貧血そのものは鉄剤で改善しましたが、現代型栄養失調の一つと言えるかもしれません。

鉄分は、吸収率が低い栄養素のひとつです。鉄分には、水溶液中では二かの鉄イオン(Fe2+)と、三価の鉄イオン(Fe3+)があります。食品の中に含まれる鉄分は、動物性食品に含まれる「ヘム鉄(二価鉄とタンパク質の複合体)」と、植物性食品に含まれる「非ヘム鉄(ヘム鉄以外)」があります。動物性の鉄分はヘム鉄の形でそのまま吸収することができるので、身体への吸収率は15-30%程度です。

しかし非ヘム鉄は三価鉄のためそのまま吸収することはできず、ビタミンCや消化酵素で二価鉄に還元されてから吸収されます。植物性の鉄分の吸収率は5%以下と低いのですが、ビタミンCや動物性タンパク質と一緒に摂ると吸収率を上げることができます。また食物線維やタンニンで吸収が阻害されやすいとされています。

鉄含有量の多いものは豚レバーです。100 gあたり13mgと牛や鶏のレバーよりもやや多いのです。ほかに、しじみやあさり、ホタテなどの貝類、鶏ハツや牛ヒレ肉、マグロやカツオなどの動物性の食材に多く含まれます。非ヘム鉄はひじきやほうれん草、プルーム、切り干し大根、大豆などに含まれます。

ビタミンCはパプリカ、ブロッコリー、キウイ、いちご、オレンジなどに、クエン酸は梅干し、酢、柑橘系フルーツなどに含まれているので、これらを一緒に摂ると鉄の吸収を助けてくれます。

赤血球に限らず身体の細胞を作るにはタンパク質やミネラル、脂質などいろいろな栄養素を必要とします。赤血球も同様に、水、タンパク質、脂質といった成分で作られます。加えて、鉄、ビタミンB12、葉酸も赤血球を作るのに重要な要素です。

しかし、市販の惣菜や外食、レトルト食品などで簡単に食事を摂れるようになった現代では、むしろこれらの栄養バランスを安易に崩してしまっているかもしれません。

今回紹介した2例は、必ずしも10-20代男性の貧血の典型ではないかもしれませんが、成長期の男性には身体をつくり支えるために十分な栄養が必要であること、動きの激しいスポーツに取り組む年代であるため汗などでの鉄分消費も多くなることから、貧血と無縁というわけではありません。かつ、20代男性の例のように、高校卒業や就職などで親元から離れ自分で食生活を管理するようになると、ついつい食事をおろそかにしてしまうことが懸念されます。

鉄欠乏性貧血は最初の症状の1つに過ぎないかもしれません。健康で元気な身体をつくるためには、鉄分以外にもたくさんの栄養素をバランスよく摂る必要があります。若い男性が貧血を指摘されたのであれば、生活全体を見直すきっかけとしてみてはいかがでしょうか。

(2016年5月30日「医療ガバナンス学会」より転載)