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体育会系男子も要注意!スポーツ貧血は女子だけの問題じゃない ~血液内科医・女医の貧血観察記

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前回から間があいてしまいましたが、引き続き、運動をする人の貧血についてお話したいと思います。

前回までは、鉄欠乏性貧血になりやすい女性患者さんを例にあげて、「貧血の症状に気がつけるかどうか」ということを紹介してきました。日常生活の軽い動きでは軽度の貧血症状は気づきにくいかもしれないこと、息切れや動悸を感じても体力低下のせいにされて見過ごされがちであることや(http://medg.jp/mt/?p=6058)、その一方で、走ったり山に登ったりするような運動をしていて、瞬発力や持久力の低下、タイムの低下などから貧血を疑って受診されるケースがあることも紹介しました(http://medg.jp/mt/?p=6163)。

しかし、貧血は若い女性だけの病気ではありません。たとえば高齢者では男女を問わず貧血がきっかけでがんが発見されることがあります。そして持病のない比較的健康な若い男性や十代の若者でも、貧血になる可能性は十分にあります。むしろ健康で活発にスポーツをしている人ほど気をつけたほうがいいかもしれません。「身体は丈夫だから」という思い込みから、うっかり貧血の存在を軽視してしまうかもしれないからです。

先日、30代の男性が貧血の経過を見たいからと受診されました。前年の健康診断で貧血を指摘されていたそうです。健康診断の結果は持って来られなかったので詳細は不明ですが、Hb 10〜11 g/dLとやや低めの数値だったようで、鉄欠乏性貧血と診断され、食事療法を指示されたそうです。くらくらしたりする自覚症状があったらしいのですが、食事に気をつけるようになり、また栄養状態の改善について栄養士の指導をうけるようにしたところ、自覚的にはかなり改善したと言っていました。

鉄欠乏の原因としては、便潜血が陰性なので消化管出血はなく、胃の調子もよいので吸収障害もなさそうです。しかし、実は毎日10 km以上の距離を走っており、自分でもそれが原因のスポーツ貧血ではないかと自覚していました。

スポーツ貧血はなぜ起こるのでしょうか。

貧血の原因は、「出血」「赤血球の産生低下」「溶血」の大きく3つに分けられます。

「出血」は、怪我をしたり胃潰瘍や食道静脈瘤から出血したり、あるいは月経などで出血してしまい、血液量が減ってしまうことです。

「赤血球の産生低下」は、血液の生産工場である骨髄の異常があったり、赤血球の材料となる鉄分やビタミンB12、葉酸、ビタミンCなどが不足したり、あるいは造血刺激因子が出なくなったりすることで起こります。

「溶血」とは、赤血球が壊されて破れてしまう状況です。赤血球自身がもろくて壊されたり、自己抗体という攻撃因子ができて赤血球を壊したりすることもありますが、激しい運動をすると物理的衝撃で壊されてしまうことがあります。

スポーツ貧血は、これらのうち、「鉄欠乏性貧血」(=産生低下)と、「溶血性貧血」の2つが原因とされています。

鉄欠乏性貧血は女性などで多くみられる一般的な貧血のひとつです。出血などで血液が失われても起こりますし、鉄分の吸収障害や、食事による鉄分摂取の不足によっても起こります。アスリートの場合、必要量よりも排出量が増えてしまうと考えられています。なぜなら、多量の汗とともに鉄が体外に流れ出ていき、また運動後は鉄分が尿から対外に排出されやすくなります。

激しい運動をすると胃や腸が弱って出血してしまうこともあります。このように通常よりも排出量が増えやすいのです。一般的な食事よりも鉄分を摂取するよう心がけなければいけませんが、競技によっては体重制限のために食事を制限することがあり、さらに鉄分不足を助長することになります。

溶血性貧血は、足底部に繰り返し衝撃を与えることで赤血球が機械的に壊されたり、激しい運動によって代謝性アシドーシスという状態になり赤血球が壊されたりするために発症します。

このようなスポーツ貧血は、マラソン、剣道、新体操などでよく見られます。マラソンも剣道も足裏への強い刺激が繰り返し加わるために溶血がすすみ、また夏場には汗をかきやすいために鉄欠乏にもなりやすいからです。新体操は着地時の足底への刺激のほか、厳しい食事制限で鉄分の摂取不足になりやすいからです。

貧血の存在は、圧倒的に選手のパフォーマンスを落とします。数年前に箱根駅伝を制覇した大学駅伝チームのエースも、一時期は貧血に悩まされ成績が伸び悩んだ時期があるそうですが、スポーツ栄養士の指導により貧血を克服したところ成績が伸びたのだそうです。

本格的な競技者はもちろんのこと、健康のためや楽しむために運動をしている方がスポーツ貧血を発症してしまうのは本末転倒です。さきほど紹介した男性は、自分でも食事の栄養バランスに気をつけたり鉄分のサプリメントを摂ったりしていましたが、採血検査ではまだ鉄分不足の状態がありそうでしたので鉄剤を処方し経過をみているところです。

ただ、毎日10 km以上ときには40km近い距離を走っているとのことでしたから、むしろ運動量を減らすことも考えた方がいいかもしれません。スポーツを楽しむ人は、この落とし穴に気を付けてください。

そしてこのスポーツ貧血、実は、中高生においても注意が必要です。次回、その話をしたいと思います。

(2016年5月20日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)