毎日新聞とマイクロソフト協業の真相から考察する新聞社サイトの将来【後編】

リリースされたMSN毎日インタラクティブは、いくつかの新しい発想を持ち込んでいた。

この記者発表後、ちょっとした逸話がある(画像は2004年1月30日付、毎日新聞朝刊より)。

ひとつは発表後、時事通信社の偉い方から私のデスクに直電が入り「なんてことしてくれんだ!」と怒鳴られたこと。もうひとつは、読売新聞の社長室からマイクロソフトの社長室に連絡が入り「なぜ、ウチと交渉しなかったのか」と咎められたことだ。

先の読売新聞を訪ねた際の事情を伝えると、私との会議に出席した次長たちの名刺を開示させられた。その後、その次長たちは全員、デジタル部門から他部署に異動が決まった。日本の会社は誠に恐ろしい。

リリースされたMSN毎日インタラクティブは、いくつかの新しい発想を持ち込んでいた。それまで新聞社のシステムは、「速報」、「あさ刊(朝刊)」、「夕刊」という新聞紙面制作向けにタグ付けされていた。それを「政治」、「経済」、「国際」、「スポーツ」、「社会」などカテゴリーを特定し、そのカテゴリーごとにニュースを振り分けるタグを追加したシステム構築を頼んだ。

さらに「インフォメーション・アーキテクト」、つまり「情報設計」を徹底した。Yahoo!ニュースのトップページを見てもらえれば判りやすい。上部のメニュー・バーは「トップ」、「速報」、「写真」、「映像」、「雑誌」、「個人」...と続く。

これはカテゴリーをメインにしているのではなく、ソースごとに情報を振り分けている。「情報設計」よりもシステムを優先していることの表れで、その下層(メニュー・バーの二列目)でカテゴリー分けしている。

職業病の一種だろう。今になってもニュース・サイトを軒並みチェックするのは趣味のようなものながら、MSN毎日インタラクティブほど、この設計が徹底されたニュース・サイトは今もって存在しない。少々手前味噌を思ってもらっても構わないが...およそ真実である。

毎日新聞との協業解消後、MSNは産経新聞と手を組むが、このカテゴリー設計とインフォメーション・アーキテクトは持ち込まれずに終了。どこにでも転がっている新聞社が作った読みにくいニュース・サイトの域を出なかったのは残念でならない。

(画像は、2004年3月16日、毎日新聞朝刊より)

ここからは推察になるが、昨年の産経新聞との提携解消は、マイクロソフト本社から新設計を日本のMSNにも適応させるようトップダウンで下されたに過ぎないだろう。日本の実務者も本社の意向に尻尾を振る為、それを受け入れたことにより、産経と袂を分かち独自路線を歩む判断に従ったであろう。

こうしてMSNの将来を見据えない、自身の業績を優先する実務者の判断により、MSNは「ポータル・サイト」の表舞台から退場して行くに違いない。5年先、10年先を見据えない短期的利益ばかり追及せざるをえない日本子会社の悲しい現実がそこにある。

元プロデューサーとしては実に残念なことではあるが、マイクロソフト本社、元を辿ればビル・ゲイツをもってしても、インターネット、そしてスマートフォンの広がる未来を予見できなかった。その戦略ミスにより、マイクロソフトは、インターネット・プロトコルに載せたコンテンツ領域への注力を放棄せざるをえなかったと考えることができる。

もっとも筆者のような一般人からすると、現在マイクロソフトが構想しているであろう大きな将来的ビジネスについては、想像もできないのではあるが。

MSN毎日インタラクティブをリリースした際、毎日新聞社内でキックオフ・パーティが行われた。その中でスポニチの責任者はわざわざ檀上に立ち「スポニチは、絶対にマイクロソフトとの業務提携は行わない」と怪気炎を上げていた。果たして現在、「スポニチ」というブランドの力で、同社サイトのスポーツ・ニュースを読むユーザーがどれほどいるだろうか。

私自身が現場を去ってしまい具現化しなかったが、その後、日刊スポーツとMSNスポーツのコブランディングを画策しており、双方とも交渉の席に着く準備が進んでいた。これもスポーツ・サイトの歴史を変えることになったかもしれないと振り返ると少々残念でもある。

元CNNのスポーツ・ディレクター、CNNインタラクティブのdeputy editorでもあり、こうしたニュース・サイトをプロデュースした私自身が、現在は「Yahoo!ニュース個人」の執筆者であるのも、Yahoo!ニュースの現在の優位性を語っており、皮肉でさえある。

コンテンツの現場を去る際、つまり10年前のことだが、いくつかの新聞社の方から「新聞社は、これからどうすべきか」とアドバイスを求められた。「談合と受け取られても仕方がないが、すべての新聞社がポータル・サイトへのニュース配信をストップさせ、テレビ局などとの協業ニュース配信を行い収益化すべきだ」と回答したものだ。

新聞社が配信事業により目に見える程の収益を確保するに至ってしまった今となっては、この方策を実施するのは不可能だろう。

今後、新聞社がニュース・サイトで収益を上げるためには、全紙、通信社、全テレビ局で課金システムを作成し、その課金から得られる収益をアクセス数ごとに各社に分配するしかないと考える。つまり日本市場において無料でニュースが閲覧できるのは、短文のTwitterのみ...というような構図を確立するしか、生き残るための手段は残されていないだろう。

Yahoo!ニュース以外、「まとめサイト」ばかりが蔓延るニュース・サイトは、いったいどこへ向かって進むのだろうか。今後、新聞社のニュース・サイトの行方はいかに、新聞社は生き残ることができるのか...。

朝日新聞、日経新聞、読売新聞が共同で運営していた「あらたにす」サイト(記憶している方も、もはや少数派だろう)の一部スポーツ・コンテンツ制作を担当していた時期もあった「ニュース・サイト」ウォッチングの専門家として、また、いち執筆者として憂うばかりだ。

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