ジョン・ケネディ大統領が誕生した1960年のアメリカ大統領選挙を詳細に描いてピュリッツァー賞に輝いた一冊です。

ゴールデンウィークを前に、久しぶりにおすすめの一冊です。

今回は、Theodore H. WhiteのThe Making of the President 1960 です。

ジョン・ケネディ大統領が誕生した1960年のアメリカ大統領選挙を詳細に描いてピュリッツァー賞に輝いた一冊です。

セオドア・ホワイトはこの後、1964年、1968年、1972年の大統領選挙も書いています。個人的には1960年の次は1968年が面白いと思います。

さて、1961年に出版された本ですが、2009年にシリーズで新版が出版されています。

私は、30年以上前ですが、ジョージタウン大学のブックストアで中古で買いました。

かつて何度か読み返したのですが、今回、トランプ候補が当選したり、米日財団でキャロライン・ケネディ大使と一緒に理事を務めることになったり、ということがあったので、ややボロボロになってますが、改めて引っ張り出しました。

1960年の大統領選挙は、予備選挙を行う州もありますが、予備選挙に出るかどうかも戦略のうち、という時代です。

1952年、1956年の民主党大統領候補アドレイ・スティーブンソンは、その熱狂的な支持者が再出馬を望んでいましたが、本人は態度を明らかにしませんでした。

そのため、支持者は党大会で過半数を取る候補者が出ることを阻止して、代議員にスティーブンソンを選ばせることを目指しました。

民主党の候補者のうち、最左派のヒューバート・ハンフリー上院議員はミネソタ州以外では知名度が低いため、予備選挙を戦って勝って候補者としての地位を固めていく必要がありました。

しかし、選挙資金が限られているため、どの州の予備選挙に出るかを戦略的に検討しなければなりません。

注意深く選んだ予備選挙で勝ち続けて150-200の代議員を獲得し、民主党内の市民運動家とスティーブンソン派の支持を得て、その力を背景に、東部の政治ボスにハンフリーを印象付けて、選ばせるというのが戦略でした。

ワシントンDCとオレゴン、サウスダコタは左派が強くハンフリーが勝てるけれど、そこで勝っても誰も驚かない。

そこでウィスコンシンとウェストバージニアの予備選挙で勝って、ハンフリーの強さを印象付けようとしました。

ミズーリ州以外ではやはり知名度の低いスチュアート・サイミントン上院議員の戦略は、違いました。

サイミントン陣営は、民主党大会は誰も必要な過半数が取れないデッドロックになると予想しました。

その時に大都市、南部、労働組合、黒人といった民主党内の大きな勢力の間で、最も選ばれやすい候補者としてサイミントンが名乗りを上げ、ミズーリ州出身の民主党のトルーマン元大統領が各グループに働きかける。そのためには敵を作りかねない予備選挙には出ない。

テキサス州出身のリンドン・ジョンソン上院院内総務も党大会はデッドロックになると予想していました。

そうなれば、まず南部票を固めておいて、上院を牛耳るジョンソンとやはりテキサス出身で下院を牛耳るレイバーン下院議長の二人の影響力で上下両院議員を中心に各州の代表団を切り崩し、必要な票を集められるとよんでいました。

そして、アメリカ初のカトリックの大統領を目指すケネディは、予備選挙で勝つことで候補者がカトリックであることは問題ではないと証明しなければなりませんでした。

そして代議員が予備選挙の結果に縛られる党大会の1回目か2回目の投票で過半数を獲得し指名を得なければ、スティーブンソン、サイミントン、ジョンソンなどさまざまな勢力に代議員を切り崩されるのが目に見えています。

予備選挙でカトリックでも勝てることを証明し、1回目か2回目の投票で過半数を得ることがケネディが勝つための条件でした。

そこでケネディ陣営が選んだのがウィスコンシンの予備選挙です。

ウィスコンシンの予備選挙でケネディはハンフリーを破りましたが、ケネディが勝った地域は主にカトリックが多い地域でした。

そこでプロテスタントが圧倒的に多いウェストバージニアの予備選挙にケネディは出馬しました。

ウィスコンシンで敗れたハンフリーも、再起を期してウェストバージニアに名乗りを上げ、再び激突。ここでケネディが圧勝し、カトリックの候補者であるケネディもプロテスタントの票を得られることを証明しました。

もし、ハンフリーがウィスコンシンの敗北で撤退していたら、ウェストバージニアでのケネディの勝利は何も意味せず、ケネディの指名獲得はなかったかもしれません。

そして、ロサンゼルスの党大会に向けて...

一方、共和党はリチャード・ニクソン副大統領対ネルソン・ロックフェラーニューヨーク州知事の一騎打ちです。

前半の党大会での指名獲得、そして後半の本選挙、そしてその合間に当時のアメリカ社会についての鋭い考察が織り込まれ、ぐいぐい引き込まれます。

子供のころ、オヤジの本棚にこの本の翻訳がありましたが、今、アマゾンをのぞいても日本語訳がないようです。

この本の英語は決して難しくないので、その気になったらGWにチャレンジしてみてください。

(2017年4月29日「河野太郎公式サイト」より転載)

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