子ども若者育成支援推進法の「改正案」が逆戻りしてる3つの理由

Twitter、Facebookのフィードで若者支援関係者の方々が、往々につぶやいていた「子ども・若者育成支援推進法の改正案」をじっくり読み込んでみた。

Twitter、Facebookのフィードで若者支援関係者の方々が、往々につぶやいていた「子ども・若者育成支援推進法の改正案」をじっくり読み込んでみた。できるだけバイアスなくして読もう...というかバイアス云々の問題じゃなくて、ここまでバッサリやるなんて、これまでの政策の文脈の完全無視もいいところ。

丁寧に新旧対応表をつくってあるのがせめてもの報い。下の図の、上半分が改正案で、下半分が子ども若者育成支援推進法(以下、推進法)。ではまず総則から。

1.「児童の権利条約」に関する記述の削除

改正案は、「日本国憲法及び児童の権利に関する条約の理念にのっとり」という推進法の条項を丸ごと削除

続いて基本理念。

第二条の二項の「個人としての尊厳、差別的扱い、意見の尊重と、最前の利益の追求」という推進法の項目を完全削除

さらに、改正案(画像上半ぶん)の3条では「18歳未満の青少年」に限定的に触れる。

2. 困難を抱える「若者」は、誰がどこで?

そして、推進法の六項の「教育、福祉、保護、医療、矯正、更生保護、雇用その他の関連分野における知見を総合して行うこと」という条項と、七項の困難を有する就学と就業に携わっていない子ども・若者への支援の条項を削除

この点に対応するであろう改正案 第二条四項では、「家庭及び学校が青少年を健全に育成する機能を十分に発揮するように」と取って代われる。子ども・若者の面倒は「家」か「学校」が面倒をみろ、と歴史の流れに、国際的な文脈に逆らっています。(それに限界があることを認識したから、推進法で、学校外、地域、その他の公・民間機関と連帯することになったんじゃないのか。)

懸念すべきは、子ども・若者育成支援推進法で、「社会的な困難を有する子ども・若者への支援」が重視されていたが、それが無視されないかどうか。推進法では「困難」という言葉は5回使われているが、改正案では1回しか使われていない

3. 若者の意見の反映は「しなくても」

そしてそして、若者の社会参加の核となる「意見の反映」の条項。

お、ちゃんと残してあるじゃんかよかったよかった、と思ったら最後の部分に縦線。

推進法第十二条の子ども・若者を含めた国民の意見の反映は「必要な措置を講ずる」であったのは、改正案では「〜よう努める」の努力義務へ格下がり。なにもしなくても罰則や法的制裁を受けないということ

■日本の子ども・若者政策の発展と文脈

日本の子ども・若者政策は、戦後から発展してきて、「青少年不良化防止に関する決議」(1949)に端を発し、青少年問題審議会(1982)、青少年対策推進会議(1989)など若干の名称を変更しつつも、若者は社会の問題の「対象」とみなされてきた。それが90年代になって、94年には意見表明権を含む「児童の権利条約」を批准、発行し、より子ども・若者の視点を重視する方向になった。

それから2000年代になって認知されてきた、若者の自立支援のさまざまな取り組みの中の成果と課題を踏まえて子ども若者育成支援推進法が2009年に成立し、翌年には「子ども・若者ビジョン」(2010)が成立した。

子ども若者ビジョンでは、「子ども・若者が新しい社会を作る能動的な形成者になってもらうことを支援する」という、これまでの子どもを「社会に適応させる」という視点の大きな変革がなされた。それに応じる形で、「社会形成、社会参加に関する教育、シティズンシップ教育の推進」、「子ども・若者の意見表明機会の確保」、が盛り込まれた。

さらには、「子ども・若者の意見を聞きながら、子ども・若者育成支援施策の実施状況を点検、評価」することによって、政策の影響を受ける当事者である子ども・若者を政策の意思決定過程に巻き込んでいくという、これまでにない非常に参画度の高い項目もできた。私自身も、実は子ども・若者育成支援点検評価会議という、子ども・若者ビジョンの実施状況の点検と評価をする委員会に、「若者枠」として参加させていただいた。当時の委員会(十数名)の構成でも20代はたった2名であったがそれでも、これまでにない大きな前進だった。

こういったことを踏まえた上で出てきた法案とは全く思えないのが今回の法案だ。児童の権利条約の条項の削除も、社会的困難を抱える若者点でも、意見の反映を努力義務にした点でも、明らかに時代の流れに逆行している。

EUは2001年には完全に若者の「参画」をその若者政策の中核に添えることに舵を切った。欧州委員会の白書によると、例えば、2000年には加盟国間で17の全国規模の会議を開催し、数千人の若者が関わり440の提案をした。EUの若者政策をリードしてきたスウェーデンの若者政策では、若者が社会に影響力を与えることができるようにすることを、若者政策の目標に掲げている。(EU、スウェーデンの若者政策の取り組みを引き合いにだせば、それこそ「きりがなくなる」のでここでは長く触れない。)そういった中で、日本は周回遅れの状態だった。

しかし、それでもなんとかして、ここまできたのだ。(1)90 年代までの青少年を社会に適用させるモデル→、(2)90年以降の子どもの権利モデル、→(3)子ども・若者が新しい社会の能動的な形成者になってもらうモデル、という3回のバージョンアップを重ね、ゆっくりだが確実に前進してきたのだ。

今回の法案で、日本の子ども・若者政策が完全に「初期化」されないことを祈る。

(ぜひ、日本の現場のみなさんも読んでみてください)

(2014年6月30日「Tatsumaru Times」より転載)

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