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新国立競技場は、なぜもめているのか

2015年07月20日 22時42分 JST | 更新 2015年07月20日 22時42分 JST
jsc

2020年東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の事業主体であるJSC(日本スポーツ振興センター)は、総工費2520億円の巨額な整備事業案の内訳などを発表した。各種世論調査では"見直すべき"という意見が8割を超えたという結果もでている。

新国立競技場建設は、なぜこれほどまでにもめたのであろうか。

■計画プロセスの問題は3つ

もめた要因は3つある。

1つ目は、ザハ・ハディド案に決まった経緯に問題がある。2012年7月に設計案の応募を開始し、締め切りは9月25日と応募期間が2か月しかなかった。最終の決選投票では、ザハ案とオーストラリア案が残り、審査結果は4対4の同点。最終的には委員長である安藤忠雄氏の一存で決まった。

応募期間がこの規模の建設案件だと6か月は必要だが、2か月は短すぎる。2013年1月に迫っていたIOCへの提出期限に間に合わすための即席コンペだった。

そもそもザハ・ハディドの設計は、この地域は高さ規制が15mの風致地区なのに、75mもの巨大なデザインだった。設計コンペ2位のオーストラリア案もかなり巨大だ。しかし設計コンペ3位に敗れた日本の日建設計案は地を這うような低いデザイン。15mの高さ規制を守ったばかりに派手さがなくなり、1位に選ばれなかったように感じる。

2つ目の問題は、スポーツ施設ということで文部科学省が仕切ったことだ。大規模工事に慣れ、技術者の多い国土交通省が深く関与すればこのようなことにならなかっただろう。技術者が早い段階でより深く関与して、技術的な観点から解決策を早期に出さなかったことが問題を大きくした。

これは原発問題でも同じことがいえる。「原発は危険」という感情論が先にたち、原子力技術者の正確な理論に基づいた発言があまりに少なかったことが問題を深くしてしまった。技術者の責任は大きい。

3つ目は金額の妥当性だ。メイン会場の建設費は収容者数が8万人の北京500億円、ロンドン530億円。屋根が開閉式施設である福岡ドームは収容4万人と少ないが760億円。質が違うので同じ土俵で比較できないが、東京スカイツリーの事業費は650億円だ。

それに比べて今回の2520億円は桁違いに高い。その内訳は、大成建設が施工するスタンド部分が1570億円、竹中工務店が施工する屋根部分が950億円。大規模空間を2本のキール(背骨)アーチで支える屋根部分の設計に問題がある。同じ鋼製の東京スカイツリーが650億円に対してキールアーチを含む屋根が950億円とは常識的に考えて高すぎる。

■東京オリンピックに間に合うのか

では、実際にこの計画で2019年に予定されているラグビーワールドカップや、2020年東京オリンピックに間に合うのだろうか。

東京スカイツリー、ドーム型競技場、そして大きな橋梁を造ってきた日本の建設技術力をもってすれば技術的には問題はない。

ただし、懸念されるのは人手不足により、さらなる工事費の高騰と工期遅延のおそれがあることだ。例えば現在建設中の築地新市場は、当初630億円の予算が1034億円にふくれあがっている。

1996年670万人いた建設業従事者は、市場の縮小に伴い現在では約500万人に減少している。一方、火山・耐震・台風対応の公共工事の増加、東日本大震災の復興需要を中心として建設投資が急拡大しており、人手不足が深刻だ。震災復興予算は2015年から2020年の5年間で総額8兆円超必要だとしている。東京オリンピックの会場施設整備などの直接建設投資は1兆円と少ないが、2018年から2020年に集中して建設工事が行われること、そしてオリンピック開催に向けて既存の道路や施設のリニューアルが前倒しされること、関連する民間の建設投資を考慮すると、工事の増加に伴い人手不足がさらに深刻化するおそれがある。

■これからどうすべきなのか

まず、設計を見直すことが欠かせない。まずはコストアップの主要因である950億円かかると言われているキールアーチを含む屋根部分の見直しが必要だ。このような特殊な鋼材の加工ができる施工会社が日本では数社しかないため、競争原理が働かず価格が高止まりしている。かといってキールアーチがデザインの目玉なのでなくすわけにはいかないだろう。

そこで2本のキールアーチは断面を小さくして残し、その直角方向に2~4本の鉄骨を増やすと構造的に安定しコスト削減できる。キールとは背骨の意味。背骨に加えてろっ骨を配置するという感じだ。直角方向のろっ骨の役割である鉄骨は屋根の下に配置することで、外観デザインは変わらず国際公約違反にはならない。キールアーチの断面寸法が小さくなり、特殊な加工が減り、運搬や架設にかかる必要を減らすことができる。そもそも背骨だけで体を支えるデザインに無理があるのだ。

次に人手不足対策が必要だ。今は、新国立競技場やリニア中央新幹線をはじめとする歴史的建設物の工事に関わることのできるチャンスだ。一人でも多くの方が建設に関わることで、人手不足を解消しコストダウンができる。

世界に誇る競技場を建設し、おもてなしの心で2020年には世界のスポーツマンを気持ちよく迎えたいと願う。

(2015/7/13「降籏達生のブログ」より転載)

【降籏達生のブログ】

http://ameblo.jp/tatsuo-furuhata/

映画「黒部の太陽」に憧れて、ダム、トンネル、橋の工事を行ってきた降籏 達生(ふるはたたつお)。現在は、全国の現場指導、コンサルティングを行っています。本ブログでは、建設業界へのエールとともに、あまり見ることのない建設業界の裏側を皆さんに紹介しましょう。

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新国立競技場のデザインたち