BLOG

都市国家シンガポールにある唯一の「天然露天風呂」センバワン温泉

2014年09月25日 01時29分 JST | 更新 2014年11月23日 19時12分 JST

シンガポールといえば淡路島くらいの広さしかない小さな都市国家。しかし、国土の半分以上が高層ビルでうめつくされているこの国にただひとつ、本物の温泉があるのです。そこはシンガポーリアンでさえ知らない人がいるくらいの超マニアスポット。誰もが思う温泉とは大きくかけ離れた、ユニークなも形態なのです。

今週のタビィコムは、常夏の国シンガポールの知られざる極楽、センバワン温泉をご紹介します。


●その温泉は基地のなかにあった

センバワン温泉はマレーシアとの国境にほど近い「センバワン空軍基地」のなかにあります。都心からタクシーに乗ること30分。基地の敷地内のためはっきりとした住所もなく、運転手のおじさんも「大体はわかるけど入り口がどこにあるか分からないから、誰かに電話して場所聞いてみてくれない?」と言い出す始末。道路の名前を頼りに探り探り走っていき、おじさんが「ここだ!」と叫んだ場所はフェンスにあいた変哲もないドアでした。

2014-09-22-taviicom_20140922_asdfa_1.JPG

入り口には「自転車乗り入れ禁止」「ペット禁止」などいくつかの禁止事項が。周囲はフェンスに鉄条網が張り巡らされているし、ほんとに入っていいのかしら?と思いつつグイグイ入っていくと、5分ほど歩いたところに「Hot Spring」の文字が! しかし思っていたのとは全く違う雰囲気です。温泉というよりは、さながら駐車場のよう...。

2014-09-22-taviicom_20140922_asdfa_2.JPG


●確かにそこは「温泉」だけれど?

2014-09-22-taviicom_20140922_asdfa_3.JPG

意表をつかれる景色とは裏腹に、お湯からはしっかり硫黄の匂いが。ローカルの方々でけっこう賑わってます。夕方になると人が集まってくるという噂は本当でした。皆さんポリバケツに足を突っ込んで、世間話に花を咲かせているようで、なかにはただ寝転んで新聞を読んでいる人も。建物はないけど、日本のスーパー温泉みたいな雰囲気、と言ったら言い過ぎでしょうか。

2014-09-22-taviicom_20140922_asdfa_4.JPG

2014-09-22-taviicom_20140922_asdfa_5.JPG

敷地中央にあるレンガの建物が源泉で、敷地内に3箇所蛇口が解放されています。中央のひとつは温度が70度近くありますが、熱めのお風呂ぐらいのお湯が出る蛇口もありました。

2014-09-22-taviicom_20140922_asdfa_6.JPG

一箇所は大胆にお湯を浴びたい人用。ドラム缶型のポリタンクは特等席の「露天風呂」。大きな体のおじいさんが器用にタンクに入っている姿は手品のようです。この後おじいさんは筆者に中国語で「日本人?」と質問しながら、乗り入れ禁止のはずの自転車からシャンプーを出して豪快に洗いはじめました。


●赤道直下の露天足湯は本当に「極楽」だった

2014-09-22-taviicom_20140922_asdfa_7.JPG

勝手が分からなくて戸惑うときは、周囲の人に「この椅子使っていいですか?」など一言声をかければ大丈夫。あとは世話好きなシンガポーリアンが手取り足取り楽しみ方を教えてくれます。周辺に放置されているプラスチックの椅子とバケツを確保したら、ぬるめのお湯を手桶(洗剤の容器を切ったもの)で組み、もうひとつのバケツに熱いお湯を組んでおいて、冷めたら継ぎ足しながら足湯を楽しむのが正統派とのこと。ぬるめのお湯といっても42度はありそうで、足をいきなり入れるには十分熱いです。

2014-09-22-taviicom_20140922_asdfa_8.JPG

こんな暑い国の野外で足湯なんて、と思っていたのですがこれが、予想外に気持ちいい! 暑さがひといきついた夕方に、硫黄のかおりを嗅ぎながらしっかり足を温めると、体が芯からリラックスしていくようです。冷たいビールを持ってこなかったことを心底後悔しました。


*********

このセンバワン温泉、1909年にパイナップル畑のなかから発見されたもので、ドイツにある有名な保養地バート・キッシンゲンの水質によく似た良質の温泉であることが分かると、タップウォーターとして売られたり、付近の人がお湯を楽しみにきたりと人気の場所になったのだそうです。昭南島として日本が占領していた時代には日本軍用の温泉施設が建設されましたが、そのせいで連合軍の空爆に遭い10年ほどお湯が枯れてしまったのだとか。その後何度かここに入浴施設を作る計画がたったものの頓挫したまま軍用地となり、地元の人々の要望で温泉だけ一般に開放されています。

極楽気分で足湯をつかっていると、しばらくして暗雲立ち込め雷が響いてきました。人々が一斉に帰り支度を始めたなか、お湯を全身に浴びている組は立ち上がる気配もありません。土砂降りがきたらどうするのか聞いてみたところ、「何もしないよ。どうせ濡れてるし、あったかい温泉もあるしね。でもあんたたちは水着がないから、早く帰ったほうがいいよ!」と笑顔。このあたりは落雷が多いはずで、濡れていると危ないような気がするのですが、さすが細かいことは気にしないシンガポーリアン。ちょっと心配でしたが、大らかな笑顔に癒やされました。

素顔のシンガポーリアンと触れ合いながら、足湯で疲れを癒せるこの場所は、旅行者がこの国の国民性を垣間見ることができる数少ない場所のひとつです。一歩踏み込んだシンガポール旅行を楽しみたい人は、是非訪ねてみてください。(狙い目は朝か夕方。昼間は灼熱の上に誰もいないので避けたほうが無難です)


●センバワン温泉(Sembawang Hot Spring)

MRTイシュン(Yishun)駅から徒歩15分。ガンバスロード(Ganvas RD)とセンバワンロード(Sembawang RD)の交差点から、空軍のフェンスに沿ってガンバスロード沿いを数分歩いた辺りに入り口あり。

朝7時から夜7時まで開放。


(写真・文 松下祥子)