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なぜシカ達は車道にはみ出してしまったのか?「奈良のシカ」の不思議な生態

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先日、奈良公園のシカ達が車道にはみ出して座り込んでいる写真がツイッターにポストされ、日本中で大きな話題となりました。

(ツイッター引用)

天変地異の前触れか!なんて驚いた方もいたかもしれませんが、実は「夏の奈良の風物詩」で、夕涼みするシカが道にはみ出しちゃうなんて話がその後出てきていました。

あんなところで夕涼みして、車に轢かれないんでしょうか?轢かれるんです。去年は100頭も犠牲になりました。では飛び出さないように囲いなど作れないんでしょうか?作らないんです。彼らは純然たる「野生動物」で、飼っている動物ではないからです。野生動物と人が触れ合って、危なくないんでしょうか?危ないんです。事故も起こるそうです。

奈良公園にシカがいるのはあまりにも有名なのですが、そのシカがどのような生態でどんな風に人と共存しているかは実はあまり知られていません。そこで今週のタビィコムは、「奈良のシカ」の知られざる真の姿をご紹介します。

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●シカ達は毎日「出勤」している
奈良公園のシカはニホンジカのなかでも「ホンシュウジカ」という種で、東大寺、春日大社、興福寺という3つの寺社にまたがった広大な敷地のなかで野生動物として暮らしています。数十頭で群れを作り、ほぼ決まったルートで泊まり場、採食場、休み場を巡回しながら1日を過ごします。お寺の前に集まって観光客に鹿せんべいをねだるシカたちは、早朝に「出勤」してきて食べ物探しをしているというわけです。鹿せんべいやさんが帰る頃になると、シカたちもさっさと「退勤」していきます。

公園外を散歩のルートに入れてしまう群れもいるそうで、そういう姿が先日車道で写真に撮られたシカ達なのかもしれません。過去には大阪の御堂筋や京都の加茂駅まで行ってしまった例もあるとか。
主な食べ物は奈良公園の芝生、木の皮、木の実など。鹿せんべいは主食ではなく「おやつ」です。奈良公園にいくと青々とした芝生がゴルフ場のようにきれいに刈られているのですが、シカが常に食べて芝刈りの代わりをし、糞が養分の代わりになるので手入れいらずなのだそうです。

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●そもそもなんで奈良公園にはシカがいるの?
春日大社の主神である武甕槌命がやってきた時に乗っていたのが白鹿と言い伝えられており、神代の昔から奈良のシカは「神鹿」として手厚く保護されてきました。江戸時代まではシカを殺せば死罪。立派な角を持ったオスジカに襲われたり田畑を荒らされたりと、人とシカとの衝突も多く、シカとの共存は簡単なものではなかったと思われます。

公園内にいる頭数は2013年で1094頭(奈良の鹿愛護会調べ)。過去に2度(終戦直後など)頭数が激減したことがあり、完全に囲いのなかで「飼育」状態に置かれたこともあるのですが、現在では奈良の鹿愛護会(以下愛護会)に守られつつ野生として暮らしています。人慣れした野生動物がこれほど多く市街地で暮らしているというのは世界でも類を見ないもので、「奈良のシカ」として国の天然記念物に定められています。大仏をはじめ数えきれないほどの国宝がある古都・奈良ですが、その魅力はシカ抜きには語れないのです。

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●鹿せんべいの歴史は江戸時代から
生態系に影響を与えるため、通常は野生動物への餌付けは禁止されているもの。しかし奈良公園ではご存知のとおり「鹿せんべい」を与えることができます。何故なのでしょう?
鹿せんべい販売の歴史は1670年にまで遡ります。江戸時代に観光目的で販売されはじめ、現在でも鹿せんべいはシカとセットで奈良観光の顔です。愛護会から指定された6社が占有して製造販売しており、売上の一部は愛護会の収入になります。原材料は新鮮な米ぬかと小麦粉のみ。塩分も添加物も一切なく、シカの体にとても優しく作られています。試しに食べてみると、口の中に広がる米ぬかの香ばしい香りが意外といい。ちょっとだけ塩が足してあれば、子供のおやつにピッタリな感じです。

鹿せんべいが売られる理由には、観光の目玉であるという以外にも、観光客が人間の食べ物を与えてシカが病気になるのを防ぐためと、深刻な財源不足にある愛護会の活動費を確保するためという理由があるようです。観光に行かれる方は人間の食べ物は決してシカには与えず、シカ愛護のために鹿せんべいを購入し食べさせましょう。

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●人と野生動物との共存を目指して
野生のシカの体や顔、時には角まで触れるというのは感動的な体験です。しかしやはり野生動物なので、当然しつけはされていません。小さな子供にはなるべくせんべいを持たせないなど、最低限の注意は必要です。子供が相手だと威嚇してせんべいを奪い取ろうとするシカがいたり、もらう分には人の手を噛まないように食べても催促する時には噛むシカもいます。愛護会のスタッフがシカと人との安全を確保するため日々尽力されていますが、人と衝突して怪我を負わせる事故も毎年発生しているそうです。

多発する交通事故やシカの虐待事件、シカによる田畑の食害や近隣住民との衝突など、一見穏やかなように見える奈良のシカと人の関係にも、他地域で見られるのと変わらない問題があります。それでも私達が奈良へ行けば可愛らしいシカたちと触れ合えるのは、シカとの関わりを大切に守ってきた奈良の方々の歴史があるからです。

奈良へ行く時には、ありがたい寺社や仏像だけでなくシカさんのこともよく観察してみてください。シカ1頭、鹿せんべい1枚から、思いもしなかった発見があるかもしれませんよ。

(松下祥子)

●出典
書籍:
『奈良の鹿「鹿の国」の初めての本』奈良の鹿愛護会監修 2010/3/8 京阪奈情報教育出版
http://www.narahon.com/books.html#a02
『奈良発オレたちシカをなめるなよ!』有本隆 2010/6 真珠書院
http://www.shinjyushoin.co.jp/book/general/9784880092638.html
『シカの白ちゃん』岡部伊都子/飯村稀市 1983/7/15 筑摩書房
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480880475/

WEBページ:
一般財団法人 奈良の鹿愛護会
http://naradeer.com/
Wikipedia『奈良公園』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%88%E8%89%AF%E5%85%AC%E5%9C%92
Wikipedia『鹿せんべい』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B9%BF%E3%81%9B%E3%82%93%E3%81%B9%E3%81%84
日経新聞電子版『奈良のシカの秘密 夜はどこで寝るの』2010年9月28日
http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXZZO15078290S0A920C1000000&uah=DF261220093115
マイナビニュース『奈良公園の主「鹿」、実はハーレムだった!知られざるシカの実態を紹介!!』2013年11月6日
http://news.mynavi.jp/articles/2013/11/06/deer/
奈良のシカ大百科(中学生用)/奈良市観光協会
http://narashikanko.or.jp/shika/img/cyugaku.pdf

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