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きらびやかな高層ビルの国・シンガポールにある「最後の村」へ行ってみた

2014年05月17日 14時52分 JST | 更新 2014年07月17日 18時12分 JST

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今でこそ破竹の勢いで成長を続ける金融国家で、空中に浮かぶプールでお馴染みの「マリーナベイサンズ」をはじめ、様々な最先端建築が立ち並ぶシンガポール。国民の80%はHDBと呼ばれる高層公団住宅に住み、一戸建てに住めるのはごく一部のハイパーリッチな特権階級だけです。でもそんなシンガポールに、今でも昔のままの小さな一戸建てが集まる「村」が、たったひとつだけ残っているというのです。そこで今回のタビィコムは、方向音痴の記者による、シンガポール最後の村「カンポン・バンコック」の探訪記をお送りします。

マレーの面影が残る「最後の村」

シンガポールは1965年までマレーシアの一部でした。独立以前には、人々は「カンポン(マレー語で「村」)」の簡素な家で、自然と共に暮らしていました。村には犬が自由に駆け回り、日陰にはのんびり涼む大人や猫たちがいて、路地では子どもたちが元気に遊んでいたといいます。そんな光景に憧れて目指した「カンポンバンコック」は、シンガポール北部郊外のセラングーン駅からさらにバスで30分、終点のホウガン地区というところにあります。

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乗り継ぎで迷いに迷って、予定より大幅に遅れてバスの終点に到着。どこまでも立ち並んでいるかのようなHDB公団がいきなり終わった。Google Mapsによれば、右手に見えるジャングルの方だと言うのだが。時すでに正午近く。なんだか不穏な展開だ。

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Mapsの言うとおりに歩いていくと、行く手にはジャングルを貫く工事車両用の道だけ。轟音を響かせ大型ダンプカーが追い抜いていく。なんか切り開かれちゃってるし。荒れ地と働くクルマしか見えない。

住宅街と思ってたのに、まさかの遭難!?

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ついに道が潰えたので、タバコをくゆらす現場監督にカンポンはどこかと聞いたら「道が違う」と。下って最初の道を右手に折れろと。そんな道、地図に出てない。この犬道以外に。ほんとに、ここ??やつらも「お前、まさか来んの?」みたいな顔してるし。

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犬に警戒され、こちらも犬を警戒しつつ臨戦態勢で進む。と、犬以外通れないだろうという道になってしまった。赤道直下の炎天下、熱射病寸前で目の前に死んだおじいちゃんがチラつき始めた頃やっと出た場所は......どここれ遭難?こんなとこ絶対人住んでるわけない。Mapsめ、騙しやがったな!

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そこにいきなり現れた若めの現場監督三人組。これは明らかに怒られるパターンだぞと思いつつ、すがる思いで「カンポンどこですかぁ~(涙)」と聞いてみる。アイヨー、危ないよ―と呆れられつつ、一人のお兄さんが連れていってくれるという。神!

その名もアンソニー・リーさん35歳。シンガポーリアンには珍しいロン毛です。軽く恋に落ちました。

ほんとにあった、最後の楽園

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お兄さん達に会った場所から徒歩2分。諦めかけていたカンポンバンコックは、巨大な工事現場の裏手にあった。目に飛び込んできた一軒目のお宅はなかなか味がある。が、暑さのせいで感動よりも疲労のほうが先に来る。もう口を開くのも億劫なんだけどと思いつつ、案内役を買って出る気満々のアンソニーを断りきれず一緒に行くことに。急速に萎える恋心。

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期待通りノンビリした空気が流れるカンポンなのですが、家はざっくりした作りです。相当ひなびてます。一瞬廃屋かと思いましたが「全部住んでるよ。郵便も届くよ。全体で25世帯ぐらいかな。ここから都会に働きに行ってる」とアンソニー。しかし人どころか動物一匹いない。「当たり前だよ暑いもん。朝か夕方に来なくちゃ」。そうでしょうとも、私もそのつもりだった。色々あったんだよ!

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今回唯一見つけた人は、テラスの壁際においたソファーと一体化して寝転がっているおじさんだった。私もああやって日陰に張り付いていたい。なんでもカンポンの家にはエアコンもないそうであるが、あそこは涼しいのだろうか?声を掛けて、あわよくば日陰で休ませてもらいたいが、汗ひとつかいてないアンソニーがテンション高く次の路地を紹介しようとするので断念せざるを得ない。おせっかいさんめ......。

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どこのお宅もパステルカラーが入ってて、かわいいライティングがあったりして女子心をくすぐるが、屋根などボロボロで虫とか雨とか大変そうだ。アンソニーにカンポンの人は土砂降りの時どうするの?この家雨漏りとかしないの?と聞いたら「おれ住んだことないから分かんない」と。使えない......。しかし村の入口にはピカピカの車あったりするのである。値段は日本の3倍なのに。どうなってんの??

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垣根代わりに植えられた果樹のたもとに仏様が。カンポンと言うからてっきりマレー人の村なのかと思ったら「普通の住宅と同じでほとんどチャイニーズだよ」と。華僑の人々がこんなマレーな暮らしをしていたというのは驚きだった。

その後アンソニーは脱水しかけている私のために徒歩5分のHDB団地にあるスーパーへ寄り、最寄りのバス停まで送り届けると爽やかに去っていった。シンガポーリアンは世話焼きでやさしい人が多いのだ。心のなかで小さく悪態ついたりしてごめんね。あなたのおかげでこの不思議な村を見ることができました。ありがとうアンソニー。

消え行く最後の楽園を守るために

HDBのすぐそばで危うく遭難しかけながら訪ねることができたカンポンバンコックは、村全体を華人の商人一家が買い上げていて、格安の借地料で村人に家を貸しています。本当はこの土地も売ればすごい高値だそうですが、村を守りたいという思いだけで存続しているのです。

現在は私のような国内の見学者や海外からの観光客、マスコミなどに注目され、最後のカンポンとして愛されているけれど、残念ながらそれも風前の灯火。国土全体の大きな開発の波に飲まれて、近いうちになくなってしまうかもしれません。そんな昔ながらの風景をシンガポール観光のリストに是非加えてみてください。方向音痴でなければ、もっと楽にいけるはずです。

(写真・文 松下祥子)