Huffpost Japan
ブログ

ハフポストの言論空間を作るブロガーより、新しい視点とリアルタイムの分析をお届けします

タビィコム Headshot

何故この街では公園で犬を思い切り走り回らせられるのか?

投稿日: 更新:
印刷

霧と坂の街、サンフランシスコ。美しく伝統ある街並みとケーブルカーは観光客を魅了して止まず、最近ではサンフランシスコ湾周辺にひしめく巨大IT企業の影響で、ニューヨークを越えてアメリカで1番家賃の高い街になったことが話題になりました。

そんなサンフランシスコの街を歩くと、驚くことがあります。お店の前に犬用の水が置いてある。犬の糞を取るためのビニールが街なかで配られている。野良猫がいない。そして何より、公園で犬達が走り回っている!

日本の常識とは180度違う人とペットとの関係がどんなもので、どのようにして作られたのか? 今週のタビィコムは、アメリカで最もペットフレンドリーと言われるサンフランシスコの「常識」をご紹介します。


●ドッグランは公園全体!

サンフランシスコには街なかにいくつも公園があります。ほとんどの公園には緑の草に覆われた美しい広場があるのですが、その景色のなかにはいつも「走り回る犬」が。最初はルール違反かと思いましたが、来る犬来る犬放されて、それを草の上に寝転んだ人が楽しそうに眺めていたり。日本の感覚に慣れていると、いつ何が起こるかとハラハラしますが、犬が外に飛び出すこともなく、喧嘩を始めることもありません。近寄るとどの犬もフレンドリーで、子供が触っても大丈夫な犬たちばかりです。

2015-04-25-1429941540-6299175-taviicom_20150425_asdfasdfs_1.jpg

見渡す限りの草地を走り回る犬達。もちろん大型犬もノーリードです。

2015-04-25-1429941581-2265310-3357754213_401eeaeb97_b.jpg
Photo by DaveFayram

犬たちも毎日友達との遊びを楽しみます。

2015-04-25-1429941621-5053823-taviicom_20150425_asdfasdfs_2.jpg

キッズエリアには囲いが。ここだけは「犬立ち入り禁止」です。日本ならば犬が囲いの中にいるのが普通ですが、この街では逆です。犬好きにはとっても嬉しい状況ですが、やはり日本人の感覚からは違和感を感じます。何か事故が起こったら? 犬嫌いの人は公園に入れないのでしょうか?


●犬が市民のように溶けこむ街

犬たちが街でどういう風にしているか、しばらく歩いて観察してみました。するとあちこちの店の前で犬が待っていたり、食事をする飼い主の足元にいたり。散歩中の犬も多く見かけます。

2015-04-25-1429941649-8873929-taviicom_20150425_asdfasdfs_3.jpg

街なかで会う犬に「写真を撮らせて」と声をかけると「Sure!」と飼い主から笑顔が帰ってきます。写真の犬はピットブルという闘犬の雑種で、若いメスだそうです。「この子の社会化の訓練になるからありがたいわ」と飼い主の女性は言いましたが、この「社会化」にサンフランシスコの犬達が街に溶け込める秘密があるようです。

2015-04-25-1429941676-39453-taviicom_20150425_asdfasdfs_4.jpg

街のいたるところに「うんちビニール配布ボックス」。拾った糞は公園のゴミ箱に捨ててもいいのです。そのせいか、路上でみかける糞は東京とあまり変わらない程度です。

2015-04-25-1429941705-482689-taviicom_20150425_asdfasdfs_5.jpg

「犬立ち入りOK」のお店も多数。子供のおもちゃ屋に大型犬を入れている人もいましたが、誰も気にしていませんでした。

2015-04-25-1429941730-8533483-taviicom_20150425_asdfasdfs_6.jpg

お店の前やホテルのロビーなどには犬の水飲みが。犬連れ宿泊可の高級ホテルも珍しくはありません。そして街なかで見かける犬は、どの犬も行儀よく落ち着いています。

犬は生後4ヶ月前後から1歳までの間の「社会化期」に、犬同士の付き合いや人への愛着を学びます。この期間に様々な犬や人、環境に触れさせれば触れさせるほど、穏やかで落ち着いた犬へ育つと言われています。

サンフランシスコに滞在した間に、結局一度も人嫌いの犬や、他の犬に攻撃的な犬を見ませんでした。犬をどこにでも連れて行けて、店の前に繋いでおいたり、公園で放して毎日他の犬と遊ばせたりできる環境が、犬達をさらに落ち着いた、人との生活に馴染む存在へと育てているようです。

しかし、日本に「犬の社会化に適した街」を作ることは、完全な発想の転換が求められるように思いますが、そのような決定的な転換はどのようにして起こったのでしょうか?


●アメリカ最古のノーキルシェルター、サンフランシスコ動物虐待防止協会(SFSPCA)へ行ってみた

サンフランシスコのような都会でここまで犬が人の生活に溶け込んでいる状況は、単に「ペットフレンドリーな街」というだけでは納得できません。どうしてこのような文化が定着しているのか? その秘密を探りに、アメリカを代表するノーキルシェルター(殺処分を行わない動物愛護施設)であるサンフランシスコ動物虐待防止協会(以下SFSPCA)のマディソンセンターへ行ってみました。

2015-04-25-1429941760-1086376-taviicom_20150425_asdfasdfs_7.jpg

定例の見学ツアーもありますが、旅行者の場合は特にアポイントも必要なく、受付スタッフに声を掛ければ気軽に中を見学できます。譲渡候補の犬猫たちがいるフロアに行くと、ボランティアスタッフがついて細かく案内してくれました。

2015-04-25-1429941803-9782494-taviicom_20150425_asdfasdfs_8.jpg

まずは猫エリアへ。シェルターというよりオフィスや展示場のようです。

2015-04-25-1429941821-4862381-taviicom_20150425_asdfasdfs_9.jpg

猫たちはケージではなく個室を与えられています。そして各個室の前にはタブレットPCがあり、猫たちのプロフィールが確認できます。

2015-04-25-1429941844-7051747-taviicom_20150425_asdfasdfs_10.jpg

個室には豪華すぎる家具が。こちらサンフランシスコ名物ゴールデンゲートブリッジ!

2015-04-25-1429941869-7290592-taviicom_20150425_asdfasdfs_11.jpg

もうひとつの名物ビクトリアハウスも! 全てシェルター専属の大工さんが手作りしているそう。ケーブルカーももうすぐ登場しそうです。

2015-04-25-1429941894-2808452-taviicom_20150425_asdfasdfs_12.jpg

個室の中で少し猫と遊ばせてもらいました。譲渡希望者はこうして直接猫の様子を見ることができます。猫と譲渡希望者の相性がいいかどうか見極める重要な過程です。

2015-04-25-1429941916-7864796-taviicom_20150425_asdfasdfs_13.jpg

犬エリアにもやはりケージはありません。こちらの犬は韓国の食用犬ファームからレスキューされ、はるばるアメリカまで運ばれてきました。SFSPCAが窓口となって各地のシェルターに収容された犬のなかの1頭です。

2015-04-25-1429941935-8089137-taviicom_20150425_asdfasdfs_14.jpg

犬たちには専属のスタッフがいて、一緒に遊んで人間との信頼関係を深めます。この犬はその後、スタッフとドッグランへ遊びにいきました。

SFSPCAには一般向けのトレーニングセンターや24時間救急を備えた動物病院も併設されており、日本のシェルターとは全く比較できないほどの素晴らしい施設でした。ここまで豪華にする必要があるのか?と思う部分もありましたが、驚くべきはこの施設の運営費が全て寄付によって賄われているということ。やはり日本とはあまりに状況が違いすぎて、頭がクラクラしてきました。


●犬はいても猫が一匹もいないワケ

犬たちの驚異的とも言える街への馴染み方とは別に、筆者にはもうひとつ大きな疑問がありました。街で猫を見かけないのです。野良犬もいませんが、公園にも住宅街にも野良猫の姿がありませんでした。サンフランシスコの野良猫たちはどこにいるのかスタッフに聞いてみたところ、

「幸い捕獲すべき猫たちがもうサンフランシスコにはほとんどいないんです」

という驚くべき答えが帰ってきました。

SFSPCAの向かいには行政の動物管理施設があり、そこのスタッフが捕獲してきた動物が全てSFSPCAへ引き渡されて、譲渡先を探すというシステムになっているそうです。新たに捨てられる猫は別として、基本的には全く懐かず収容できない猫に対してはTNR(一旦捕獲して避妊去勢した後に元いた場所に返す)で対応し、それ以外の猫は全て譲渡が完了しているとのこと。現在はサクラメントなど近隣都市のシェルターから猫を譲り受けている状態だそう。野良猫の数を減らすのは本来とても難しく、日本では犬の殺処分数を減らせても、猫は大量の殺処分が行われている状況なので、豪華個室にいた数匹の猫さえもサンフランシスコの野良猫ではないという話には本当に驚きました。


●犬嫌いの人と犬が一緒に住める街にするために

筆者が1番疑問に思っていた、犬が公園でノーリードになることへの市民からの拒否反応について質問してみたところ、こんな答えが帰ってきました。

「公園内でのノーリードは合法ですし、市民の反対はあまりありません。もちろん犬や猫が他の動物を殺したとか、犬嫌いの人に近寄っていったとか、そういうトラブルはよくあります。その場合はコミュニティ内で徹底的な話し合いをするんです」

動物嫌いの人と動物好きとの話し合いに妥協点を見出すのは難しそうですが、と重ねて問いかけると、

「個々の事案に即してルールを決めるんです。例えば、犬嫌いの人の家の前は犬連れで通らないとか。そして飼い主のコミュニティーが協力しあって状況の改善に努めます。これで大抵の問題は解決できます」

どれもこれもできたら理想的なことばかりです。しかし日本だけではなく他の多くの国と状況が違いすぎて、何故そういう土壌が出来たのかうまく理解できません。するとスタッフの方は「サンフランシスコはアメリカでも特別な場所なのですよ」話し始めました。

SFSPCAの設立は南北戦争終了直後の1868年。最初は使役動物であった馬の保護施設として始まりました。市内の動物コントロールを全て担うようになったのが1905年。動物病院をオープンさせたのが1924年です。日本軍による真珠湾攻撃の時は避難した市民から放棄されたペット達を引き取り、1947年には西海岸最高を目指したシェルターが設立されました。サンフランシスコが病気などの理由以外で安楽死をしないノーキルシティとなったのが1996年。全米初のノーキル・ノーケージシェルターである現在のマディソンセンターがオープンしたのが1998年です。

全米でもSPCA(動物虐待防止協会)としてはノーキルであっても行政が殺処分を行うなど、本当の意味で殺処分ゼロを達成しているところは数少ないのですが、ここでは問題を抱えた犬猫は経験豊富なサポーターが引き取り、どの動物も最長でも1年以内には新しい家を見つけるそうです。SFSPCAは、今に至るまでアメリカにおける動物愛護の最前線を走り続けてきたのです。

SFSPCAを訪れて、150年近くにわたるたゆまぬ努力と啓蒙が、ペットと人とが真に共生する土壌を作ったことが分かりました。その長い歴史があるからこそ、日本では考えられないくらいの「ペットフレンドリーシティ」となったのです。


***************

現在、東京五輪までに犬猫の殺処分ゼロを目指す「TOKYO ZERO」運動が行われていますが、その実現のため何が必要か、サンフランシスコの歴史を紐解くとヒントが見つかるかもしれません。そして、動物たちとの深い歴史を持つこの街に、ペットを飼っている人は是非足を運んでみてください。ペットと暮らすということに関して、新たな気付きが必ずあるはずです。

(松下祥子)

他のサイトの関連記事

犬の散歩代行アプリ「Wag」、サンフランシスコに進出

サンフランシスコ、サーカスや映画への野生動物利用禁止へ

サンフランシスコ国際空港の新サービスは「癒し犬とのふれあい」