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人工知能分野の投資環境、最前線を分析

2015年12月28日 01時21分 JST | 更新 2015年12月28日 01時21分 JST

artificialintelligence

編集部記Nathan BenaichはCrunch Networkのコントリビューターである。Nathan Benaichは、Playfair Capitalのパートナーを務めている。

現在、人工知能は最も胸の踊る、革新をもたらす技術の1つであると言える。私はPlayfair Capitalのベンチャー投資家でAIのコミュニティーを構築するための投資に注力している。その立場からすると、今の時代は投資家がAI分野の企業を助けるのに最適な時期だと言える。それには3つの理由がある。

1つは、世界の人口の40%はオンラインにいて、20億台以上のスマートフォンが使用され、毎日の利用頻度も増加している(KPCBの調査より)。それにより、AIを構築する素材となるユーザーの行動、興味関心、知識、つながりやこれまで存在しなかったありとあらゆる細かなアクティビティのデータ資産が集まるようになった。

2つ目は、コンピューター演算やストレージのコストが大幅に下がったことだ。反対にプロセッサーの処理容量は増え続け、AIアプリケーションは手頃な価格で構築することが可能となった。

3つ目は、最近のAIの学習システム、アーキテクチャ、ソフトウェアのインフラストラクチャの設計が大幅に改善されていることだ。これらは将来におけるインベーションを加速することを保証するだろう。私たちはまだ明日がどのような形でどのように感じるか、そしてそれがどれほどのことかを完全には理解できていない

また、AIを軸としたプロダクトはすでに市場に解き放たれ、検索エンジン、レコメンドシステム(例えば、Eコマースや音楽サービスにあるようなレコメンド機能)、アド配信と金融商品の取引のパフォーマンスの改善に役立っていることに注目すべきだ。

AIに投資するリソースのある企業は、他の企業が後を辿る道を切り拓いている。他の競合他社が同じ場にいないことのリスクも負っている。それにより、コミュニティーはより深くAIを理解し、多岐にわたる複雑なタスクを担う学習システムを構築するための機能的なツールを手にすることができるようになった。

AI技術を何に使うか?

多様なことに応用できる強力な技術を持って、AI企業は各社、それぞれの方法で市場に参入している。ここには6つの道とそのルートを選んだ会社を何社か挙げた。

■市場には多くの企業があり、彼らのウェブやオンプレミスに保存したオープンデータを活用することができるようになった。これらのデータをつなげることで、複雑な課題の全体像を捉えられるようにする。そこから新しい洞察を得て、未来予測に役立てている。(例:DueDil*、Premise 、Enigma)

■チームの専門分野を活かして、特定分野において高頻度で発生する重要な課題を、AI技術を使って、人では管理しきれない部分を補う。(例:オンライン詐欺探知のSift ScienceやRavelin* )

■これまでのAIフレームワークをプロダクトにしたり、新規のAIフレームワークを様々な商業的な課題の解決のために提供する。例えば、特徴選択、ハイパーパラメーター最適化、データ処理、アルゴリズム、モデル学習、デプロイメントなどのフレームワーク。(例:H2O.ai、Seldon*、SigOpt)

■知識労働者が行っているもので繰り返し発生する作業、構造化されているが、人的ミスの余地があり、時間のかかる作業を日常的な状況判断を行い自動化する。(例:Gluru, x.ai、SwiftKey)

■ロボットや自立して動くエージェントが物理世界で物事を感知、学習、意思決定する力を与える。(例:Tesla、Matternet、SkyCatch)

■長期の視点に立ち、学界が担うような分野での研究開発(R&D)に注力する。学界の予算は厳しく、発展しずらいため、その分野に進出するリスクを取る。(例:DNN Research、DeepMind 、Vicarious)。

これについての議論は別の記事でもまとめられている。つまり重要なことは、大手データ所有者(Google、Microsoft、Intel、IBM)による技術のオープンソース化と多様な企業がAI技術を安価に提供し始めているということでこれらの技術的なハードルが急速に下がっていることを意味する。AIの発展に向けて進むには、専有データへのアクセスやデータ構築、経験豊富な人材の獲得、そして魅力的なプロダクト開発が必要だ。

AI企業や投資家が懸念する課題は?

AI企業と投資家は、AI分野に足を踏み入れる際に注意を払う業務上、商業上、財務上の課題がある。考慮すべき重要なポイントは以下の通りだ。

業務上の課題

■長くかかる研究開発と短期のマネタイズのバランスをどのように取るか?解放されるライブラリやフレームワークの数は増えているが、それでもプロダクトのパフォーマンスを十分なものにするためには最初に多額の開発費用を投じる必要がある。ユーザーは、人が行った場合に得られる結果をAIのパフォーマンスのベンチマークとすることが多いだろう。まずAI開発は人と競うのだ。

■人材が足りない。スキルと経験をバランス良く持っている人は少ない。どこで人材を確保し、その人材を離さないようにするにはどうすべきか?

■開発、プロダクトリサーチ、デザインのバランスを最初の段階から検討する。プロダクトの美しさとエクスペリエンスを後から考えるということは、豚に口紅を塗るようなものだ。豚であることは変えることはできない。

■AIシステムを便利に使うには、ほとんどの場合データが必要だ。データが大量にない場合、初期段階のシステムはどのようにブートストラップすべきか?

商業上の課題

■AIプロダクトはまだ比較的市場にとって新しいものだ。そのため購入者は技術者でない場合が多いだろう。(あるいは、開発者側が制作しているプロダクトの肝を理解するための専門知識が足りないかもしれない。)販売するプロダクトを初めて購入しようと思っている人かもしれない。販売サイクルにおける全てのステップとハードルを細かく検討する必要があるだろう。

■どのようにプロダクトを提供するか?SaaSなのか、APIなのか、オープンソースなのか?

■プロダクトには有料のコンサルティングや初期セットアップ、あるいはサポートサービスを付けるべきか?

■クライアントのデータから深く学習し、他のユーザーのためにそれを活用できるか?

財務上の課題

■どのような投資家が、そのビジネスを高く評価する立ち位置にあるだろうか?

■投資可能と判断される成果の段階はどこだろうか?最小限の機能を備えたプロダクト、出版物、ユーザーのオープンソースコミュニティー、あるいは定期的な収入源の確保だろうか?

■コアとなるプロダクト開発に注力すべきか、クライアントに寄り添いカスタマイズに応対すべきか?

■価値あるマイルストーンに届く前に新たな資金調達をしなくてもすむよう、予め余裕ある資金調達を計画する。

開発ループの中にユーザー入れる

AIがベースのプロダクトにユーザーが参加することで、プロダクトの価値は高まる。それには2つの理由がある。1つは、機械の認知はまだ人間の認知には及ばないからだ。ソフトウェアの弱点を補うには、ユーザーの助けが必要となる。もう1つは、ソフトウェアの購入者やユーザーには限りなく多様な選択肢があることに関連する。そのため乗り換えも頻繁に起きる。(アプリの平均の90日内リテンション率は35%だ。)

プロダクトを使うことをユーザーの習慣にするハイパーパラメーター最適化も役立つ)には、プロダクトが提供すると示した価値をすぐにユーザーが感じられるようにすることが重要だ。以下のプロダクトは、開発ループにユーザーを入れることでパフォーマンスが改善することを証明した。

検索:Googleは予測入力を言葉の意味の違いや検索用語の意図を理解することに役立てている。

画像認識:Google TranslateやMapillaryの道路標識検知では、ユーザーが内容を修正することができる。

翻訳:Unbabelのコミュニティーの翻訳者は、機械の翻訳結果を修正することができる。

Eメールのスパムフィルター:Googleはここでも大活躍だ。

機械学習が導き出した結果がどのように得られたかを説明することで、さらにユーザーを巻き込むことができると私は考えている。例えば、IBM Watsonは、患者に腫瘍の診断を示す際、関連する内容も合わせて提示している。そうすることでユーザーの満足度も向上し、システムを長期的に利用することやそれに投資することを促す信頼関係を作る助けとなる。理解できなものを信頼するのは一般的に難しいことなのだ。

近年のAIへの投資環境は?

この話と最近の投資環境と照らし合わせるため、まず世界におけるVC市場がどうなっているかを見てみようと思う。2015年のQ1からQ3では472億ドルの投資が行われ、ここ20年間の内17年間の年間の投資額を上回った(NVCAより)。

来年には550億ドルを超えることが予想される。AI市場にはおよそ900社がビジネス・インテリジェンス、金融やセキュリティーといった分野の問題解決に取り組んでいる。2014年Q4には、功績があって名高い高等教育機関から誕生したAI企業が多くあった。Vicarious、Scaled Inference、MetaMind、Sentient Technologiesなどだ。

2015年1月1日から2015年12月1日まで、AI企業(ビジネスの説明に人工知能、機械学習、コンピュータービジョン、NLP、データサイエンス、ニューラルネットワーク、ディープラーニングといった単語を含む会社という定義)におよそ300の投資が行われた(CB Insights)。

イギリス企業のRavelin*、Signal、Gluru* らはシードラウンドを調達した。投資としては20億ドルが行われたが、コンシューマー向けローンとビジネス向けローンを提供する企業に投資が集中した。例えば、Avant(デットファイナンスと融資で3億3900万ドルを調達)、ZestFinance(デットファイナンスで1億5000万ドルを調達)、LiftForward(2億5000万ドルの融資)、Argon Credit(7500万ドルの融資)などで、デットファイナンスと融資が調達の大部分を占めた。重要なことに投資案件の80%は投資額が500万ドル以下であり、投資額のおよそ90%がアメリカ企業に向かった。資金調達ラウンドの75%もアメリカで行われた。

AI企業の資金調達とエグジット規模はまだ小さい。

エグジットに関しては33件のM&Aと1件のIPOがあった。その内6つの案件はヨーロッパの企業であり、1つがアジア、そして他は全てアメリカ企業の案件だった。最も大きな案件は、TellApartをTwitterが買収(買収額5億3200万ドル、調達額1700万ドル)、ElasticaをBlue Coat Systemsが買収(買収額2億8000万ドル、調達額4500万ドル)、SupersonicAdsをIronSourceが買収(買収額1億5000万ドル、調達額2100万ドル)だった。これらは投資額の数倍という固いリターンを産んだ。他の案件の多くは人材採用が目的だったようだ。買収時のチーム人数の中央値は7人だった。

しかし、AI分野への投資は、2015年のVC投資の合計5%を占めた。2013年の2%より高くなったが、他のアドテク、モバイル、BIソフトウェアには遠く及ばない。

AI企業の資金調達とエグジット規模はまだ小さく、ラウンドも取引額も低いということだ。そして、ほとんどの案件がアメリカに集中している。AI企業はアメリカ市場で訴求することが必要だと言える。

AIで取り組むべき課題

ヘルスケア

私はいくつかの夏を大学で過ごし、3年間を大学院で身体の中のがんの広がりに関連する遺伝子要素について研究した。そこで学んだことがある。治療法を確立するのはとても難しく、高額で時間がかかり、規則も厳しい。また多くは病を一時的に抑えるようなソリューションだ。

私は日々の心理状態やライフスタイルの細かな変化を長期的にモニタリングすることで、将来の健康状態を向上することができると考えている。将来的にほぼリアルタイムで健康状態を素早く検知し、健康状態を向上させながら、患者の長期に渡る治療コストを抑えることができるだろう。

現在のデジタルにつながったライフスタイルを考えてみてほしい。私たちが毎日使っているデバイスは、私たちの動き、生体情報、運動、睡眠、さらに生殖における健康をトラックすることができる。私たちがインターネットに接続していない時間はオンラインにいる時間より少なく、クラウドに様々なデータタイプを保管することに抵抗感も少なくなっていると私は考えている。(例えば、サードパーティーからアクセスする方法や、コンセントを得る方法についてだ。)ニュース媒体は同じストーリを別の角度から伝えるだろう。しかし、私たちがウェブを使って、そこから得られる恩恵を受けていることには変わりない。

集団レベルでは、これまで存在しなかったデータセットを活用するチャンスが生まれる。これらのデータにより、どのような個体の特徴や環境で病が発生し、進行するかについての洞察を得ることができるだろう。これは非常に大きなことだ。

AIを軸としたプロダクトはすでに市場に解き放たれている。

現代の治療モデルでは、患者は身体に異変を感じてから病院を訪れる。医者は何種類もの検査を行って初めて診断ができる。これらのテストは一定の段階(通常は末期の状態)を検出することができるが、その時点ではすでに病を治療する術は限られてしまう。(がんの場合は。)