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民進党は政権奪回を見据えて、鳩山由紀夫の外交・安全保障の理念に立ち返れ

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安倍政権が2015年9月に強行に成立させた安全保障関連法制をめぐって、民進党は立憲主義を揺るがしかねないとして、白紙撤回を求める意向を明らかにしている。筆者も元来、同法制に反対であっただけに、民進党の意向については理解することができる。

しかしながら、近い将来、民進党が再び政権を奪還し得たとしても、本当に安全保障関連法制を白紙撤回することができるのだろうか。万が一、白紙撤回を行なうのならば、米国政府は、普天間基地移設問題をめぐって迷走した時以上に、対日不信を深めることだろう。

昨今の中国の東・南シナ海への海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル実験を踏まえるのならば、民進党政権は、米国の深刻な対日不信を招き、日本の安全保障環境を悪化させてまでして、あえて白紙撤回に踏み切ることができるのだろうか。特に今日、日米の同盟関係の不公平性を持論とするトランプ米大統領の誕生が取り沙汰されていることを考慮すると、白紙撤回はトランプの持論を裏書きしていると、米国民の目に映ることになるだろう。リスクは余りにも大きいと言わざるを得ないのである。

ここで筆者は民進党に対して、次善の策として、原点に立ち返ることを提案したいと思う。民進党の原点は二十年前の旧民主党結成であるが、初代の党代表であった鳩山由紀夫が示した外交や安全保障に関する理念に立ち返るのである。

鳩山という政治家を今日、評価する人はごく限られている。確かにマックス・ウェーバーが唱えた、結果に対して責任を負う能力のある政治家こそが真の政治家であるという観点に照らすのならば、鳩山は最低の評価しか得られないのかもしれない。しかし筆者は、たとえ結果に対して責任を負う能力を欠いていても、確固たる未来のビジョンを提示する能力のある政治家をもまた評価すべきであると考える。

こうした筆者の観点に照らして、最高の評価を得るのは中国の革命家・孫文である。孫文自身もマックス・ウェーバーの観点に照らすのならば、最低の評価しか得られないだろう。例えば、革命運動に際しての日本の援助への依存や、辛亥革命に際しての袁世凱との裏取引などは、結果的に日本の侵略の誘発や、革命の破壊と内戦という重大な禍根を招いた。一方、孫文の示した三民主義は、孫文没後90年を経た今日においても、中国においてはなおも未来のビジョンとなっている。

鳩山は孫文とは比ぶべくもないが、彼が掲げた日本の外交や安全保障に関する未来のビジョンの骨子は、民進党が今もなお長期的な政策課題とするに足るものだと、筆者は考える。鳩山は1996年に発表した「民主党 私の政権構想」において、次の三つの長期的な政策課題を提起している。日米の同盟関係を対等なものにすること。沖縄の基地問題を根本的に解決すること。北東アジアに平和をもたらすこと。

鳩山によれば、三つの課題に取り組むにあたっての順序としては、第一に、日本外交のイニシャチブによって、北東アジアに平和をもたらす(これはその後、東アジア共同体の提唱につながっていく)。それが達成されれば、沖縄の米軍基地を全て撤去して「常時駐留なき安保」を可能なものにすることができる。

その一方で、日米の同盟関係を対等なものに作り直すとしている。この点については、鳩山はその後、憲法9条を改正して、集団的自衛権の発動を可能としつつも、その発動に当たっては、国連のお墨付きを必要とするなどの歯止めをかけるべきだという提言を行なっている。

鳩山の外交や安全保障に関する未来のビジョンの骨子を、民進党は長期的な政策課題に据えることはできないだろうか。そうすれば、政権交代に当たっても、安全保障政策が大枠のところでは一貫していることを示すことができ、対外的な日本の信頼性を保つことができるだろう。

もちろん民進党政権は、現行の安全保障関連法制をそのまま引き継ぐ必要はない。特に集団的自衛権発動の要件については、現行の法制以上に歯止めがかかり、透明性があるものにしなければならない。なお、鳩山はあくまでも集団的自衛権の行使容認の前提として、憲法9条の改正を提起していたが、改憲も安全保障関連法制の白紙撤回と同様に非現実的なことから、民進党政権は安倍政権の解釈改憲を継承せざるを得なくなるだろう。

また民進党政権になっても、現実的には、普天間から辺野古への基地の移設を進めるか、もしくは移設を凍結して普天間基地の継続使用を容認するかの選択肢しかないかもしれない。しかし民進党は、東アジアに平和が訪れて、東アジア共同体が実現する暁には、沖縄から全ての米軍基地を撤去するという方針を掲げることによって、米軍基地を恒久化させようとしている自民党との差異化を図ることができるだろう。

ただし東アジアに平和をもたらし、東アジア共同体を実現するのは、現下のところ決して容易なことではない。筆者は、鳩山が首相在任時においても、また現在においても誤っている点は、台頭する中国の脅威を直視しないことであると考えている。

中国の脅威を除去するためには、また東アジア共同体を実現するためには、何をなせばよいのだろうか。筆者は、当面のところ日米両国と中国との軍事的均衡を保つことによって紛争を抑止しつつ、中長期的には中国の市場経済化と民主化、特に後者を強力に促進するために、様々な布石を打つべきだと考える。

一般的に民主主義国同士は、相互に戦争を避ける傾向があるとされている。民主化された中国は、米国のみならず日本やフィリピンなどとの間でも戦争回避に努めることだろう。また東アジア共同体の実現に当たっては、民主主義をはじめとして市場経済や歴史観などの価値観の共有が必須である。それはEUを見ても明らかだ。

自民党政権は一時期中国の市場経済化を熱心に後押ししていたものの、残念ながら民主化に対しては一貫して無関心であった。特に安倍政権以降、自民党は権威主義的傾向が顕著になっており、中国の民主化どころか、日本の戦後の民主主義に対してすら、敵意を隠そうとしていない。そういったことから、筆者は、ほかならぬ民進党に対して、日本の戦後の民主主義の経験を中国に輸出する使命を担うことを期待するものである。