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トランプ新大統領に対する中国の歓迎と台湾の困惑:日本は何をなすべきか?

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トランプ新大統領の誕生に対して、中国と台湾は対照的な反応を示している。


中国の歓迎

中国側の反応は、概ねトランプ新大統領の誕生を歓迎するというものだ。

例えば、強硬な対外的主張を展開することでよく知られている『環球時報』の社説(「トランプの大勝利、米国の伝統政治に強烈な衝撃」)は次のように述べる。

選挙期間中にトランプが語った外交理念から推測すると、「トランプはおそらく米国の経済的利益を最優先させることから、米中関係の焦点は、地政学的なゲームから経済的利益の衝突へと移行するだろう」。

「地政学的なゲーム」とは、オバマ政権のリバランス政策(世界戦略の重心をアジア・太平洋地域に移そうとする外交・軍事上の政策)に端を発する米中の南シナ海やTPPなどをめぐる一連の地域対立を指している。

「地政学的なゲーム」の終了は、中国にとって何よりも歓迎すべき事態だろう。

さらに『環球時報』の上記社説は、トランプが中国側の米中関係についての青写真を共有する可能性についても、次のように指摘する。

「トランプはヒラリーの外交観の影響を深く受けたオバマよりも、米中の新型大国関係への関心が高いに違いない」。
「トランプは米国の伝統的な政治エリートよりも『ウィン・ウィン』への反発が小さいかもしれない」。

こうした中国側の楽観的な予測には、確固たる根拠があるのだろうか。

欧米や日本では、トランプの行動は予測不能と言われているが、『環球時報』の上記社説によれば、そうではないらしい。トランプには外交経験が欠けているものの、ビジネスを通して豊富な経験を積んでいる。そうしたビジネス経験が「おそらく米国の対外政策にも影響を及ぼすだろう」との見立てだ。

要するに、トランプの外交政策を支える原理を、ビジネス同様のdeal(取り引き)と見なしているのだ。これについては、米国の政治学者のイアン・ブレマーも同様の見解を抱いており、トランプは「共有する価値観に基づくものではなく、どのような利益を得られるかで判断する」と指摘する(『読売新聞』2016年11月13日)。


台湾の困惑

一方、台湾側の反応は、トランプ新大統領の誕生に対して、極力平静を保ち、今後の外交政策を見極めようとしつつも、困惑を隠せないでいる。困惑の主だった要因は、トランプ新大統領の下で米国のTPPからの離脱が確定的となったことだ。

蔡英文政権は、台湾経済の全面的な対中国依存という状況からの脱却を目指して、「新南向政策(東南アジアやインドとの関係を深める政策)」を始動すると同時に、将来的に米国の後援の下でTPPに参加することを計画している。

特に蔡英文政権は、馬英九前政権とは異なって「92年コンセンサス(中台が『一つの中国』原則を確認したものの、中台間に解釈の違いがある)」の受容を拒んでいる。そのために中台関係は急速に冷え込み、台湾経済に悪影響が見受けられるようになっている。そうしたことからも、蔡英文政権にとってTPPへの参加は悲願だと言えるだろう。

しかし、それだけにトランプ新大統領のTPP離脱の方針は、蔡英文政権に大きな困惑をもたらしたことは間違いない。

国民党寄りの『聯合報』の社説(「世界貿易は委縮するおそれがある、台湾は早急に対策を立てよ」)は、こうした事態を受けて、蔡英文政権に「新南向政策」によりいっそう注力するように求めつつも、「何としてでも大陸に改めて交渉の席に戻ってもらうことが、蔡英文政権の努力目標とならなければならない」と注文する。これは暗に蔡英文政権に「92年コンセンサス」の受容を求めていると言ってよいだろう。

もっとも、民進党寄りの『自由時報』の社説(「『恐るべきことが起こるのを待つ』だけでは役目を果たし得ない新たな課題」)は「地政学的な変化について言うと、情勢はさほど急を要するようには見えない」という判断を示す。というのは、米大統領選挙に先立つ7月の共和党大会で採択された政策綱領において、従来の対台湾政策の継続が盛り込まれたからだ。

ただし『自由時報』の上記社説は「トランプは畢竟するに非典型的な人物であり、米軍をアジアから撤退させると言ったり、米国人の仕事を奪ったリストに台湾を加えたりしている」ことから、今後もその動向を注視する必要があるとしている。


中国型の権威主義体制の勝利?

ところで、清華大学教授・貝談寧は『フィナンシャル・タイム』紙に、トランプ新大統領の誕生が中国側から歓迎される理由について、彼の外交政策以外にも、次のような点を指摘する。

「トランプの大統領当選によって、米国の民主主義体制が辱めを受け、中国の『エリート支配』的な体制がさらに多くの支持を獲得するだろう。中国の体制は、経験を欠いた無定見の候補者が政治権力の中心にアクセスすることを防止し得るからである」
(「中国のエリートはトランプをどのように見ているか?」)。

要するに、欧米型の民主主義体制が失墜し、中国型の権威主義体制が勝利したというのである。

一方、中国側にとっての歓迎の理由は、台湾側にとっては困惑の種となっている。例えば、中国寄りの旺旺グループに買収された『中国時報』でさえ、その社説(「米国式民主主義は挑戦に直面している」)において、次のように警鐘を鳴らす。「米国の大統領選挙は米国式民主主義の脆弱性をさらした」。欧米型の民主主義体制に倣った台湾の民主主義体制にも「逆流問題」が起きかねない。すなわち台湾と欧米との間には「思想・行動のモデルに依然として差があり、台湾では『明君』や『善治』に対する期待が依然として大きいことから、『中国モデル』は容易に台湾に浸透しかねない」。

今日「中国モデル」、すなわち中国型の権威主義体制の浸透力がじわじわと強まっている。そうした最中にトランプ・ショックが起こったことから、台湾を含むアジア諸国における欧米型の民主主義体制は岐路に立たされていると言えるだろう。


日本は何をなすべきか?:欧米型の民主主義体制を堅持すべし

最後に日本は何をなすべきかについて提言したい。近年、中国の周辺国に対する強硬姿勢が顕著になっていることから、日本の国益は中国のそれとは相反するようになっている。安倍政権がトランプ新政権に対して、日米同盟の重要性を再確認すると同時に、リバランス政策の継続を求める姿勢を打ち出していることは評価に値するだろう。

特にTPPが発効するか否かは、台湾の安全保障の根幹にも関わってくるだけに、安倍政権は共和党にも積極的に働きかけて、トランプ新政権にその承認に向けて再考を促すべきだろう。

また筆者は、中国型の権威主義体制がアジア諸国に浸透することを防ぐために、日本が台湾とともに欧米型の民主主義体制を断固として守り抜くべきだと考える。しかし残念ながら安倍政権にはその意志がないようだ。

欧米型の民主主義体制の骨子とは、民主化・情報の透明化・人権重視であるが、情報の透明化が安倍政権によって事実上骨抜きにされつつある。特定秘密保護法の制定やメディアへの圧力などのために、報道の自由度が急速に悪化していることがその証左だ。

人権重視についても、安倍政権の姿勢には疑問符が付く。

例えば、鶴保庸介沖縄相は、大阪府警の機動隊員による沖縄県民への「土人」発言について、「差別であるとは個人的に断定できない」と答弁した。鶴保沖縄相の発言は、トランプ新大統領のヘイト・スピーチと見紛う一連の発言と同様に、マイノリティーの人権には恐ろしく鈍感だと言えるだろう。

こうした事態を踏まえると、欧米型の民主主義体制を堅持するに当たっては、民進党をはじめとする野党による安倍政権への厳しいチェックが必要となるだろう。