ロラン市とコペンハーゲン首都圏が、歴史的な「持続可能な共生を目指す協力協定」締結!

どうしたらコペンハーゲンという首都とロラン市という地方都市が双方にとってメリットがあり、一過性ではない、永続的で未来志向の関係性が築けるのか。

去る2017年1月23日、ロラン市に於いて、ロラン市とHOFOR(コペンハーゲン首都圏の公益事業会社)が、強力で、長期的・戦略的な協力協定を締結しました。

この協定は、ロランという地方都市とコペンハーゲン首都圏がこれからの共生社会をともに目指す、世界にも類をみないもの。ひと言で集約すれば「持続可能な共生を目指す協力協定」です。

記者会見の様子。©By og Landskab

23日の協定調印式と記者会見は、ロラン市のホルガ・スコウ・ラスムセン市長をはじめ、フランク・イェンセン コペンハーゲン市長、HOFOR取締役会会長レオ・ラーセン氏、東デンマークで産官学のグリーン成長を牽引する組織Gate21のスティーン・クリスチャンセン会長が出席して行われました。

この協定締結のきっかけとなったのが、コペンハーゲン市が掲げている、2025年までに、世界で初めてのCO2ニュートラルの首都になるというエネルギー政策です。

これは、デンマーク政府の、2050年までに電力、熱、輸送のすべてのエネルギー部門で化石燃料から脱却するという、野心的なエネルギー政策に呼応したものですが、その大きな鍵の一つとなるのが、風力発電やバイオマス利用を中心とした、再生可能エネルギー生産です。

昨年8月のコラムでも書きましたが、コペンハーゲン市は、ロラン市が当初計画していた以上の風車の建設を必要としている、という問題が生じ、風車も150m級と大型化してきていることもあって、これだけの巨大な「発電所」を、コペンハーゲンのためだけに無条件に増やす訳にはいかない。

では、どうしたらコペンハーゲンという首都とロラン市という地方都市が双方にとってメリットがあり、一過性ではない、永続的で未来志向の関係性が築けるか、という議論を続けた結果、ついに、この協力協定の締結にこぎつけました。

今回の協定では、ロラン市とHOFOR双方の「対等なパートナーシップ」という部分に重点が置かれています。具体的な価値観として、「対話」「開示性」「信頼」を掲げています。

具体的には、どんな協力を行っていくのかというと、まずは、コペンハーゲン市および首都圏にグリーンなエネルギーを持続的に供給するための風力発電をロラン市でさらに推進することからスタートしますが、協定の内容はエネルギーにとどまらず、以下の5つの目標に向かって様々な取り組みを行っていきます。

具体的なプロジェクトの実施は、Gate21が推進役となって行います。Gate21は、デンマーク東部46自治体とスウェーデン南部の33自治体およびスコーネ地域、コペンハーゲン首都圏地域、ロラン市、グルボースン市を含むシェラン地域を併せた一大エリアを、グリーンシフトとグリーン成長の世界先進地域にすることを目指す、産官学が連携する組織です。

2017年のこのプロジェクトの予算は200万デンマーク・クローネ(約3300万円)で、ロラン市とHOFORが折半します。

これからの数年で、ロラン市には、長年の夢だったエネルギーシステムの研究センターや、インフォセンターができるでしょうし、実際に登って高さや風の強さを体感できる風車なども作られるかもしれません。HOFORが所有する水とエネルギーのリビング・ラボのスタディーツアーへの活用も広がりそうです。

また、食分野でも、ロラン市で生産されるフルーツ、ベリー類、野菜などのオーガニック食材を、コペンハーゲン首都圏の公共施設で提供するための話し合いが始まります。

この「持続可能な共生のための協力協定」締結は、ロラン島で80年代から脈々と続いてきた、再生可能エネルギーへの取り組みと、今世紀になって始まった、量ではなく質の高い食へシフトするための試み、それに都市偏重型社会ではなく、都市と地方の対等な関係構築のために努力をしてきた先見の明を持った人々の努力の賜物と言えます。

まだ、法整備や情報が乏しい中、電力会社や既存の仕組みと戦いながら農地に風車を建てて、風力発電を開始した人々。ワラやウッドチップを使って熱供給や発電をしてきた地域の人々。廃棄物処理やリサイクルをクリーンでグリーンな仕組みに転換してきた人々。

気候変動による海面上昇と高潮に対峙するため、新たな都市計画と、藻類培養によってお金を生み出す堤防づくりに取り組んできた人々。自宅を実証実験に開放し、これまで使っていた灯油ボイラーと引き換えに、水素のパイプラインを自宅に通して、何度となく訪れる研究者や専門家を受け入れ、協力しながら7年間の実証実験を完遂した人々。

EU拡大、市場拡大と価格低下の波を受けながらも、伝統の農業に新たな付加価値を生み出した人々。そして、それを推進、協力してきた市の職員や関係者、地元の中小企業の方たち。

記者会見では、市長などそれぞれの組織のトップが華々しく新たな一歩に署名をし、スポットライトを浴びていましたが、この新たな一歩は、こうしたこれまでの市民や職員、労働者の諦めない努力と、よりよい未来を信じる力によって踏み出すことができているのだということを肝に銘じて、取り組んでもらいたいと願っています。特に、地方自治選挙が行われる今年のデンマークだからこそ、あえて、そう書き記したいと思います。

おそらく世界初の「持続可能な共生のための協力協定」。これからのロラン市とコペンハーゲン首都圏の取り組みに、ぜひご注目を!

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