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安倍昭恵さんも驚いた無人島の防潮堤建設計画

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宮城県塩釜市。

昨年12月、ライフジャケットを身に付け、船に乗り込んだのは安倍首相夫人の昭恵さんです。警備にあたるSPも政府関係者も伴わず、宮城県沖に浮かぶ無人島に一人向かう昭恵さんに、「報道ステーションサンデー」は密着しました。

「自分の目で確かめてみたいなと。本当にそこ(無人島)に(防潮堤)が必要なのか。まったく必要でないのか......大事な税金を使って作るわけですから」

昭恵さんが自分の目で確かめたいという無人島の防潮堤事業とはどんなものなのでしょうか。

宮城県松島湾に浮かぶ4つの無人島。そこでは昔から農業が行われていましたが、1980年代、「農地を守るため」に防潮堤が建設されました。

しかし、2011年3月11日の震災による津波で、それらの防潮堤は破壊されてしまいます。そのため、国の「災害復旧事業」でそれらの防潮堤が立て直されることになりました。その事業費は20億円を超えるものです。

農地があったとはいえ、人の住んでいない島に立派な防潮堤が必要なのか。30分ほど船を走らせると、無人島の防潮堤が見えてきました。

漆島という無人島に上陸した昭恵さんは、みずから防潮堤を乗り越えて、その向こう側を見たとたん驚きました。

「あ、これなに? 農地じゃないよね」

その土地は完全に水没して、池のような景色が広がっています。

「これはいったい何なんでしょうね。誰が考えても必要ないと思う。防潮堤、建設計画をするならまず、現場を見ていただきたいと思いました」

これまでもたびたび被災地を訪れ、防潮堤問題に強い関心を持ったという昭恵さんは、夫である安倍首相にも「国はどう思っているのか」と質問したそうです。

「主人自身が、被災地に震災直後に入った時に多くの人から防潮堤を作ってくれと言われているそうです」

筆者自身、被災地で防潮堤をめぐる問題を取材してきましたが、震災から時間が経過し、防潮堤については地域ごとに考え方が異なってきているのを感じます。都市部では、安全のために必要だと考えていることころもありますし、震災前から牡蠣養殖など海とともに生活をしてきた地域では、住居を高台に移すなどして、なるべく自然破壊に繋がる防潮堤建設をやめてほしいという声も多いのです。

まして、今回にいたっては誰も生活していない無人島にまで防潮堤建設が検討されていたわけです。

防潮堤がある無人島の農地11か所のうち、連絡が取れた7か所の地権者に番組が話を聞いたところ、全員が「防潮堤は必要ない」と答えました。皆さん、コメを作るよりも買うほうが安くなり、30年ほど前から農業をしていないと言うのです。

無人島の農地3か所を持っている内海ただ子さん(70)はこう言います。

「いらないんでない? それは別に。だって田んぼ作らないところにお金を使う必要ないでしょう。ずっと何年も放棄してきたんだもん。別の方にさ、使ったほうがいいんでない。だって今、住宅建てられなくて騒いでいるところいっぱいあるでしょう。そっちさ回したほうがいいんじゃないの」

地権者も必要ないとする防潮堤建設を進めようとする背景には何があるのでしょうか。事業を計画した宮城県の担当者はこう説明します。

「10年くらい前から耕作放棄地になっているのは県でも理解していました。ただ、塩釜市の方針として、考え方としてここをどうしていきますか、といった時に農地として利活用を計っていくということだったので、災害指定を受けました」

番組で調べてみたところ、確かに塩釜氏の佐藤市長が防潮堤事業を申請する直前、宮城県の村井知事にあてた文書があることもわかりました。そこにはこう書いてあります。

「農業維持と経営安定に寄与するよう、農業振興を図ることを確約します」

つまり、県も耕作放棄地だと知っていた農地で「農業振興をはかる」と確約していたわけですね。これについて、塩釜市の担当者に聞きました。

「当時、農地の所有者に、農業を続けるかの意向調査は行っていません」
「(農業の振興をはかっていくという文書については)それは県から災害指定を受けるにあたって、必要な資料だとの話があり、それに則って出しました」

つまり、地権者の意向も聞かず、市は県の求めで農業振興を確約する文書をつくり、県はそれをもとに国に事業を申請したということです。

そこまでして、無人島の防潮堤再建を進めた理由について、宮城県の担当者は報道ステーションサンデーの記者にこう答えました。

「今回、直しておかないと、後で直せなくなってしまいます。災害指定を受けておかないと、復旧できません。あとで直すとなると、別な事業になり、県の持ち出し(支出)が非常に多い事業で復旧していくことになるので......」

今回、県がなんとしても無人島の防潮堤事業を申請した背景が「災害復旧事業」の仕組みにあるというわけです。被災した施設を直すためのこの事業では、国が費用の97%を負担します。この「災害復旧事業」は2015年度までに申請をしないと使えなくなります。そのタイミングを逃すと、通常の公共事業となり、県が半分を負担しなければなりません。時間の足りない中、いちいち地権者の意向を調査する時間がないまま申請しているというのが実態なのです。

さらに、「災害復旧事業」は、もともとあった重要施設を災害で壊れたから直す制度です。つまり、新しく建設するというカテゴリーでないために、費用対効果の検証や、地元住民の合意が一切必要ありません。

そんな中、農水省だけでも2400億円の予算となる「災害復旧事業」は進められているわけで、無人島の防潮堤も氷山の一角と思わざるをえません。

昨年、私は北海道南西沖地震から20年を迎えた奥尻島を取材しました。津波で甚大な被害を受けた奥尻島では震災のあと数年間、災害復旧工事でバブルに湧き、巨大なコンクリートの防潮堤が今も島を取り囲んでいます。話を伺った漁師の方の「東北の方は、奥尻島から学んで欲しい」という言葉が印象的でした。

「コンクリートの景色の奥尻には、昔のように奥尻の自然を愛してくれた観光客も来なくなった。巨大な防潮堤の影響か、牡蠣の養殖も昔のようにできない。若者は島を離れ、島の経済は悲惨なことになっている。数十年後に本当に必要なのか、じっくりと考えて、復旧事業を進めてほしい」

番組放送の翌日ですが、無人島の地権者と連絡をとった結果として、宮城県は無人島の防潮堤建設を見直す意向を示しました。住宅などの生活の復旧は迅速に行うべきですが、防潮堤などの大型事業については、できることなら2015年度までといった期限など設けず、地元の方の思いと向かい合い、地域ごとに将来本当に必要か否かを慎重に検討して、自治体には復旧事業を進めてほしいと思います。