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「これは銃弾を使わない第3次世界大戦」 イギリス地方都市の漁師が、EU離脱を支持した理由

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イギリスのEU離脱については、すでに多くの方が分析・所感を発信しておられるので、私は実際に訪れたある漁港の話をしたいと思う。国民投票の週にロンドンで取材をしていた私は、ロンドンで繰り広げられるイデオロギー論や移民問題とはまた異なり、生活実感としてEU離脱を求める地元の人の声も聞きたいと思った。そこで、ロンドンから北に車で4時間ほど走ったグリムズビーという漁師町を取材した。

グリムズビーの港沿いには、窓が割れ、壁がはげ落ち、シャッターの閉まった廃屋が立ち並んでいる。人気のない道沿いに一件、営業をしている魚屋さんがあるので入ってみた。店先には冷凍加工されたエビや魚のほか、タラやマグロ、メカジキなど生魚も置かれている。店主のネイサン・ゴッドリーさん(42歳)によると、どれも近海のブリテン諸島原産とのこと。

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「でもEUに加盟してから、デンマークのような加盟国だけでなく、加盟していないアイスランド、ノルウェーの船も領海で漁をするんだ。もはやイギリスの船はなく、すべて外国船からの魚ですよ」

と彼は言う。

「この道も、50年前はそこら中に店があったよ。人もたくさんいた。特に朝は賑やかだったな。グリムズビーの人は伝統的に漁業を営んでいたけど、EU加盟によって人はいなくなった。だから僕は離脱に賛成だけど、離脱しても僕が生きているうちに昔のような繁栄をするのは無理だろうね」

背景にあるのは、EUからイギリスが課せられている漁獲制限である。EUは水産資源保護のため、漁獲量も制限している。海域、魚種ごとに各国に漁獲許可量を割り当てたため、海に囲まれた英国は領海の多くを各国に明け渡す形となり、一部の海域ではフランスなどがイギリスの割当量を上回る「逆転」現象も生じた。

「EUが漁業界をめちゃくちゃにした。30、40年前には400隻あった船が、今では5、6隻しかない。コミュニティは完全に崩壊した」

と、怒りをぶつけるのは、グリムズビーで45年間漁業関係の仕事をしているジョン・ハンコックさん(58)だ。

「1970年に共同市場が共通資源への平等なアクセスを求め、我々の領海に(外国の)船を入れた。英国の船がスクラップにされた一方、外国では英国の領海で漁をするため造船されたんだ。EUの領海の7割が英国の領海であるにも関わらずね」

その結果、漁師の年収も激減した。

「昔の年収の10パーセントだ。南西部の沿岸の町を回った時、50~60隻の船の出入りがあった入り江には1隻もなくなっていた。船舶自動識別装置(AIS)を使って周辺地域の船を調べたら、コーンウオールの北部の沿岸には40隻の船が来ていて、英国船はそのうち1隻か2隻だった。それ以外はフランス、ベルギー、オランダ船だった。こんなことは間違っているよ」

「英国の領海なのに、なぜ我々は漁に出られないんだ?他国船は来ることができるのに。漁獲量の割り当てがあるからだ。だが我々の魚だ。漁業に限った問題ではない。英国全体として交渉すべきだが、決定権はブリュッセルが握っている。

これは銃弾を使わない第3次世界大戦なんだ。ドイツがヨーロッパ全土を支配しようとしている。離脱しなければ崩壊を迎える」

コントロールしているのは、イギリスとは共通の利益観念を持たない他国の役人である、というフラストレーションが、グリムズビーのあちこちでくすぶっていた。実際、アバディーン大学の調査によれば、イギリスの漁師の92%が離脱に賛成している。

今回、国民投票で離脱が上回ったことについて、独立党が離脱決定後に間違いを認めた「誇張された主張」や、キャメロン首相が定めた上限を3倍も超えていた移民数など様々な要因が議論されているが、さらに言えば、ロンドンから離れた地方都市の衰退と、それに伴うEUへの怒りと不満のマグマが予想をはるかに超えたものであり、それを政治もメディアもきちんと見極めることのできなかったという現実をまざまざと見せつけた象徴的出来事であるように感じた。

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長野智子が見た、国民投票当日のロンドン
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