JR北海道の闇

安全管理を放棄したかのような現場、そしてその実態を知らなかったという本社。いったいJR北海道の内部で何が起きているのでしょうか。

JR北海道は今月、新しい役員人事を発表しました。新社長には同社元常務の島田修氏。新会長には元JR東日本常務の須田征男氏。会見で島田新社長はこう語りました。

「きわめて厳しい登板であることは間違いない」

2011年5月、負傷者79人を出した石勝線の特急列車脱線炎上事故以降、現在に至るまでJR北海道で起きた主なトラブルは400件以上にのぼります。走行中に突然開いたドア、エンジンからの出火、ブレーキ異常、油漏れ、信号トラブル、レール破断など歯止めのかからないトラブルの数々。昨年9月には函館線で貨物列車が脱線事故をおこし、「レール幅が脱線危険レベル」にまで広がっていたのにも関わらず、補修をされずに放置されていました。

さらに昨年は、現場で計測したレール幅などの検査データと本社に報告されたデータが食い違っていることが判明。「報道ステーションサンデー」の取材でもデータ改ざんが多くの職場で常態化していることが明らかとなりました。改ざんした保線所の社員を直撃した記者の質問に、その社員は、

「監査で指摘されないようにする。最終的には改ざんということになりました」

「社内調査に対しても同じようなこともやっていたし、今回は国に調査ということなので、今まで以上に準備はしました」

「15ミリでも7ミリ、8ミリと報告します」「若干数値を過小報告することはずっと昔からやられています」「これくらいのオーバーなら大丈夫だよと。一歩間違えば、脱線してしまう状態」

と答えています。社内調査の結果、44ある保線部署のうち、33の現場でデータ改ざんが行われていたことがわかりました。

安全管理を放棄したかのような現場、そしてその実態を知らなかったという本社。いったいJR北海道の内部で何が起きているのでしょうか。

北海道の広大な土地に敷かれた約2500キロに及ぶレールに加え、豪雪などの気候条件による維持管理の負担、人口減少による利用者の激減など、JR北海道の鉄路はその8割が赤字路線です。赤字になれば、さらに予算が削られ必要な資材も十分に調達できません。現役社員の案内で線路点検に同行すると、いつ脱線してもおかしくない状態の線路が今も放置され、さらには30年前のエンジンが修理を繰り返して使われている状況がわかりました。

「耐用年数っていうのが確かあるはずで、それ以上使っているわけですよ、JRの車両は。経費削減だ、なんだかんだってね。壊れたりすると、部品がないと。廃車車両から持ってくるとか、ギリギリのラインでやっている」

2011年の石勝線脱線事故も、原因は使用限度を超えた車輪にあったことがわかっています。

実はこの石勝線の脱線事故は、JR北海道が抱えるもう一つの闇も浮き彫りにしました。

事故の4ヵ月後、当時の中島尚俊社長が自殺をしたことは衝撃的なニュースとして伝えられましたが、その際、中島社長が社員宛てに書いた遺書に、安全を訴える前に、意外な言葉あったのです。

「このたびの36協定違反では、多大なご迷惑をおかけしたことをお詫び致します」

36協定とは、時間外労働に関する労使間の協定のことです。その協定を超えた違法な残業が続いたことを、自殺をした中島社長はなにより先に謝罪していたのでした。事故直後、安全対策が問われていたまさにその時、中島社長は組合から残業問題で激しい突き上げを受けていたのです。

JR北海道には現在、4つの労組があります。最大の労組は社員8割をおさえるJR北海道労組。最大労組の幹部は社内でも極めて大きな発言力を持っているといいます。

「会社判断だけでは絶対にできません。まずは組合の言うことをきいてお伺いを立てる。人選、人事、そういうのは最大労組が握っているのが現実です」

最大労組の社員は報道ステーションサンデーの取材に答えました。

自殺した中島社長は、一部組合幹部の力を弱め、労使関係の正常化を模索していたといいます。しかし、自ら命を絶つ直前、社長の思いとはかけ離れた、ある合意文書を最大労組と取り交わしていました。それは、「労使対等」「車の両輪」「組合とコミュニケーションを図り、真の労使関係を実現する」という内容のものです。

最大労組の姿勢を疑問視する声は組合員からも出ています。しかし、表だって声を上げれば社内から排除されかねないと現役社員は言います。

「殺す、職場にいられなくしてやる。お前なんか飛ばせるんだ。そういう言葉を多数使って、威圧的にして、職場に出てきたら待ち構えて無視したり......」

この最大労組は革マル派との関係も取りざたされ、国会で平沢勝栄議員が警察庁に問いただす場面もありました。労働組合同士の激しい対立も、JR北海道社内の混乱に拍車をかけたとして平沢議員が質問で取り上げたひとつのエピソードがあります。白昼の札幌駅で、対立する組合が、組合が違う社員を結婚式に招待したとして、激しいもみ合いになった出来事です。

「結婚式にも出ちゃいけないとか、こういったことがまかり通っていれば、職場でのコミュニケーションがうまくできるはずがないと思うが」という平沢議員の質問に、JR北海道幹部は「運動方針と事象は聞いているが、業務遂行上に支障はない」と答えましたが、果たしてそうなのでしょうか。赤字体質と組合の対立、それにともなう、社内の情報共有やコミュニケーションの不足。こうしたことが、悪夢の連鎖のように起こるトラブルの背景になっているのではないでしょうか。

どうして組合間の摩擦がおきてしまうのか。記者の質問に最大労組幹部は答えました。

「主義主張が違いますもん、そりゃ」

今年1月にも、小樽にほど近い凍てつく北の海で、自殺とみられるひとりの男性の遺体が発見されました。JR北海道のドンと呼ばれた坂本眞一相談役です。

繰り返される経営トップの死という異常事態。その1ヵ月後にJR北海道には北海道警の捜査員が入り、家宅捜索が行われました。貨物列車事故後に行われた線路データの改ざんについて、事故原因の調査を妨害する悪質な行為だと判断した道警の捜査のメスがついに入ったのです。

今回新体制として送り込まれた島田新社長は、総務部長のとき対組合の窓口でもありました。須田新会長はJR東日本で保線現場の技術者だった人物です。組合の体質改善、老朽化した線路の保守などが期待されての人事なのか。なによりも、利用者のため、JR東日本、西日本、東海など全国規模の協力体制で、安全確保に努めてほしいと願うばかりです。

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