スパイ問題で冷え込む米独関係

去年7月始めに、米国がドイツの対外諜報機関である連邦情報局(BND)にスパイを送り込んでいたことがわかったからだ。

ドイツと米国の関係は氷河期のように凍り付いている。その理由は去年7月始めに、米国がドイツの対外諜報機関である連邦情報局(BND)にスパイを送り込んでいたことがわかったからだ。

ドイツの連邦検察庁は、米国に情報を渡していたBNDのドイツ人職員を逮捕して取り調べている。この男が渡していた情報には、BNDのスパイの実名を記したリストも含まれていた。またこの1週間後には、ドイツ国防省の職員が、米国のためにスパイ活動を行っていた疑いが強まり、検察庁がこの男の自宅などを捜索した。

7月初めにドイツ政府は、ベルリンの米国大使館のCIAの責任者に対し、国外退去を求めた。米国の諜報関係者が、同盟国政府から公に退去要請を受けるのは初めて。この異例の措置は、ドイツ政府の米国に対する激しい怒りを象徴している。

写真は、米国のNSAがベルリンに設置していた傍受アンテナの跡(筆者撮影)

普段は冷静なメルケル首相も「伝えられている疑惑が事実とするならば、これは友好国の間の関係とは言いがたい」と述べて米国によるスパイ行為を批判。政府のスポークスマンも「米国とドイツの間には、自由と安全を守るための方法について、大きな違いがある。この行為によって、ドイツが米国に対して抱いていた信頼感が損なわれた」という声明を発表。ドイツのショイブレ財務大臣は、語気荒く「米国によるドイツに対するスパイ行為は、馬鹿げているとしか言えない」と切り捨てた。

ドイツではおととし、元CIA職員スノーデンの暴露により、米国の電子諜報機関・国家安全保障局(NSA)がメルケル首相の携帯電話を盗聴していたことが判明。米国に対する不信感が強まっていた。

今回明らかになった疑惑は、米国政府がスノーデンによる暴露の後も、友好国であるドイツに対するスパイ活動の手を緩めていないことを浮き彫りにした。

ただし諜報の専門家の間では、友好国の政府に対してスパイ活動を行うことは、常識。その意味では、NSAによる首相の携帯電話の盗聴や、CIAのドイツに対するスパイ活動は、驚くべきことではない。19世紀に英国の首相だったヘンリー・ジョン・テンプルは、「永遠の友好国、永遠の敵国というものはない。永遠にあるのは、国益だけだ」と述べている。この警句は、現代にもあてはまる。

CIAとNSAは日本に対してもスパイ活動を行っているはずだ。日本の政治家の皆さんも、携帯電話で機微な情報について話すのはやめた方がよいと思います。

保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載

(文・ミュンヘン在住 熊谷 徹)筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de

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