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インダストリー4.0を加速するドイツ連邦政府

2015年06月26日 14時26分 JST | 更新 2016年06月25日 18時12分 JST
ASSOCIATED PRESS
Visitors inspect the new gas-steam power plant in Irsching near Ingolstadt, southern Germany, on Thursday, Sept.15, 2011. The system operated by E. ON power plant reached at a total electrical output of 570 megawatts, an efficiency of over 60 percent, making it the world record holder in terms of efficiency. Heart of the system is developed by Siemens, most powerful Gas turbine in the world, SGT5-8000H. (AP Photo/Matthias Schrader)

ドイツ政府と産業界は、工業生産のデジタル化計画「インダストリー4.0」に21世紀の成長戦略として大きな期待をかけている。連邦政府は今年からこのプロジェクトの主導権を握り、実用化へ向けてテンポを速める。

S・ガブリエル連邦経済大臣とJ・ヴァンカ教育研究大臣は、今年4月に開かれた世界最大の工業見本市「ハノーバー・メッセ」で、このプロジェクトの執行機関「プラットフォーム・インダストリー4.0」の総指揮を取ることを発表した。

この機関には、インダストリー4.0を実施するBITKOM(ドイツ情報技術・通信・ニューメディア連邦連合会)、VDMA(ドイツ機械・プラント製造業連合会)、ZVEI(電子・電気工業中央連合会)だけでなく、BDI(ドイツ産業連盟)、IGメタル(全金属労働組合)も加わっている。

ガブリエル大臣は、見本市会場で「ドイツの未来の暮らしや労働、物づくりはデジタル化に強く影響される。我々は、未来の製品や市場をめぐる競争に勝つために、今日重要な一歩を記す。ドイツはこれまでも物づくりで傑出しているが、インダストリー4.0によってその実力をさらに増強するのだ」と述べ、このデジタル化プロジェクトによって、ドイツ産業界の競争力維持をめざしていることを明らかにした。

インダストリー4.0が初めて公表されたのは、4年前。2011年のハノーバー・メッセで、ドイツ工学アカデミーのH・カガーマン会長らが「ネットを使った工業生産とIT技術の融合により、ドイツをデジタル化について世界のリーダーにする」と宣言した。

だがこの4年間、インダストリー4.0は足踏み状態だった。ジーメンスなど大手企業は、デジタル化の進んだパイロット工場を建設するなど、インダストリー4.0の実現に向けて着々と準備を進めているが、中規模企業(ミッテルシュタント)では、具体化のための準備が遅れている。その理由は、ドイツの企業数の約98%を占める中規模企業が、「我々の強みであるイノベーションのためのノウハウが、デジタル化によってプラットフォームに共有されることにより、他社に簡単にコピーされるのではないか」という懸念を持っているためだ。

インダストリー4.0の旗振り役の1人であるカガーマン氏は、企業向け財務ソフトのメーカーSAPの元社長である。このことからもわかるように、インダストリー4.0はIT業界主導のプロジェクトであり、ソフトウエアが勝負を決する。このため産業界には、「我々はIT業界の下僕になる気は全くない」という警戒感すら現れている。4年間インダストリー4.0が大きく進展しなかった理由の1つは、スピードを重視するIT業界と、長期的な視野を重視する機械製造業界の文化の違いだ。

連邦政府は、企業間の対立のために国家プロジェクトが遅延することを恐れて、インダストリー4.0の主導権を握ることを決めたのだ。米国では今年1月にGEが中心となってIIC(工業インターネット・コンソーシアム)という団体を創設し、IOT(物のインターネット)の普及へ向けて邁進している。

ドイツは、グーグルやアップル、フェースブック、アマゾンなど知名度の高い米国のIT企業が、工業生産のデジタル化でも世界標準を設定することを恐れている。実際、カガーマン氏は「ドイツはIOTでグローバル・スタンダードを作ることをめざしている」と語る。

インダストリー4.0の勝負は、今後10年間~20年間だ。ドイツ工学アカデミーは、「インダストリー4.0は、企業の労働生産性を少なくとも30%改善する」と予測する。またフラウンホーファー労働経済組織研究所とBITKOMは、「インダストリー4.0は、2025年までに、ドイツ経済全体の価値創出額を2670億ユーロ(34兆7100億円)増やす可能性がある」という予測を発表している。

ドイツ企業と米国企業、ドイツ企業と中国企業がIOTをめぐり、提携する動きも目立つ。さて日本政府と企業は、海外で大きなうねりになりつつある工業生産のデジタル化の波に、どう対応するのだろうか? 

週刊ダイヤモンド掲載の記事に加筆の上、転載。