幼児教育の重要性とこれから

教育水準について、日本の現場の方々の努力は大変素晴らしいと、取材や活動を続ける中で感じている。
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私は東京大学の2年生である。2015年に入学し、東大のFLY Program(http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/)に採択されて1年間休学した。休学中は世界各国の幼児教育機関や研究者の方々を取材したほか、取材にあたって、幼児教育の理論面や国内の状況についても調査した。本稿ではその中で得られた知見について述べる。

幼児教育は近年、特に教育経済学において重要視されているが、国内でその詳細はあまり知られていない。2015年にベストセラーとなった中室牧子氏の『学力の経済学』によって、一時的に焦点が当てられたが、近年では待機児童などの問題に埋没してしまった。

『学力の経済学』でも紹介されているが、ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授によると、幼児教育は教育において最も投資対効果が高いとされる。ヘックマン氏は、アメリカの一部地域の児童を数十年間に渡って調査した「ペリー就学前教育計画」などを参照しつつ、幼児教育の重要性を示した。この事例では、幼児期に学校と家庭教師の指導を受けた実験群と対照群で、収入や持ち家率や犯罪率などに大きく差が出た。

ここでキーワードとなるのは、「非認知スキル」という能力である。これは、IQなどの定量的な能力と異なり、用意に測ることのできない社会的・情動的性質を指す。具体的には、忍耐力、自信、積極性、協働力などである。

ペリー就学前教育計画においても、指導の内容はこの非認知スキルにフォーカスしたものであった。子どもが自発的に考えた遊びを採用し、集団で復習するなかで協調性を育んだ。その結果、14歳時点で実験群と対照群のIQテストの結果は横並びであったにもかかわらず、学習への積極性から学力は高く、大人になってからも学歴や年収が高くなった。

また、非認知スキルは何歳になっても身につけられるが、かなりの部分は8歳までに開発されるとも言われる。ヘックマン氏は以上のような根拠のもと、幼児教育の重要性を示した。

そして、幼児教育によって伸ばすべき非認知スキルの重要性は今後ますます高まっていくだろう。

それを示す身近な例として、大学入試改革を中心とする、日本の教育改革が挙げられる。

2020年より、日本の大学入試は大きく変わる。知識・技能に加え、思考力・表現力・判断力や、主体性・多様性・協働性までもが重視されるようになるのだ。また、AO入試・推薦入試の枠が拡大し、高校時代までの課外活動や授業への積極的な参加姿勢が合否に影響することも増える。

このような改革を行う背景で文科省が目指すのは、社会で活躍できる人材の育成だ。大学入試改革は高大接続改革の一環として行われ、大学自体も改革の指針が示されている。その中で文科省は、様々な課題に直面する日本社会において、活力や持続性を確かなものとするための新たな価値を創出する存在として若者の育成を目指すとしている。

資料中では、「子供たちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就く」、「今後10~20年程度で、約47%の仕事が自動化される可能性が高い」といったリサーチも引用されている。このような社会構造の変化の中で、これから生まれてきて22世紀まで生きようとする子どもたちには、具体的に何かをできること以上の抽象度の高い能力が求められていくだろう。

では、日本の幼児教育はどのような現状になっているのか。

雑誌『エコノミスト』の研究機関が2012年に発表した資料によると、日本の幼児教育水準は先進国や発展中の途上国を含めた45カ国のうち、21位だった。ただし、カリキュラム自体は高く評価され、13位である。足を引っ張ったのは幼児教育へのアクセス面であった。これについては我々の感覚とも合致する。

教育水準について、日本の現場の方々の努力は大変素晴らしいと、取材や活動を続ける中で感じている。先生に対する子どもの数が多く、仕事量も多い中で、丁寧に日誌を書いてPDCAを回そうとしている方を多く見てきた。また、2015年には保育・幼児教育について学際的に研究する「発達保育実践政策学センター」が設立され、新たな知見が発信され続けている。日本の幼児教育は素晴らしいポテンシャルを秘めているのだ。

第四次安倍内閣が幼児教育の無償化を提唱し、政策投資が本格的に増加しようとしている。

そんな中、これから日本の幼児教育機関は、先生は、保護者は、どのようにすればよいのか?そのヒントとなりうるような、海外の先進事例を共有していきたい。

参考文献

The Economist Intelligence Unit(2012)," Starting well Benchmarking early education across the world",

磯田 文雄(2015)「大学入試改革:その必要性と狙い」,

産経ニュース「『非認知能力』ってナニ? 実は次期指導要領でも重視」2017年5月17日,

ジェームズ・J・ヘックマン(2015)「『幼児教育』が人生を変える、これだけの証拠」,

文部科学省(2015)「新時代を見据えた国立大学改革」,

文部科学省(2017)「大学入学者選抜改革について」,

李嬋娟(2014)「非認知能力が労働市場の成果に与える影響について」,

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