熊本地震からの一年を振り返って

熊本城が元の姿を取り戻しつつあっても、それは熊本の現状を切り取った一部に過ぎません。現地を訪れ、自分ができることをひたむきに続けていきます。

私の生まれ故郷・熊本では、例年より一週間遅く、桜が開花しました。嬉しかったのが、震災後に立ち入り禁止となっていた熊本城の桜の名所「行幸坂」が、桜の開花に合わせて特別に開放されたこと。「行幸坂」が地元の方たちで賑わう光景は、私が幼き頃から見続けてきた熊本の風物詩です。

所々に崩壊の跡が残る熊本城の姿は、今もなお震災の痛々しさを感じさせますが、来年から天守閣が改修されるように少しずつ元の姿を取り戻しつつあります。目まぐるしく過ぎて行ったこの1年、私なりの視点で振り返ってみました。

■全国からサポートの声が集まったチャリティTシャツ

(チャリティTシャツの販売数は2100枚を超え、280万円を寄付しました)

熊本に本社を置く会社として何ができるのか。震災直後に自問自答を繰り返す中で出た結論は、服で貢献することでした。最初は熊本県内の製造工場への依頼を考えたのですが、工場も被災しており、製造できる状況ではありません。そこで他県の工場に呼びかけたところ、全国から「私たちでよければサポートしたい」という声が数多く集まりました。

時間的な余裕があったわけではありませんが、全ての製造工程にこだわるというファクトリエの軸はブラしませんでした。形だけのチャリティTシャツではなく、着心地の良さが感じられて、これからも長く愛用したいと思ってもらえるアイテムを作りたかったのです。長く愛用してもらえれば、着る度に熊本のことを思い出してもらえる。そんな思いを込めてものづくりを行いました。

■今も予断を許さない子どもたちの心のケア

(300名が避難していた熊本市南区の田迎西小学校)

震災後、熊本県内の小中学校や高校を幾度となく訪れました。健気に振る舞う子どもたちの姿に安堵を覚える一方、学校関係者や保護者の方たちと話をする中で、子どもたちが負った心の傷を知ることになります。はっきりとした言葉でまわりに気持ちを伝えられなくなったり、我慢することでストレスを溜めてしまったり。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)になる子どもたちも多く、今も予断を許しません。なぜなら、地震から一年が経ったことで当時の記憶が蘇り、その恐怖でPTSDを呼び起こしてしまう可能性があるからです。厚生労働省のデータによると、東日本大震災では被災した子どものおよそ30%が、震災から3年以内にPTSDを発症しています。

私には一緒に遊んだり話したりすることくらいしかできませんが、これからも学校に足を運び、子どもたちの心に寄り添っていきます。

(3月26日~29日に開催されたスケートプログラムの様子。子どもたちが少しずつ元気になってきています)

■地震避難者が0名になっても復興への道のりは長い

震度7を二度にわたって記録した益城町。益城町立木山中学校は、渡り廊下が倒壊寸前となり、図書室から漏水した影響で、階下の職員室が水浸しになりました。授業が再開したのは5月9日で、地震発生から実に25日ぶりのこと。木山中学校は校舎が使えなかったため、隣にある益城中央小学校の教室を借りて授業を行いました。

(全校生徒の97%が避難した益城町の木山中学校にて物資を配給)

(敷地内の車中泊なども含めて約1600人が避難していた益城町総合体育館)

状況が落ち着いてからは、避難所から仮設住宅・みなし仮設への移住が進み、昨年末にはようやく地震避難者が0名になりました。ただ、復興を遂げたと言える状況ではありません。災害対策本部YMCA益城ボランティアセンター長である秋寄光輝さんは、今の状況を以下のようにおっしゃっています。

"住民同士で日々協力し合っているものの、これから復興というステージに上がっていくためには、多くの困難が待ち受けています。中でも、住居や仕事を含めた今後の生活をどうするのかという問題は深刻です。被災地の現状について、他の地域ではあまり話題になっていないと聞いていますが、今後も私たちが置かれている状況に少しでも関心を寄せていただければ幸いです。"

■今も続く復興支援

(今年4月に行われた『くまモンあのね』出版記念パーティ)

チャリティTシャツを作った際、デザイン面でご協力をいただいたのが、私と同じく熊本県出身の小山薫堂さんです。小山さんは震災後、被災された方たちの支援を行う任意団体『くまモン募金箱実行委員会』を設立。

その活動の一環として立ち上がった FOR KUMAMOTO PROJECTでは、被災地で見たり、聞いたり、感じたりしたことを『#くまモンあのね』というハッシュタグをつけてTwitter でつぶやくという企画が実施されました。

1万件以上のメッセージを一冊の本にまとめたのが、書籍『くまモンあのね』。メッセージを寄せた方たちのもとへ実際にくまモンが会いに行くという本で、美しい熊本の風景も相まって、心温まる一冊になっています。

出典:img.cinematoday.jp

(佐藤健さん著『るろうにほん 熊本へ』は4月14日発売)

『るろうに剣心』でのロケ撮影をはじめ、何かと熊本に縁が深いという佐藤健さん。そんな佐藤さんが、熊本で出会った人たちや伝統文化などを紹介したのが『るろうにほん 熊本へ』です。

この本は、熊本県内の全ての高校に寄贈され(計150冊)、寄贈式も行われました。佐藤さんとは、RKK熊本放送の情報番組『ウェルカム!』でご一緒させていただいたのですが、熊本に対する愛情が言葉の端々に滲み出ていて、熊本出身の人間として嬉しく思いました。

ファクトリエでは、昨年に引き続いてチャリティTシャツを販売することに加え、今年はチャリティトートバッグも販売します。YMCA益城ボランティアセンター長の秋寄さんの言葉に表れていたように、復興への道のりはまだまだこれから。

熊本城が元の姿を取り戻しつつあっても、それは熊本の現状を切り取った一部に過ぎません。現地を訪れ、住民の方たちと触れ合いながら、自分ができることをひたむきに続けていきます。

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