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被害を利益に変換させる"害獣ビジネス"

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私の地元・熊本県では、野生鳥獣による農作物の被害が深刻化しています。特に増加しているのが、2大害獣の1つに挙げられるイノシシ。環境省のデータによると、1990年に約25万頭だった全国のイノシシは、2012年には約90万頭を超えています。


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(2016年12月版-くまもと農家ハンター説明資料参照)

被害額は約200億円とも言われ、辞めていく農業従事者も後を絶たないそう。個人的にも幼き頃からデコポンを食べてきた身として、収穫直前のデコポンが被害に遭ったことで「農業から退きたい」とまで落ち込む人たちがいるのはやるせないものがあります。


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(2016年12月版-くまもと農家ハンター説明資料参照)

ただでさえ自給率が低い日本において食糧の確保が脅かされている今、希望の光となり得るのが、若者たちの発想から生まれた害獣ビジネス。マイナスをプラスに変える大胆なアイデアに、私は大きな期待を抱いています。

■日本版「ジビエ」の普及



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熊本の若手農家50人によって結成された「くまもと☆農家ハンター」

彼らは、自らの農作物を食べようと集まってくるイノシシを、鉄製の牢屋のような「箱罠」を畑に設置して捕まえるという取り組みを行っています。箱罠猟は銃や猟犬が不要で、山に出ていく労力が不要というのが、農家の取組みとして意を得ています。

またメンバーは自分の農園のみならず、イノシシ被害に苦しむ近所の畑にも設置して被害を軽減させつつ、1頭平均1万2千円もの捕獲報奨金が農家の所得向上につながっています。

自分たちの力だけでは限界があるため、一頭あたり1万円の懸賞金を出して、周辺の住民に捕獲を要請。イノシシに懸賞金を掛けるという話題づくりを行うことで、問題意識を広域的に浸透させています。

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箱罠捕獲のポイントは、生きたままであること。なぜなら、生きたまま処理した方が、新鮮なうちに精肉出来るからです。ヨーロッパでは、野生鳥獣の天然モノの肉を「ジビエ」と呼んでおり、貴族の伝統料理として古くから発展。「くまもと☆農家ハンター」のメンバーたちも「いただいた命を大切につなげたい」と日本にも「ジビエ」を広めるべく、捕獲したイノシシを食用として販売すべく準備を進めています。

■多方面に用途が広がるイノシシの部位



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(2016年12月版-くまもと農家ハンター説明資料参照)

イノシシから得られるのは肉だけではありません。まだ構想段階ですが、骨から出汁を取り、豚骨ならぬ「イノコツラーメン」を売り出すことも視野に入れているそうです。他にも美味しいジビエ向け以外の箇所の肉は、農家ハンターが生産している規格外の野菜と混ぜて純国産ドッグフードを作るという構想があるように、あらゆる部位から収益が生まれていく可能性があります。

熊本県外でも害獣ビジネスは立ち上がっており、イノシシ駆除の先進地と言われる島根県邑智郡美郷町では、農家が捕獲したジビエを集め加工する仕組みを作り、「おおち山くじら」というブランド肉として全国に出荷。さらにはフレンチのシェフとコラボして、流通・保存に優れた高級缶詰の開発を行い、都市部の若者をターゲットに販売しています。

■マイナスに揺れていた振り子は、その分だけプラスへ



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(2016年12月版-くまもと農家ハンター説明資料参照)

害獣による被害は、今後ますます増えていくと予想されています。地球温暖化によって冬季も飢えることが減り出生数も増加。さらに生息域が農村部に及び、耕作放棄地が拡大。高齢化に伴って猟師の数が減り、イノシシの数は増えるばかり。何か、そして誰かが対策を打たなければ被害に歯止めが利かない中、害獣ビジネスの発展は農家を保護する上でも、安全安心な農産物の確保、ひいては自給率を維持する上でも、地域の未来を担う若い農家自身が被害対策に打って出ることは大きな意義があると言えるでしょう。

それだけでなく、先ほどの例に見られるような新たな価値を創出する可能性も秘めており、アパレルブランドを運営している立場としてはイノシシの皮を使用した製品開発には特に興味を惹かれます。これまで振り子がマイナスに大きく揺れていた分、その反動で大きなプラスが生まれるかもしれない。今後の動向に大注目です。