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出口治明×白河桃子対談 共働き世代に伝えたい! パパはゾンビ問題、主夫からお金と仕事の教養まで

2016年08月31日 17時00分 JST | 更新 2016年08月31日 17時00分 JST

2016年に『働く君に伝えたい「お金」の教養』を上梓したライフネット生命保険・出口治明会長と、女性のさまざまなテーマについて発信し、『専業主夫になりたい男たち』を上梓した白河桃子さんが、ライフネット生命保険本社にて「お金と仕事」について対談しました。

「共働き世代」が知っておきたい、お金のことやパートナーとの家事分担は、長時間労働の是正と団塊世代の親や上司による理解が鍵になるようです。

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●育休は"かっこいい"ものになったか

白河■私はこれまで婚活や妊活を含めた女性のキャリアデザインなどについて提唱してきましたが、2016年1月に『専業主夫になりたい男たち』という本を書きました。"働き方改革"について特に伝えたいことがあったんです。本書で取り上げた、責任を持って家事・育児をする夫と、外でバリバリ働く妻の姿は、読者の方に新鮮に受け止められたようです。

出口■働き方の改革は、今日本で一番求められていることですね。

白河■私のミッションは働く女性とそのパートナーを育てることなんですが、性別役割分担を超える極端な例として専業主夫に注目しました。今、11万人の男性(主夫)が妻の扶養に入っているんです。

出口■この本で初めて知りましたが、専業主夫は厚生年金保険の第3号被保険者という理解でいいのでしょうか? だとしたら、この数字はもっと大きくなるかもしれません。

白河■そうなんです。専業主夫家庭というのは、実は結構あるんですよ。旦那さんが主夫になるきっかけは様々ですが、病気や奥さんの転勤、介護という外的な理由が多いです。同時に、妻の仕事への意欲が高いことや圧倒的な年収差というのも理由にはありました。

出口■僕も長年ビジネスパーソンとして外で働いてきたので、反省もあるのですが......男性で家事をする人は、本当に少ないですね。

白河■日本は男性が家事・育児をすることに対しては遅れています。国や会社と戦わないと育休を取得できない、という状況です。一方の北欧、特にスウェーデンは、なんと70年代から"イクメンキャンペーン"をやっているんですね。ポスターも凝っていて、モデルには、国内で一番有名な重量挙げの選手を起用して、男性が育児をすることはマッチョ(男らしいこと)である、ということを印象づけています。でも日本は、共働き家庭であっても7割以上の男性がまったく家事をしていないという状況なんです。

●出口会長も懸念する"パパはゾンビ問題"

白河■実はいま、多くの家庭で"パパはゾンビ問題"というのが起きていまして(笑)。これ、なにかっていうと、ワーキングマザーの方たちがみんな、「パパは"もう死んだもの"と思っている」と言うんですよ。つまり、自分は独身時代とは働き方を変え、家事と子育てもすごく忙しい。子どもの命について24時間責任をおっている。

でも夫の働き方は変わらず、深夜帰りばかり......。パパがいると思うと手伝ってくれると期待してしまって逆につらくなるから、いないものだと思わないといけない。こういうことなんですね。専業主婦家庭のママさんに「もう一人子どもが欲しいと思った時に、何が必要ですか?」と聞いたら、「夫が早く帰ってくること」と答えるくらいですから。

出口■日本は母子の孤立が1日10時間以上起きていると言われています。長時間労働は、本当にこの国の大問題だと思います。これはあるところで女性の皆さんに聞いたのですが、彼女たちは「日本の男性の7、8割は家事・育児、介護など何もしない」と実感している。

ところが別の質問で、「あなたは自分のパートナーを、自分が思うように転がせますか?」と尋ねると、7、8割の方が「だいたい転がせます」と答える。

ということは、やはり一番の原因は夫が不在だということ、夫が家に帰らないことであって、企業が三六協定をもっと厳格にして、ともかく18時になったら帰宅させるようにすべきです。早く帰宅した夫は妻にうまく転がされる。

そうすれば数年を経ずして、夫は家事・育児、介護をやるようになるはずです。ですから、問題解決の一番の早道は、残業を徹底的に禁止すること。夫を早く帰してしまえば、いろいろな問題が解決するのではないか、と心底思っています。

白河■小さな力でも大きな変化をもたらす「レバレッジポイント」というものがありますね。日本の仕事と家庭を変えるとしたら、それはまさに長時間労働をやめることだと思います。

でも、すぐには難しい場合、夫婦でどうシェアするかのバランスが問題。「主夫家庭」の奥さんも、かなり働いていました。普通のサラリーマンの3倍くらい稼いでいる方も多かった。でも、女性が大黒柱の家庭は「夫不在家庭」のようにはならないんですね。やはり奥さんは子どもとの時間をしっかりとるし、子どももママに寄っていく。

母子の絆は強いです。まったく育児家事ができないという大黒柱妻はいないんですね。夫もフリーランスや在宅の仕事などをしている。一方普通の専業主婦家庭は、どちらか一方欠けた瞬間に回らなくなるんですよね。

出口■それは、大きなリスクですね。

白河■そもそも私がなぜ、イクメンじゃなくて主夫に注目しているかと言うと、主夫家庭の奥さんたちがすごく幸せそうだし、とても仲のいいご夫婦が多い印象だからです。主夫が世間で注目されているのは、家庭のイノベーション的存在だからだと思うんですね。先日ダイバーシティー経営企業100選に行った時に、受賞された企業の社長がこんなことをおっしゃっていました。

「空気を壊す人はイノベーションをもたらす人。だから私はその人を全力で褒めるし、全力で応援をします」と。私が主夫に対して持っている思いは、まさにそれと一緒かもしれない。主夫って、世間ではまだそれほど理解されていないのですが、その違和感は彼らが、男性が働き、女性が家事・育児をする、といった既成概念を壊す存在だからですよね。だから多くの人はそれを見て居心地が悪くなるのかな、と思います。でも、そこにこそイノベーションはあるんですよ。

出口■おっしゃるとおりだと思います。

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●社員をゾンビ化させる、"時間と労働力は無限"という風潮

白河■出口さんはよくよくご存知だと思うのですが、日本って三六協定の特別条項を結ぶと、社員を何時間残業させてもいい国なんですよね。大企業の7割がそれを結んでいて、しかも上限がないのでヘタしたら、月200時間の残業もアリになってしまう。もし厳しくなってきて監督が入ると摘発されてしまうから、実態に合わせて、じゃあ100時間にしとくか、みたいなことが起きてしまうんですよ。結局、残業の上限時間に蓋をしない限り、いたちごっこになってしまう。

出口■蓋をするか、もしくはインセンティブを与えるか、どちらかですね。高度成長時代を生きてきた上司は、時間と労働力は無限だと思っているので、余計なレポートなどを部下に無意識に頼んでしまう。部下の1日の仕事の半分を要してしまうのではないか、と思うくらい。

白河■あった方がいいけど、なくてもいいものを頼んでいるっていうことですよね。

出口■はい。無自覚に時間と労働力は無限という発想に立っているから、平気でそういうことをしてしまう。ですから、残業時間の上限を決めてしまえば、仕事の指示の仕方を考えていかざるを得なくなると思うのです。

長時間労働については、よく次のような数字の話をします。ここに日本という国があります。日本の人たちは2000時間働いて、夏休みは一週間とれるかどうかという働き方をしています。成長率は、アベノミクスを3年間やってみて平均0.6%でした。これを他の国と比較してみましょう。

アメリカは人口が増えていて、資源も潤沢にあるので、単純に比較できません。よって、同じ少子高齢化で悩んでいるヨーロッパと比較をしてみましょう。

ヨーロッパは1300~1500時間労働で、夏休みがだいたい1ヶ月とれる。同じ期間の平均的な経済成長率は1.5%あります。これを見たら、どちらの働き方がいいかは一目瞭然です。やはり、問題は長時間労働、さらに言えば労働生産性の低さにあるのです。

白河■本当におっしゃるとおり。すごくわかりやすい比較です。

出口■では、どうして日本はこのような長時間労働でやってこれたか。答えは簡単で、要は、高度成長時代は成長率が7~8%ぐらいあったからです。7~8%成長だったら、72のルールに当てはめると10年で経済規模(≒所得)は倍になります。10年我慢して所得が倍になるのなら、夜遅くまで働いても、休みが少なくても、まあ仕方がないと思えます。

ですから、戦後の日本はある意味3つの要素(労働、休暇、所得)のバランスがとれていたのです。さらに、戦後は冷戦、人口の増加、アメリカに追いつけ追い越せのキャッチアップモデルという、成長するための外的条件が揃っていた。

白河■出口さんの『働く君に伝えたい「お金」の教養』にかいてありましたね。戦後のラッキーセブンについて。

出口■だまって働いていればそこそこの小金持ちになれた時代だから、みんなが納得していたのですが、今は成長のための外的条件がことごとく崩れてしまっています。同じことをやっていても苦しくなるだけです。したがって、ヨーロッパのように本当に働き方を変えるしかないのです。

白河■この本は若い人たちのための本ですが、若者たちだけでなく、彼らの親世代にこそ知ってほしい話だと思いました。昔とは違ってしまったことを。今の当たり前の常識が、実はあまり知られていないので。

出口■著名なファンドマネジャーの方が、ツイッターで「この本に書いてあることは当たり前の事で、グローバルには中学生とか高校生も知ってること。でも日本では、大人もほとんど知らない」ということをおっしゃってくださいました。僕もそう思います。

白河■そうですよね。私を含め、お金のことってみんな知らない。本当に出口さんの本を20代のうちから読んでおけばよかったなと思いました。

出口■ありがとうございます。

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●自由な働く女と、不自由なイクメン

白河■とはいえ、やっぱりまだ女性にとって仕事は特別なもの、当たり前ではない、と思っている人が多いのも事実。しかも、女性にとって仕事はかつてのように輝かしいものではなく、やらなくてはいけないことなんですよ。

女性を養える男性があまりにも少ないので、専業主婦だって努力しないとなれない。まあ、だからこそ、ないものねだりというか、専業主婦という希少価値に憧れてしまう人が多いのですけど。

出口■もっと自由に考えたら人生が楽になると思います。カップルのどちらかがものすごく稼げるのであれば、片方は仕事を辞めてもいいのです。その役割は人生のステージによって自由に交替すればいい、と僕は思います。

白河■そうなんですよね。日本の男性のつらさについては、最近「男性学」としてよく語られていますが、これまで働くという選択肢しかなかった男性たちは、非常につらかっただろうなと思います。男性が仕事において得をしている部分はあるのかもしれませんが、逆を言えば、彼らには仕事しかなかったんです。一生働いて家族を養わなきゃいけない男性の人生は、辛いものがあります。

出口■途中で職場を辞めるのは変な人、一生同じ職場で頑張る人が偉い人、家族を食べさせられるようになって初めて一人前。そんなガラパゴス的なことを常時刷り込まれていますからね。そういう古い常識から離れなければいけないのですが・・・。

●働くことが当たり前でない親世代とのギャップ

白河■日本って、女性が人に育児を任せた瞬間にすごく批判されますが、逆も同じで、男性が働かないって言った瞬間、やっぱりものすごく批判されるんですよね。

出口■戦後のキャッチアップモデルの中では、みんなが同質性をもっていることが効率が良かったのだと思います。最初は都合がいいというだけの便宜的なものでしかなかったのに、同質性からはずれた人を攻撃するやり方があまりにも上手く行ったために、社会全体が歪んでしまったのだと思います。

白河■そうですね。私は女子大で授業を行うことがあるのですが、お母さんから「働くことは当たり前」と教えられている女子大生は少ないです。それはなぜかと言うと、お母さんにとっては、自己否定することになってしまうから。なかなか言いづらいところもあるのだと思います。

今、私が注目しているのは、専業主夫家庭に育った子どもがどういう風に育つのか、ということです。私はよく、女子大生に「働かないという選択肢はないよ」と言うのですが、今はちょっと反省しているんです。女子大生よりも男子学生に「将来ラクをしたかったら