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日本代表バトンパスの秘密

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TRACの大西です。

リオ五輪での男子400mリレーにて日本チームが銀メダルを獲得する偉業を見せてくれました。

予選から好調であった日本チームですが、ジャマイカやアメリカといった強豪国はエースを温存しており決勝では厳しい戦いが予想されていました。
しかし、1走の山縣選手が好スタートを見せると勢いをそのままに、2走飯塚選手、3走桐生選手と見事な走りを見せ、アンカーケンブリッジ選手にバトンが渡る際には、僅かな差ではありますが先頭でバトンを渡しています。追ってくるカナダのダグラス選手(今大会100m3位)とアメリカのブロメル選手(今大会100m8位)の猛追を振り切り、ボルト選手に続く2位でゴールしました。アジア新記録であり、世界歴代第3位のパフォーマンスでした。

さて、走力で劣るとされる日本チームがなぜこのような好成績を収めることができたのでしょうか?
注目すべきは日本の「バトンパスワーク」にあります。皆さんお気づきになられたでしょうか?

一般に運動会などで行われているバトンパスは「オーバーハンドパス」と呼ばれるバトンパスです。
これはバトンを持つ渡し手ともらい手が大きく腕を伸ばしてパスを行います。

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写真のように両者が腕を伸ばすことによって約1.5m〜2mの走らなくていい距離が生まれます。
この距離を利得距離といい、両者が腕を伸ばし切る一瞬のタイミングを狙ってバトンパスを行います。
400mリレーでは3回のバトンパスの区間があるので、タイミングが合えば約4.5m〜6mの利得距離を生むことができます。
タイムにして約0.5秒前後の短縮が見込めますが、もらい手が後方に手を上げ窮屈な姿勢で走り出すというでデメリットもあります。
決勝でも日本以外のチームはこの方法を採用していました。

日本チームは「アンダーハンドパス」と呼ばれるパスを採用しています。

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このパスでは、もらい手が手のひらを地面に向け、渡し手がアッパースイングのように下から上にスイングしてパスを行います。
このパスではオーバーハンドパスに比べて両者の距離が近く、利得距離はあまり稼ぐことができません。
しかし、アンダーハンドパスではもらい手が無理に手を挙げる必要がなく、疾走フォームを大きく崩すことなくもらい手がスムーズに加速することができます。

日本チームはなぜアンダーハンドパスを採用したのでしょうか?

リレーにおいて最も重要なことは「バトンの速度を落とさないこと」にあります。
アンダーハンドパスの絶対的な利点である「受け手のスムーズな加速」によって可能としています。
利得距離は少ないですが、結果的にオーバーハンドパスのように窮屈な姿勢で加速することよりもバトンの速度を落とさないことに繋がるという仮説から「アンダーハンドパス」が採用されました。この成果は顕著であり、世界選手権、五輪の世界大会ではアンダーハンドパスを採用した2001年以降12大会では、2011年と2015年を除く10大会で決勝に残り、400mリレーは日本のお家芸と言える種目となりました。今大会でもバトンパスで流れるようなパスワークを見せ、バトンパスで強豪国をリードした場面が非常に印象的でした。

さて、パスワークがうまいとはいうものの他国に比べてどれくらいバトンパスが巧いのでしょうか?
それを知るには4人の100m合計タイムからリレーのタイムを引いた「利得タイム」からその巧さを知ることができます。
この差が大きいほどバトンパスが巧いという指標となります。

今大会前の2016年度の各国4人の合計タイム(以下、SB)は下記の通りとなります。

①アメリカ・・・4人の合計(39秒52) ー リレー(37秒62) = 1秒90  ※参考(ゴール後失格)

②ジャマイカ・・4人の合計(39秒68) ー リレー(37秒27) = 2秒41

③イギリス・・・4人の合計(40秒18) ー リレー(37秒98) = 2秒20

⑧日本・・・・・4人の合計(40秒38) ー リレー(37秒60) = 2秒78

4人の合計タイムでは劣るものの、見事なパスワークで上位国に食い込んだことがわかります。
100mの自己記録とリレーのタイムから利得タイムを算出すると

ジャマイカ・・・9秒72 ー 9秒69 ー 9秒90 ー 9秒58 =38秒89 ー (37秒27) = 1秒62

日本・・・・・・10秒05 ー 10秒22 ー 10秒01 ー 10秒10 =40秒38 ー (37秒60) = 2秒78

アメリカ・・・・9秒85 ー 9秒74 ー 9秒69 ー 9秒84 =39秒12 ー (37秒60) = 1秒50

群を抜いてバトンパスの巧さが際立ちます。
自分たちの特性を活かせるアンダーパスを採用し、15年もの年月をかけて技を磨いてきた集大成であると言えます。

また、日本チームにおいてはメンバーの全員が2016年に100m自己記録をマークしており、4人のメンバーが絶好調でオリンピックに臨むことができたこともこの快挙の背景にあったことを追記します。

(2016年8月20日「TRAC」より転載)