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南海トラフ大地震に地方局はどう対応すべきか

2013年06月19日 17時56分 JST | 更新 2013年08月18日 18時12分 JST

南海トラフ大地震の際、地方ローカルのテレビメディアはどのような報道対応ができるか、また現段階でどの程度まで備えができているのか。

巨大地震対策を検討する国の有識者会議は2013年3月18日、マグニチュード9.1の地震が発生した場合、最悪220兆3000億円の経済被害が出るとの想定を発表し、これを受けて国は防災対策の基本方針を大綱策定に盛り込むべく、作業が進められている。

6月8日(土曜日)、9日(日曜日)の両日、愛媛県松山市の松山大学で日本マス・コミュニケーション学会の春季学会が開催され、シンポジウムのひとつとして「災害報道のレジリエンス―南海トラフ巨大地震に備える放送メディア―」が実施され、このシンポジウムの司会を担当した。

このシンポジウムの狙いは、南海トラフ大地震の想定で高知県黒潮町の最大震度7、最大津波高34.4メートルと危機的な状況が想定される中、巨大災害下で、ローカルのテレビ局による強靭性をもった、いわゆる「レジリエント」な報道のあり方がどの程度まで可能なのかを議論するところにあった。

シンポジウムには、大地震が起きた場合、四国での対応に追われる高知放送の竹下誠一報道制作局長、愛媛朝日テレビの内山光弘報道制作局長、これに加えて東日本大震災で仙台において不眠不休の災害報道を継続した経験を持つ東北放送報道制作局の佐々木智之部長、NHK社会部(災害担当)の菅井賢治副部長が登壇した。

このシンポジウムで基本的に確認できたのは、「地元ローカルエリアの人々に向けた必要不可欠な情報伝達を第一とする」という点。住民(被災者)のための報道・情報の伝達に徹することで、すべてのローカルメディアが、可能な限り、懸命に避難を呼びかけることだった。

東日本大震災で報道の陣頭指揮をとった東北放送の佐々木部長からは、これに呼応するように、「最初は小さく、次第に大きく」が災害情報伝達の際の優先順位だとの指摘があった。それによると、最初は、(1)ローカルエリアの人々に向けた個人に向けた注意喚起と避難呼びかけ、次に(2)地域全体に向けて避難場所・支援物資情報や被災者・家族のメッセージを届ける、さらに(3)自治体単位に向けて食料・水などの摂取にかかわるライフライン情報などを届ける、最後に(4)国や他の自治体に向けて復旧・復興の取り組みを伝えてゆく流れを意識しておくべきとする。

これらの指摘に、高知放送、愛媛朝日テレビの両局長は共感を示し、防災・減災に向けて、地元ローカルの放送メディアを担う立場から引き続き努力をしてゆかなければならないと気持ちを新たにしていた。

未曾有の災害規模想定のもとで、想像を絶する事態が起きた場合の災害報道の対応準備に向けて、決して100パーセント準備するなどということはありえないが、ローカルのメディア機関も「最悪の状態を想定して、最善を尽くす」ことが常に求められることは言うまでもない。

南海トラフ巨大地震発生時には、事業継続計画(Business Continuity Plan = BCP)を各局でどのように策定するかが必要となる。例えば、四国エリアの最前線で津波・浸水の被害を受けると想定される高知県では、放送局の中枢が津波遡上被害により機能喪失すると考えられている。

高知放送では、他のローカルテレビ局が津波によって放送不能となる中、津波遡上のエンドポイントぎりぎりの場所にある放送局として、放送事業継続のための備えをすべきと覚悟している。そのためには、「電源喪失」が起きないよう、局の電源供給設備をより高い位置に移動させるなどの手立てが必要で、これには局舎設備改善に向けた投資が、すぐにも必要だという。

東日本大震災の被災三県を除いて、2011年7月24日と期日を切られて取り組んだ地上デジタル放送への移行では、各ローカル局とも、デジタル設備投資(一般的に40億から50億円と言われる)計画にそって必死にこれに対応をし、これを終えたばかりである。

広告費が集中投下される関東、近畿、中京の三大広域圏局ではない、地方のローカルテレビ局は、苦しいながらも、災害下で「強靭な放送事業」を実現するために、追加の新規設備投資に何とか取り組もうとしている。

日本の地方ローカル放送局は、経済規模が限られている中でも、愚直に、また誠実に放送事業に取り組もうとしている。テレビ局は儲けすぎなどと言われて久しいが、地方ローカルの放送を維持し続けながら、いつ起こるかわからない災害に向けて、地道に、また真摯に備えるための、事業継続計画策定や強靭な放送設備実現に向けた投資が求められている。

近年、コミュニティのメディアの大切さを痛感している。東日本大震災では、避難呼びかけの際、ラジオメディアが役割を果たしたとされ、その有効性が見直されてもいる。「ラジオを持っていれば、お守りになるかもしれない」

東日本大震災後、県域ローカルよりもきめ細かなエリアをカバーする、臨時災害FM放送局が29局誕生し、ラジオをもっと日常生活の中に位置づけておくことも重要なポイントとなり、震災で崩壊したコミュニティづくりに貢献しているとの報告も出始めている。

また、防災・減災の目的を達成するひとつの考え方として、コミュニティのメディアが地域社会にもっと誕生して欲しいという、私なりの思いもある。四国のコミュニティラジオ局は9局である。このうち、津波の最フロントとなる高知には1局しかない。

災害が発生してからではなく、災害以前にコミュニティに身近な情報を送り続けるメディアが存在し、ローカル、またはコミュニティの人々と日常的な情報の伝達・共有のチャンネル(回路)を常に開いておくことが大切だと考える。

地元ローカルのテレビ局やラジオ局とも連携したコミュニティのメディアによる災害報道が必要だと考えられ、それが実現してこそ、災害に対してレジリエントなコミュニティを作り上げることができる。そのためには、県域を意識するローカルメディアと地域コミュニティに根ざすメディアが一体となり、総体としてローカル・コミュニティのメディア力を地道に高めてゆくことが必要になってくるだろう。

シンポジウムを通じて、東日本大震災で災害報道にかかわった先人から多くを学びながら、ローカル・地域コミュニティのメディア力を確実につけてゆくことこそ、強靭化を実現することにつながると実感した。

【訂正】文章中で「避難」という言葉が「非難」と記述されていた箇所を修正いたしました。