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Apple/Spotify/AWA等、音楽ストリーミング主要6サービスを徹底比較(後編)

2017年07月26日 18時25分 JST | 更新 2017年07月26日 21時57分 JST

前編はこちら

7. 日本人アーティストの配信状況

私が洋楽リスナーであるため、上記レビュー内での「曲が多い・少ない」は、多くの日本人にはあまり参考にならないだろう。そこで、Apple Music、Spotify、AWA、Google Play Music、LINE MUSICにおける邦楽アーティストの配信状況がよくまとまった以下のサイトも参考にしつつ、日本人アーティストの配信状況について少し触れておきたい。

AWA/LINE/Apple/Google Play Music/Spotifyの邦楽・洋楽を独自比較!

www.tokyo-indie-band.com

ここに書かれていることと私自身の利用体験を交えると、全体的な傾向としては以下のようなことがいえる。

  • 世代を超えて高い人気がある大御所や有名所はほとんど配信されていない(宇多田ヒカル、B'z、Dreams Come True、Children、L'Arc〜en〜Ciel、aiko、福山雅治、サザンオールスターズ、安室奈美恵、Perfumeなどは壊滅的状況)
  • アイドル系は比較的積極的だが、ネット文化に否定的なジャニーズ系は当然のように全滅
  • EXILE、三代目J Soul Brothers、E-girlsなどのTRIBE系はかなり積極的
  • Asian Kung-Fu Generationやサカナクション、ONE OK ROCK、ゲスの極み乙女、Man With A Mission、BABYMETALなど、00年代以降に登場した比較的若手のロックバンドはストリーミングに積極的な傾向がある。ただしRADWIMPS、SEKAI NO OWARI、WANIMAなど配信されていない人気若手アーティストももちろん多く存在する。
  • AWAやLINE MUSICなど日本のプラットフォーマーが日本の音楽に強い、というほどでもない
  • ブルーハーツやユニコーン、Blankey Jet City、Hi Standard、Zard、The Yellow Monkeyなど、現在は活動をしていない(もしくは最近再結成をした)アーティストのバックカタログでさえ、配信されていないケースは非常に多い

総じて、20代以下で、アイドル系、TRIBE系、若手ロックバンドなどが好き、洋楽も好んで聴くようなリスナーには、音楽ストリーミングはかなりお得なサービスだ。しかし、30代以上で、洋楽はそれほど聴かず、90年代以前の音楽がよく売れていた時代を好む人には、音楽ストリーミングサービスはあまり魅力的ではない。言うまでもなく、その時代を代表するような大物アーティストの多くが楽曲を配信されていないからである。

海外でもKing CrimsonやToolなど、楽曲を一切提供していない大物アーティストは存在するが、全体における比率としては極めて低い。それと比べて、日本人アーティストにおけるストリーミング拒否率はかなり高い。そして人気アーティスト不在であるが故に、音楽ストリーミングというカテゴリが、日本の音楽市場におけるボリュームゾーンを取り込めないサービスになってしまっている。

先日、海外のユニバーサル・ミュージック・グループが6期連続で売上/営業利益が拡大し、本年度のQ1も過去最高を記録するなど、業績の好調さが報じられた。その収益に大きく貢献しているのは音楽ストリーミングを中心としたデジタル系の定額サービスである。この点からも、「音楽ストリーミングは音楽ビジネスを経済的に衰退させる」という認識は間違っていることを示している。

音楽ストリーミングサービスの魅力の核になるのは、ストリーミング技術ではなく、やはり音楽そのものである。そこには当然、人気アーティストの楽曲というキラーコンテンツが欠かせない。日本の音楽市場は特殊だとよく言われるが、スマートフォンを持ち、あらゆる情報にさらされながら、娯楽の一つとして音楽を選択するという消費行動自体は、ストリーミングが浸透している欧米と大差ないはずである。

既に時代が変わり、技術が変わり、環境が変わり、消費者の行動も価値観も変わっているのに、日本の著名アーティストや権利者たちは、いつまでこのまま音楽を「所有する」ことを前提としたビジネスモデルの維持にこだわり、ストリーミングを拒否し続けるのだろうか。あるいはこれは時間がやがて解決してくれることなのだろうか。

少なくとも今の状況のまま、音楽ストリーミングを日本に広めていくのはかなり難しいだろう。なぜなら今のラインナップのまま普及させるには、まず日本国民の音楽の趣味を変えなければいけないからである。それが非常にハードルが高いことは容易に想像できることだろう。

余計なお世話かもしれないが、このような保守性が「日本の音楽を守る」のではなく、「日本の音楽の経済性を低下させる」、つまりは「日本ではますます音楽で食っていけなくなる」とならなければいいのだが。

8. 私の周囲の利用状況

実は私はFacebook上で「Web/IT業界ヘヴィメタル愛好会」と「Web/IT業界オルタナティブロック愛好会」という二つのグループを運営している。いずれも、Web/IT業界で音楽がかなり好きな人たちが参加しているグループである。このうち「Web/IT業界オルタナティブロック愛好会」で先日、主な音楽の聴取方法についてのアンケートを行った。ストリーミング以外も含めての調査だったが、以下のような結果が得られた。(複数選択可での集計)

  1. CD:インポートしてデータ化(32人)
  2. ストリーミング:Apple Music(23人)
  3. ストリーミング:Spotify(15人)
  4. CD:CDのまま(10人)
  5. ストリーミング:SoundCloud(9人)
  6. アナログレコード(8人)
  7. YouTube(8人)
  8. ストリーミング:Prime Music(7人)
  9. Radiko(5人)
  10. ストリーミング:AWA(1人)
  11. ストリーミング:Google Play Music(1人)
  12. ストリーミング:その他(1人)
  13. ストリーミング:LINE MUSIC(0人)

対象は100人弱、Web/IT業界という比較的デジタルに強い層であり、洋楽のオルタナティブロック好き、という偏りはあるが、この小規模なアンケートから以下のようなことが類推できる。

  • 未だに多くの人がCDを購入している。ストリーミングを使っていてもCDは併用している
  • いずれかの音楽ストリーミングを使っているのは全体の4割ほど
  • 音楽ストリーミングは事実上2強。一番強いのはやはりApple Music
  • Spotifyは日本市場では最後発ながらかなり健闘している
  • サービス、機能がイマイチなPrime Musicは事実上無料なのが強い
  • SoundCloudやYoutube、radikoなど、無料聴取できるサービスは一定数ニーズがある
  • AWA、Google Play Music、LINE MUSICは選択肢として存在していないに等しい

音楽ストリーミングサービスに話を絞ると、Apple MusicとSpotifyの強さが際立っているのと対照的に、他サービスの存在感がほとんどない。そして面白いのは、単純な曲数や機能の充実度と利用率の相関関係が見られないことである。実は、別の調査でも似たような傾向がうかがえる。

2016年「定額制音楽配信サービスの利用実態」に関するレポート

www.trendsoken.com

Spotify開始前の調査なのでSpotifyが含まれていないが、ここでもApple Musicが頭一つ抜けて、事実上無料の強みがあるPrime Musicが続き、Google Play Music、AWA、LINE MUSICがほぼ接戦という利用結果がでている。

さらにこのレポートでは、有料での利用継続の理由には、「曲の数」を筆頭に、基本的には配信曲・配信アーティストの種類と数の豊富さがその要因になる、といった結果が記載されている。

しかし、この利用継続理由は不可解である。なぜなら、「配信曲の多さ」を理由に挙げながら、選択されているサービスの利用順位と、各サービスの配信曲数が一致していないからである。例えば、曲が多く、さらにいえば機能がそれなりに充実し、UIが使いやすいことで利用者が増えるのなら、Google Play Musicは、AWAやLINE MUSICと同レベルではなく、Apple Musicにもっと近づいていいはずである。しかしそうはなっていない。ここから、音楽ストリーミングサービスの選択理由として、曲数や機能はあまり重要ではないのでは、という仮説が生まれてくる。

そもそもこのレポートで使われた質問項目は、利用者の行動や動機を知るための適切なものだったのだろうか。「なぜそれを選んだのか?」と質問されれば、「曲の多さかなぁ」と答えるだろう。しかしそれは「そう聴かれたからそう答えた」というだけであって、深層心理は違うところにあるのではないだろうか。では、何が深層心理として働いているのか?

端的な言い方をすれば、もっとも影響を与えているのは「ブランド力」だと推察される。しかもそれは、母体となる企業に対する単なる好意的印象ではない。その企業に音楽を扱う必然性があるか、ということが大きく影響を与えているのではないだろうか。

9. 各サービスのブランド力

Appleと音楽の関わりはかなり古い。Appleはいうまでもなく元々はPCメーカーだったが、80年代には既にDTM(デスクトップミュージック=PCを使った音楽制作)の主要マシンの地位を築いていた。

しかし多くの人にとってAppleと音楽の関わりは、2001年のiPodから始まったことだろう。この大ヒット製品は、長らく君臨していたSONYのWalkmanブランドを携帯型音楽プレイヤーの主役の座から引きずり下ろすことに成功した。その後、2003年にはiTunes Music Storeで音楽のダウンロード販売を開始。iPod×iTunes Music Store 、それに追い打ちをかけるiPhoneの成功により、Appleは音楽業界で誰もが無視できない一大勢力、一大ブランドを築き上げた。

もちろんこのイメージは製品やサービスだけ確立したわけではない。iPod/iPhoneユーザではない人でも、JETやThe Fratelis、The Ceasersなどの若手ロックバンドが起用されたiPodのCMや、iOS8発表時にU2の新作を無償提供したニュースなどは強く印象に残っていることだろう。

あるいは、2007年、商標権を巡って70年代より対立関係にあったThe Beatlesの楽曲がiTunesで扱えるようになったことに対し、当時の最高責任者である故スティ-ブ・ジョブスが喜びのコメントを発表なども、Appleと音楽との関連付けに強い影響を与えているかもしれない。このような古くからの音楽との関わりあい、音楽を巧みに使った製品戦略やブランド戦略、プロモーション戦略などにより、00年代には、Apple=音楽、音楽=Appleという強固なレレバンド(関連性)が確立していた。

残念ながら音楽ストリーミングに関して、Appleは一歩乗り遅れた。しかしそれでも、音楽におけるAppleの影響力は絶大である。Apple Music開始時にテイラー・スウィフトと対立し、その後Apple Musicにだけ、最新作『1989』が配信されたが、このような騒動が音楽市場において低下しつつあったAppleの存在感を再確認させ、Apple Musicのスタートダッシュに一役買ったことも想像される。今でも多くの人は、音楽ストリーミングを始めようと思ったら、真っ先にApple Musicが選択肢に上がることだろう。特にiOSユーザが多い日本においては、その傾向は顕著なはずである。

対するSpotifyの歴史は浅い。創業は2006年、サービス開始は2008年である。しかし、音楽ストリーミングだけを事業とする組織であり、音楽ストリーミングという新しいジャンルにおいて急速にその勢力を拡大し、2017年現在、5,000万人の有料会員を抱える世界最大規模サービスとなっている。有料会員の数はApple Musicの2倍近くであり、事実上、彼らが世界の音楽ストリーミングを牽引している。その実績のみならず、無料で聴ける広告モデルを採用するなど、音楽の在り方に対する問題提起を含む彼らの活動は、単なるシェアNo.1というだけでなく、次世代の音楽流通のあり方を提示する急先鋒であり、音楽業界の構造を破壊するイノベーターという印象が強い。本気で音楽の世界を支配しようとする彼らの野心は、Spotify=音楽プラットフォームの新しい覇者、という強力なブランドイメージに繋がっていることだろう。

Spotifyの認知度がまだまだ低い日本では、残念ながら彼らのブランド力は海外ほどの強さを見せていない。それでも音楽の最新動向を目敏くチェックしている熱心な音楽ファンの間では早くも強固なブランドを形成しており、私が個人的に行ったアンケートで示されたApple Musicと双璧をしているという結果も、実に妥当なものと受け止めることができる。

一方のGoogleはどうだろう。ITの巨人であるGoogleに対して、テクノロジーを使って社会を変えうる存在で、世界中のあらゆる社会・産業に対して強大な影響力を持っている企業の一つ、という好意的なイメージを多くの人が抱いていることだろう。しかし、Google=音楽という連想イメージを持っている人は少ないのではないだろうか。むしろ彼らはテクノロジー集団であり、アートとは真逆の位置にいるイメージを持たれているかもしれない。Google Play Musicの開始とともにテレビCMなども打たれていたが、にわか仕込みのCMで強いブランドイメージができるわけではない。結果、曲数や機能としてはApple MusicやSpotifyと遜色がなく、Androidという普及しているプラットフォームを有しているにも関わらず、音楽ストリーミングにおいてはAppleやSpotifyの後塵を拝し、AWAやLINEと横並びの存在になってしまっている。

Amazonも、音楽という分野に関してはGoogleと似たようなものだろう。彼らはCDが主流の時代から音楽を扱っていたので、音楽と関わってきた歴史は浅くはない。ただし、彼らはネット通販の世界企業という印象が強く、音楽に特別な愛情とこだわりを注ぎこんでサービス提供をしているというより、「音楽は数ある取扱商品の一カテゴリ」として扱っている印象が強い。そもそも圧倒的に配信曲が少ないので、他のストリーミングと同列に語りにくいサービスではあるのだが、やはり彼らの最大の魅力は「Amazon Primeに加入している人にとっては事実上無料」というコストに起因するもので、ブランド力は極めて低いと考えられる。Prime Musicの利用者は、音楽に興味がないわけではないがお金は使いたくない、という比較的音楽に対する熱量の低いリスナーが多いと予想される。

AWAはGoogleやAmazonと比べれば音楽との繋がりは深い。AWAはエイベックスとサイバーエージェントが出資しており、その事実を知っている人には、特にエイベックスから連なる一定のブランドイメージを有していることだろう。エイベックスといえば、90年代は小室系、00年代は浜崎あゆみや倖田來未、10年代はEXILE TRIBE系といったJ-POPのメインストリームに力を入れているイメージが強いかもしれないが、大手が扱わないマニアックだが良質な洋邦の作品も数多くリリースしており、音楽に一定のこだわりを持って活動している骨のあるレコード会社である。

ただし、こういったエイベックスの音楽領域におけるブランドイメージと、日本市場における音楽ストリーミングとの相性はそれほど良くないのでは、と考えている。

例えば、これまでエイベックス系のアーティストを好んで聴いていた熱心なファンにとって、音楽ストリーミングはあまり必要がないサービスである。なぜならそういったファンはすでに音源を所有しているからである。オンライン再生機能があるとはいえ、基本的には通信料のかかるストリーミングサービスで自分が所有している改めて音楽を聴こう、という考えにはなりにくいだろう。

では、音源を所有するほど熱心ではないが、エイベックス系のアーティストを久しぶりに聴いてみたい、と思うリスナーはどうだろうか。日本の音楽市場に大多数を占めるこの手のリスナーは、エイベックス以外のJ POP全般にも興味があるはずである。しかし前述のように、現在の日本の音楽ストリーミングにおいては大物アーティストがほとんど参加していない。つまりこういったリスナーにとっては、一部のアーティストしか聴けない音楽ストリーミングはコストパフォーマンスの低いサービスにということになる。これならレンタルCDの方がいい、と思われてしまうかもしれない。

もちろんAWAにも一定の利用者がいるので、まったくブランド力がない、魅力がない、というわけではないだろうが、限定的な調査の中でApple MusicやSpotifyに大きく差を付けられた結果が出るのは、彼らが持っているはずのブランド力が、音楽ストリーミングという市場においてはうまく作用していないことを示しているのではないだろうか。

LINE MUSICに関していえば、サービス開始時点での音楽領域におけるブランド力はほぼゼロに近かった。彼らはプラットフォーマーなので、その位置づけはGoogleに近いともいえる。ではどういう層がLINE MUSICの利用者になるのだろうか。内部の人間ではないので実態はよくわからないが、与えられた条件から論理的に考えていくと、古い時代の音楽に触れておらず、30代以上の大人たちが固定観念として持っている音楽周辺のブランドイメージに縛られない若い層、ということになるだろう。今の10代にとっては、iPodも子供のころの出来事なので、Apple=音楽という印象もない。90年代や00年代の音楽がリアルではないので、その時代の著名アーティストの音楽がなくてもそんなに気にならない。そういった音楽ブランドよりも、LINEの方が身近で好ましい。このようなリスナーにはLINE MUSICは最適な選択肢となりえるだろう。実際に彼らは学割プランを設定しており、若いリスナーは重要なターゲットと考えているようである。

しかし、未だ音楽ストリーミングは、音楽とデジタルの双方にある一定以上の熱意と理解を持つイノベーターもしくはアーリーアダプター層に向けたサービスに留まっており、キャズムを超えていない。そう考えると、上記のようなLINE MUSICと相性のいいリスナーはそもそも市場にそれほどいないのではないだろうか。

余談だが、LINEという企業にとって音楽ストリーミングは必然ではないため、今のままの低空飛行が続き、大きな収益をもたらさないと判断されると、やがて経営資源の「集中と選択」の議論の対象となり、サービスを停止させる可能性が高い、と私は見ている。

10. 2つの戦い方

このように各社の、音楽ストリーミングというサービスに対するブランド力と、現在配信されている楽曲の傾向、そしてターゲットとなるマーケット・利用者特性を考えると、特に日本市場ではApple Music>Spotify>Amazon>Google=AWA=LINE MUSICという序列になるのは妥当な結果といえる。

各社が曲数や機能で勝負している限り、この序列はほぼ変わることはないだろう。そして、宣伝や広告にいくらお金を使えるか、というパワープレイに走るしかない。現時点では後塵を拝しているGoogle Play Music、Amazon Prime、AWA、LINE MUSICが下剋上を成し遂げるには、二つの選択肢しかない。それはブランド力で真正面から戦うか、ブランド力勝負を避けて別のアイデアで戦うか、である。

ブランド力と一言でいうのは簡単だが、それを手に入れることは簡単ではない。その道筋を示すことさえも難しい。かくいう私も、「どうやってブランド力を手に入れるんだ?」と問われれば、言葉に窮する。ただ一つだけ、「本気が伝わってこないブランドにブランド力を感じることはない」とは言えるのではないだろうか。

例えば、LINE MUSICの社長がサービス開始にあたって、以下のようなインタビューに応えている。

ようやく登場「LINE MUSIC」、社長が語る武器

business.nikkeibp.co.jp

私が気になるのは、この中で、AWAをはじめ、LINE MUSICにも出資しているエイベックスについての、以下のような発言である。

エイベックスさんとしては、複数の定額制音楽配信サービスが立ち上がっているほうが市場拡大のためにはいい、という方針がおありで、「複数でもいい?」という相談はされました。我々も、最終的には、いろんなカテゴリができたほうがいいよね、という結論になった。ですから、お互いに存在は認識したうえで進めてきたということです。

もちろん、大人の事情が色々とあるのだろうし、理想通りには進められない現実は容易に想像できる。そういう前提があるうえで、それでもやはり、他サービスとの共存・共栄を目指すブランドより「我々がストリーミング市場の覇者になる」という野心満々のブランドの方がより強いブランドにならないだろうか。もちろん、現場はみな必死なのだろうし、インタビューではなく、サービスの利用体験やブランドイメージから感じさせることが大事なのだが、Apple MusicやSpotifyは「我こそがNo.1」であろうとし、他サービスを駆逐するかのような野心を感じる。

その一方で、LINE MUSICを始め、Google Play MusicやPrime Musicからはそれを感じにくい。彼らには金持ちのボンボンが道楽でやっているような印象がある。独自の世界観を持つAWAには音楽に対するこだわりを感じるが、特別なUXも目立った独自機能もないLINE MUSICにその印象は希薄である。もちろん「気概」のようなものはサービスの表面から窺い知れるものではないが、、Apple MusicやSpotifyに対して、その他のサービスがブランド力で負けているような印象を持ってしまうのは、根底にある「まぁまぁ、みんなで仲良く住み分けしていきましょうや」という気持ちが没個性なUXやUIや機能に滲み出ているからなのでは、と思うわけである。そういう印象を持ってしまうと、やはりどうしてもGoogle、Amazon、LINEで音楽を聴こう、という気は起きない。

さて、もう一方の選択肢である「ブランド力ではない別のアイデアで戦う」ためには、どうすべきなのだろうか。これは要するに、ブランドの勢力図に従わず、独自にマーケットを切り開き、利用者を伸ばすということである。カギとなるのはサービスの利用体験、つまりUXに関する他社との差別化だろう。(結局それも突き詰めればブランドを形成する一要素になるのだが、ここではあえて分けて考える)

私が6つのサービスを使ってみた感想としては、確かに各社で配信曲、機能といったUIレベルでの差は色々ある。しかしその一方で、UXとしてほとんど大差ない印象を持った。UXにも様々なレイヤーがあり、人によって様々な意味合いで使われるが、ここで私がいうUXとは「何をキッカケにサービスを使うのか」という部分である。つまりどのサービスも「音楽を聴きたくなった時」という立ち上げるキッカケが同じなわけである。同じ土俵にいて、同じタイミングを狙っているから、真正面から競合し、リスナーの奪い合いをするしかない。

しかもそもそも、音楽を聴きたいと思うキッカケが減っているのが、現在の音楽ビジネスの根本的かつ大きな課題である。そんな背景があるにも関わらず、「音楽を聴きたい」と思った瞬間という限られた市場の中で戦っても、他の娯楽に浸食されている枯れた土地をただ奪い合っているだけで、「音楽を聴く人を増やす」「音楽のマーケットを広げる」という根本的な解決にはならない。

もちろん、購入というプロセスを踏むことなく、スマートフォンで気軽に聴けるという、というのはUX上の大きな進化であり、海外で利用・ストリーミングからの収益が伸びているのは、この点が大きいと思われる。しかしそれは音楽ストリーミングをいうサービスを選択すると当たり前に享受できるUXでもあり、さらにその上で、各社サービスでブランド力に頼らず、シェアの競争に勝つ(もしくは戦わずに利を得る)のであれば、「音楽を聴きたくなった時」以外で、サービスを立ち上げるキッカケを与えなければ、結局は既存のブランド力のままの勝負になってしまうのではないだろうか。

11. 各サービスの経営基盤

今の音楽ストリーミングサービスは、曲のラインナップや機能が違うだけで、いずれも音楽を聴くだけが目的のサービスとなるので、複数契約するメリットがまったくない。私のように複数のサービスに課金している利用者は稀であり、ほとんどの利用者はどれか一つを選択していると考えられる。つまりサービス側としては、音楽ファンや音楽ストリーミング利用者といった市場を広げる努力をしながら、直接的に競合しているサービスと顧客を奪い合う戦いをしていかなければならないわけである。

ただ、この戦いのし烈さは、各サービスが置かれた状況によって変わると考えられる。その判断軸となるのは「プラットフォームの有無」と「グローバル展開の有無」である。

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音楽ストリーミング事業は基本的に薄利なビジネスであり、単体で大きな利益を生み出すのが難しい。それ故に、音楽以外での経済的な土台があるかどうかは、安定運営をする上での大きなポイントになる。

AppleやGoogle、Amazonのように、収益の根幹となる事業を有している企業は非常に有利である。これらビッグ・プラットフォーマーは、他社との差別化などはあまり考える必要はないだろう。音楽以外にも強固なサービス共栄圏が存在し、その中での利用率向上や他社乗り換えのリスク低減やブランド力の強化ができればいい。Google Play MusicやPrime Musicのような、他社と戦おうという気が全く感じられないフォロアー的な姿勢は、このような事情からだと推察される。LINE MUSICに関しても同様である。もちろん、各サービスの責任者・担当者は必死だろうが、会社全体としてはそこにすべてをかける、という姿勢にはなりにくいだろうし、だからリスクを取らず、保守的な判断に留まりやすいのではないだろうか。

一方、プラットフォームを持たず、音楽ストリーミング単体で業績を上げていかないといけないSpotifyやAWAは厳しい戦いを強いられる。シェアを取れていても安心はできず、新規参入者でありフォロアーであるプラットフォーマーたちが真似できない圧倒的な差別化と障壁を築いていかなければならない。例えばSpotifyは世界シェアNo.1で、有料会員数が5000万人を突破しているが、創業以来赤字を垂れ流し続けており、資金調達をしなければショートする体質になっている。これだけでも音楽ストリーミングというビジネスの苛烈さを十分に感じとれる。

もう一つの軸は、グローバル展開しているかどうかである。音楽ストリーミングサービスは、UIの言語と配信曲を入れ替えるだけでグローバル展開ができる。市場を広くとるほど、売上に占める開発コストの割合が少なくなり、開発効率が良くなる。また薄利多売型ビジネスだからこそ、世界を市場として会員数を増やしていくほど経営が安定すると考えられる。赤字体質であるはずのSpotifyはUIやデータベースが非常に洗練されており人手がかかっているように感じられるが、これもグローバル市場を相手にして、大規模な開発体制を組めているからだろう。

このように考えていくと、もっとも厳しい戦いをしているのはAWAではないだろうか。もちろん彼らにもエイベックスとサイバーエージェントという安定した経済基盤があり、AWA単体では従業員を抱えていないなどの経営上の工夫がなされているが、シナジーを発揮するサービスが存在せず、音楽ストリーミングだけが収入源であり、日本市場以外ではサービス展開をしていない。AWAのようなサービスこそ、前述のように、既存のブランド力の勝負ではなくUXによる差別化を本格的に行わなければ、生き残っていくのが難しいように感じられる。

12. 音楽ストリーミングにおけるUX

ここまでの話をまとめると、Apple MusicとSpotifyを追いかける各サービスは、曲数や機能で戦っても既に確立しているブランド力の勝負になるため、UXなどの別軸で差別化しないと厳しいのでは、というのが私の主張である。さらにいえば、プラットフォームを持たないAWAがもっとも厳しい環境に晒されているのではないかと推測される。

そのAWAだが、以前、同社デザイナーによるUX改善のインタビュー記事がアップされていた。

AWAが実践したUXの改善手法とは? 技術サイドからアプローチすべき理由

careerhack.en-japan.com

UXというのは曖昧さを含む言葉であり、使う人によって定義が若干変わる。この記事で語られている内容も、確かにUXの一部ではあるし、「一時的UX(使用している最中のUX)」と捉えることができるが、UXではなく、単なるユーザビリティの話であるようにも見える。

言葉の定義が重要なのではない。これをUXと思ってリソースを投入して改善しても、ビジネスの大勢には何の影響も与えないという点が重要である。音楽ストリーミングサービスにとって、ビジネス上重要度の高いUXとは、「音楽を聴きたい時」以外のキッカケを与えるという、よりダイナミックな視点から見た時のUXであり、そのUXに影響を与える機能なりサービスなりに投資をしなければ、前述のようにグローバル勢のブランド力によって蹂躙されるだけなのではないだろうか。

「音楽を聴くサービスなんだから『音楽が聴きたくなった時に立ち上げる』のは当然だし、それ以外できることなんてあるの?」と疑問に思うかもしれない。しかしそれは可能だし、既にその視点での機能はいくつか実現している。

例えばSpotifyには、ランニングのテンポにあったBPMの曲を自動で流してくれるRunningという機能がある。この機能によって、Spotifyは「音楽が聴きたい時」だけでなく、「走りたい時」にも立ち上げるサービスとなるわけである。ある瞬間にしか必要とされない機能であるので、Spotifyを聴く理由には弱いものだが、「音楽が聴きたい時以外のキッカケを与える」というのはようするにこういうことである。

例えば私が、一番曲が少なく検索性能の低いAWAを頻繁に使うことになったのは、プレイリストを共有する楽しさがあったためである。それは他サービスでは提供できないUXだ。プレイリストをFavoriteする機能やリスナーをフォローする機能があり、その通知が来るため、「音楽を聴きたくなった時」でなくとも頻繁にアプリを立ち上げてしまう。「音楽を聴きたい時」でなく「プレイリストを作りたいとき」も立ち上げるキッカケとなった。このプレイリスト周りの充実した機能が、他サービスにはないUXを実現し、サービスのスティッキネス(吸着力)をあげ、曲数や機能に優れるApple MusicやSpotifyを差し置いて、AWAばかり使うことに繋がった。これこそが、ブランド力や曲数、機能の次元を超えて、他サービスより優位になるための大きなヒントではないか。

ちなみに、プレイリストといえばSpotify、という印象を持っている人もいるだろう。実はAWAとほぼ似たような機能はSpotifyにも存在する。しかし、SpotifyはAWAのような喜びを感じにくい。Spotifyは日本での利用者が少なく、グローバルなレベルでオープンであるため、無名な日本人がプレイリストを作ったとしても、誰かの目に触れることはほとんどない。Spotifyでは、他人のプレイリストを聴く楽しみはあるが、自分のプレイリストを他人に共有する楽しみはほとんどない。UXとは、機能を提供すればいいというものではない。UXに影響を与える利用環境が提供できているか、ということも重要である。

ただし、先ほども述べたように、プレイリストが100本を超えたあたりで飽きが生じてきた。最近よく使うのはSpotifyである。プレイリスト共有というAWAの唯一無二の魅力に飽きてしまうと、結局は使いやすくて曲が多く、ブランド的に「好き」という気持ちを抱いているサービスに気持ちが流れてしまった。

AWAに飽きてしまったのは、プレイリスト共有の限界というよりは、ソーシャル機能が控えめすぎることに起因すると考えられる。ようするに、刺激が少なすぎるのである。見ず知らずの人から反応が得られるといっても、しょせんFavorite登録されて、再生数が伸びるだけで、それ以上は何も起こらない。AWAが他サービスと異なるUX上の違いとしながらも、ソーシャル機能が控えめ過ぎて、決定的な差別化になっていない。

実はAWA自体も、これが自社の強みとはあまり考えていないのか、例えばLPはこのようになっている。

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見出しを抽出すると、以下のような構成である。

  • 新しい好きが見つかる(豊富な楽曲)
  • 通信制限からの解放(オフライン機能)
  • 音楽を楽しむ豊富な機能(ランキング、プレイリスト、ジャンル分け)
  • 音楽がより身近なものに(マルチデバイス対応)

読んでわかるように、訴求内容にAWAの独自性はまったくない。これだけ読んでも、何がAWAの特長なのかまったくわからない。せっかく明確な違いがあるのに、そこを活かすLPになっていないのは、自身の強みに無自覚か、競合との対決ではなくCDやデジタルダウンロードユーザを奪いにいってるか、もしくはプレイリストを作ったり共有したりする一部のユーザを集めてもお金にならないと考えているか、のいずれかだろう。

しかし、プラットフォームも持たず、グローバル展開もしていないAWAのような音楽ストリーミングサービスこそ、プレイリスト共有をはじめとするソーシャル系機能の拡充と、それによる「音楽を聴きたい時」以外にアプリを立ち上げるキッカケを作り上げること、つまりは他社とは違う大きな意味のUXを提供することが、一つの道筋になるのではないだろうか。

13. SNS/CGM化の可能性と課題

私は、今後の音楽ストリーミングサービスの覇権争いは、以下の4つのテーマをいかに上手に取り込めるかがカギになると考えている。

  1. SNS/CGM化(口コミ、レビュー、メッセージング)
  2. ライブのUX取り込み(認知・購入・共有・振り返りなど)
  3. 法人向けサービス(データ提供、マーケティング支援)
  4. ブロックチェーンを活用した著作権管理の最適化

すべてに言及すると記事がますますプログレ化するので、ここではSNS/CGM化についてだけ、少し語っておきたい。(CGMとはコンシューマー・ジェネレーテッド・メディアの略で、口コミサイトのように、消費者がコンテンツを作っていくようなメディアの総称である)。

私がSNS/CGM化が重要と考えるヒントは、Instagramである。iPhoneアプリの市場が立ち上がったころに非常に多かったジャンルが、カメラアプリである。そんな乱立するカメラアプリの中で頭一つ抜け出たのがInstagramだった。もちろん彼らのフィルタがオシャレという一面はあったが、彼らが他のカメラアプリと決定的に違ったのは、SNSの側面を持っていたことである。これにより、他のアプリが「写真が撮りたい時」に立ち上げるアプリでしかなかったのに対して、Instagramは「誰かに自慢したい時」に立ち上げるアプリとなった。他のアプリと決定的に異なるUXが、他のカメラアプリとは異なる次元の成功をもたらした。

同じことは、音楽ストリーミングにおいても起こりえるのではないだろうか。ただし、音楽ストリーミングにおけるソーシャル機能はInstagramより複雑なものとなり、あるいはCGMと呼ぶ方がふさわしいものになるかもしれない。

音楽ストリーミングで取り扱っているデータの基本構造はアーティスト、アルバム、曲の三層構造である。これにプレイリストが加わる。例えばこれら全てにタイムラインを設け、誰もがそのアーティストやアルバム、曲の感想を見たり、書き込んだりできるようにする。さらにそれぞれの投稿にいいねができるようにする。こうすることで、利用者は「音楽が聴きたい時」だけではなく、「同じ趣味を持つ人とコミュニケーションしたい時」に立ち上げるアプリになる。

メッセージ機能を加えれば、さらに強力な音楽コミュニケーションツールになるだろう。同じ趣味の利用者との交流はさらに活性化する。同じタイミングで同じ曲を聴いている人を可視化し、その人に話しかけることができるチャット機能があれば、セレンディピティ(偶然の素敵な出会い)は爆発的に増えるだろう。またこのようなコミュニケーション機能は、Apple Musicのリコメンドで課題となった「機械によるリコメンドの無機質さ」の問題も解消される。

利用促進策としては、現在のAWAに備わっているようなランキング機能の強化版があってもいいだろう。聴取回数やアクティビティの量によって、そのアーティストの何番目のファンか、そのアルバムの何番目のファンか、その曲の何番目のファンかをランキングで可視化する。このような競争心やファン心理をあおる機能を設けることで、アプリ内での活動はより一層活発になるだろう。

また、コミュニケーションをスレッド化したり、グループ内でのイベント立ち上げを可能にしたりすることで、音楽を起点とした人の繋がりはさらに多様になる。このような機能が利用されるようになれば、アプリの影響はスクリーンの中に留まらず、リアルの世界にも広がっていくだろう。

このように高度にSNS/CGM化することで、音楽ストリーミングのUXは今とは様変わりしていく。音楽を愛するリスナーの行動様式も変わり、ストリーミングがなかった時代とはまったく異なる音楽コミュニケーションが可能になる。

実のところ、このようなSNS/CGM系のアイデアは目新しくはない。おそらくは各サービスで同様のことは検討されたことがあるはずだ。その上で、プレイリスト作成を含め、能動的に音楽ストリーミングを使うユーザは一部であり、SNS/CGM化は得策ではなく、シェアなどのコミュニケーションはSNSに任せておいた方がいい、あるいはまだ取り組む段階ではない、という判断がなされているのではないかと推測される。

SNS/CGM化の最大の障壁は、ユーザを熱狂させても開発などの投資に見合った収益が見込めない可能性がある点である。この問題は、音楽ストリーミングに限った話ではない。定額型のサービスというのは、利用者の満足度と事業の収益性が必ずしも比例しない。卑近な例として、フィットネスクラブで考えてみよう。会員数1,000人で月額10,000円の2つのフィットネスクラブがあった場合、経営的により安定するのはいずれだろうか。

・最高のサービスで毎日行きたくなるフィットネスクラブ

・まぁまぁのサービスで週に一回くらい行ければいいフィットネスクラブ

同じ会員数であるなら、経営的に楽なのは後者である。前者は毎日多くの人が来るため、対応する多くのスタッフが必要になり人件費がかかる。利用頻度が高いため、設備の劣化も激しく、シャワーや電気などの光熱費やメンテナンス費もよりかかってくる。あるいはいつも混雑しているために、より広く賃料の広いスタジオに引っ越さなければならなくなるかもしれない。さもなくばやがて満足度が低下し、解約に繋がるかもしれない。サービスの充実による高い満足度からの口コミと会員増を期待しても、利用者としてはこれ以上会員が増えて欲しくないと思い、他人に広めなくなる可能性もある。

一方後者は、同じ数の会員が週に一回しか使わないため、スタジオは混み合うことはなく、配置するスタッフも少数ですみ、設備の劣化もそれほど進まない。極論をいえば、サービスの熱狂度はそこそこにおさえて、解約しない程度の休眠会員をどんどん増やした方が、経営が楽になるわけである。

音楽ストリーミングにおいても同様のことが起こり得る。SNS/CGM化はお金がかかる。開発だけでなく、書き込みが増えるほど通信量が増え、インフラのコストも跳ね上がる。また不適切な投稿を監視するための人的な運用体制も不可欠になる。しかしこのようなコスト増を招いても、利用者がより高い利用料を払ってくれるわけでもない。たたでさえ利益率の低い音楽ストリーミングにとって、SNS/CGM化は利益を圧迫するだけではないか。そう考えると、コミュニケーションはSNSに任せておくべきでは。このように考えるのも、真っ当な判断ではある。

しかしそれでも私は、高度なSNS/CGM化は、音楽ストリーミングサービスの収益性に大きく貢献するのでは、と見ている。なぜなら、SNS/CGM化を徹底することで、新しい利用者の獲得と新しい収益手段の創出に繋げることが可能に思えるからである。

14. SNS/CGM化がもたらす収益とは

現在の音楽ストリーミング各社は、サービス提供を基本的にスマートフォンアプリもしくはデスクトップアプリで行っている。しかしアプリには最大の欠点がある。それ単体で認知ができず、広告などの費用をかけた露出が必要になる点である。そのため、サービス開始時期など、認知に大きなブーストをかけるためにはTV広告や交通広告、ネット広告などに出稿するのが一般的な認知獲得手法となっている。しかし当然ながら、効果が出るのは広告が露出している間だけである。つまり、広告の出稿を止める、言い換えれば広告にお金を払うのをやめれば、その瞬間から認知獲得の手段が激減する。これが利用促進を図るうえでのアプリのデメリットである。

これを解決するためにはいくつかやり方があるが、比較的簡単なのはWeb化であろう。SEOを念頭に置いて上手にWeb化すれば、広告費用をかけずに、長期・継続的に安定した新規流入を生むことができる。例えばクックパッド、食べログ、RettyなどのCGM系サービスはアプリも存在するが、アプリ単体での集客はほとんどできておらず、基本的にはWebの自然検索で集客している。2016年度のクックパッドの年間広告費は8,000万円ほどで、これは売上げのたった0.5%であるが、このように広告費を低く抑えながら集客し続けられるのも、WebサイトのSEOがうまく効いているからである。

そして、音楽ストリーミングサービスも、このような検索の仕組みをうまく活用できるのではないだろうか。さもなければ、顧客を獲得するために莫大な広告費を必要とする体質のままとなり、低利益体質、あるいは赤字体質はなかなか改善されないのではないだろうか。

実は、現在の音楽サブスクリプションサービスも、多くはアーティストごと、アルバムごと、プレイリストごとのWebページを持っている。これはSNSなどでシェアさせるためのディープリンク用である。多くの場合はGoogleにも既にインデックスされているようである。ただ、あくまでディープリンク用であるため、SEOによる集客効果はほとんど期待できない。いずれもアーティスト名、アルバム名、曲名などの最低限の情報しか載っておらず、SEO的には不利なページ構成になっているからである。

しかし、SNS/CGM化するとどうなるだろう。アーティスト、アルバム、曲の各ページに口コミやレビューが掲載される。これらの独自情報が付加されることで、少なくとも今よりは検索エンジンで上位表示されやすくなるだろう。例えばLordeの最新作『Melodrama』の評判を知るために「Lorde Melodrama」と検索すれば、該当するストリーミングサービスのアルバムページが上位に表示される。そこでLordeの最新作に関する世間の評判を確認しつつ、ページ内のバナーからLPに飛んでアプリの利用登録をする、という流れを作り出すことができる。

こういったWebページはアーティスト、アルバム、EP、シングル、楽曲の総数だけ作ることができる。例えば、アーティスト数200万、アルバム数500万、曲数5,000万が登録されている場合、これだけで5,700万ページが生成できる。この約1割に口コミやレビューがつくとすると570万ページに有益な情報が掲載される。これらに平均1訪問/月が発生すると仮定すると、一か月に約570万訪問が生み出される。このうちアプリをダウンロードするのが1%とすると57,000件、そこから有料会員になるのが10%とすると、月間5,700件の新規加入が発生する計算になる。これは一見少ない数字のようにも思えるが、現状AWAやLINEの有料会員数が10万人前後という実状を踏まえると、広告を打たなくても毎月5,000人超の有料会員が自然発生するというのは願ってもない状況だろう。

また、570万の訪問について、口コミをたどっていくことで、平均5ページを見ていくと計算すると、月間PV数は2,850万PVを叩き出すことになる。月間PVがこれだけあるのはかなりの巨大メディアであり、広告を張り付けた広告収入も期待できるようになる。

SNS/CGM化がもたらす収益はこれだけに留まらない。

人の音楽聴取行動の理解はストリーミングサービスの一つのテーマである。現在は、各サービスは音楽の聴取履歴からこれを把握しようとしているが、「いつ何を聴いた」という聴取履歴だけでは、情報としてかなり薄い。例えばその音楽を聴いているときに、その人がどういう気分になっているかは、その情報からはわからない。Gun N' Rosesの"Rocket Queen"を聴いているリスナーが、カッコいいと思っているのか、懐かしいと思っているのか、ダサいと思っているのか、古臭いと思っているのか、メロディが好きなのか、ギターリフが好きなのか、ベースラインが好きなのか、後半のメロウなパートが好きなのかは、聴取履歴だけでは全くわからない。

しかし、そこに口コミが付くとどうだろう。口コミはただの会話ではあるが、その音楽を聴いてどんな感情を持ったかが文字情報として付加されると捉えることもできる。そのテキスト情報を形態素解析してキーワードに分解してメタデータ化すれば、どのアーティスト、どのアルバム、どの曲に、人々がどのような印象を持っているかを紐づけすることができるようになる。このデータを加工してマーケティングデータとして法人向けに販売することもまた、大きな収益源の一つにはならないだろうか。

例えば、ファッションや雑貨などを扱う店舗では、シナモンやココナツ、ジャスミンの匂いを店内に漂わせることで、購買意欲を高めることができる。同じように、ある特定の状況である特定の曲をかければ、購買率や購買単価が上がるような効果が期待できる。様々な聴取履歴と購買行動とSNS/CGI化で収集されたメタ情報を分析した高度なリコメンドによってこれらが実現できれば、音楽の新たなる収益源になる可能性がある。

このように集客から広告化、データ再販まで考えていくと、SNS/CGM化によってもたらされる効果は計り知れない。何よりも、SNS/CGMで収集されるデータは、他社が模倣できない完全にオリジナルなデータになる。SpotifyのRunningのような単一機能は模倣も容易だが、ユーザが投稿した口コミ情報の模倣はほぼ不可能である。このように考えると、SNS/CGM化は客寄せパンダでも、既存ユーザの熱狂度向上施策でもなく、柔軟なビジネス展開を可能にし、競合に対する独自性をも確立することが可能である。

音楽サブスクリプションサービスは、単なる、CDやデジタルダウンロードの代替や、コストパフォーマンスに優れたお得な音楽サービスではない。所有するという概念をなくし、クラウド上にある同じデータを皆で聴きに行くということは、実は音楽の聴き方、音楽体験を大胆に変貌させる可能性を秘めている。その扉はSNS/CGM化によって大きく開いていくのではないだろうか。

15. 結局1番オススメのサービスは?

ここまで、音楽を消費するものとして、長々と好き勝手なことを書いてきたが、当然ながら、事業というものは、消費する側の視点やニーズだけで成立するものではない。発信する側の知見や制約も合わさってこそ、成り立つものである。実際のところ、「自分たちのことは自分たちが一番わかっている」はずでもあり、各社の中では今後の戦略について、ここに書いた以上の深い議論が幾度も交わされていると推測される。これを読んだ方は、業界のことをよく分かっていない一音楽ファンの与太話と思って、軽く読み流していただけると幸いです。

さて、このエントリーのきっかけは6つの音楽ストリーミングサービスを評価し、有料サービスを絞り込むというものだった。その結論を書かねばなるまい。これまでの長々とした考察の結果、私の中の評価ランキングは、以下のようなものとなった。

  1. Spotify
  2. AWA
  3. Apple Music
  4. Google Play Music
  5. LINE MUSIC
  6. Prime Music

もちろんこれは、洋楽ファンという私の趣味に合わせた評価であり、日本の音楽が好きな方の評価はまた変わってくるだろう。是非それぞれの趣味に合わせて、適切に判断いただきたい。

というわけで、上位3サービスの有料プランは継続し、その他のサービスは申し訳ないが一旦解約しようと思う(Amazon Primeに入っているのでPrime Musicは解約も何もないのだが)。

ただしこれからも動向は頻繁にチェックし、私好みの魅力的なサービスになっていくようであれば、Spotify、AWA、Apple Music以外の利用再開も検討したい。

(2017年7月19日「デスモスチルスの白昼夢」より転載)