「キュン」って何? 恋愛しないアセクシュアルの2人が本音で語ったこと

修学旅行の「好きな人を教え合おう会」はツラいんです

あなたは「アセクシュアル」という言葉を知っていますか?

他にも「アセクシャル」「Aセクシャル」など様々な日本語表記がありますが、意味は「他者に対して(恒常的に)恋愛感情や性的欲求を持たない」だとされています。

海外などでは「他の人に対して他の人に対して性的に惹かれることがない人」と定義づけられることもあります。専門研究があまり進んでいないことから、定義は明確には定まっていないようです。

私はアセクシュアルです。

子供の頃、そして大人になった今でも恋愛感情というものがわからず自分はどうして恋愛できないんだろう?と悩んでいましたが、2017年春に「アセクシュアル」という言葉に出会って私の人生は大きく変わりました。

自分と同じようにアセクシュアルという言葉を知れば気が楽になるかもしれない人の力になれたらと思い、前回の記事を執筆しました。ここでは、アセクシュアルの当事者で、性性堂堂のメンバーとしてYouTubeなどで活躍するなかけんさんに会いに行きました。

性性堂堂は、動画を上げたり、オフ会をしたりする「性トークおしゃべり集団」。レズビアン、アセクシュアル、MtF(男性から女性になったトランスジェンダー)、Xジェンダー(女性・男性どちらでもない性を自認している人)の4人で構成されています。

前回の記事では、なかけんさんが性性堂堂の活動を始めたきっかけやアセクシュアルかもしれないと悩む人への言葉などを聞きました。

今回は、アセクシュアルは恋愛をどう感じるのか、学校で抱えてきた悩みや日常、結婚についての考えなど、恋愛しない2人が語り合ったことを紹介します。

前回の記事を読んでいない方は、こちらからご覧ください。

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◆ 2ちゃんねるでアセクシュアルに出会った

HUFFPOST/KAORI SASAGAWA

-まず、なかけんさんが自分がアセクシュアルだと気付いたきっかけを教えてください。

なかけん:単語自体を知ったのは3年前です。「恋愛 できない」とかで調べていました。そういうワードで検索すると、大抵元カレとの思い出みたいなトラウマの話が出てくるんですよね。でも自分はそうじゃないと思って。

最近はLGBTブームもあって、アセクシュアルも知られてきているんですが、その頃は検索しても全然出てこなくて、10ページ目くらいに出てきた2ちゃんねるで、やっとアセクシュアルというワードを見つけたんです。

それまでは、「そもそも恋愛感情って何?」みたいなことを言っても周りから全く共感を得られなかったんです。けど掲示板にはすごく自分に近いことが書かれていて、「これかもしれない」と思ったのが自認のきっかけですね。

-2ちゃんねるだったんですね。

なかけん:2ちゃんねるだとしても、あるのとないのではやっぱり違うと思います。酷いことを書かれたりもしますが、真面目にコメントしてくださる方の言葉にはすごく共感できました。

今は「恋愛感情 ない」「恋愛 わからない」で調べた時に、すぐアセクシュアルがヒットするようになってきていますよね。一気にばっと広がるというよりは、じわじわとアセクシュアルを知っている人が増えてきているなという感覚はすごくあります。

◆ 恋愛作品の「キュン」て何?

ー小さい頃から、恋愛ドラマや漫画など、恋愛コンテンツについてはどう思っていましたか? 例えばですが、「キュンってする」とか意味がわからないですよね。

なかけん:漫画などから受ける影響は自分もあったと思うんですけど、そういうのを見ても「こんな世界があるんだ〜」「(恋愛描写を見て)キュンってするんだ〜」みたいな感覚でしたね。

前のNPOの時にアセクシュアルの方が集まるオフ会で100人近くのアセクシュアルの方にお会いしたんですけど、その時もこの話に共感してくれる人は多かったです。その「キュン」はどこから湧くのか? みたいなことを1時間くらいみんなで真剣に話しました(笑)。

ー私は「どういう気持ちで読んでいるの?」と聞かれたときに「お話としては普通に楽しく読めるけど感情移入はしないな」と思いました。ドキッとするとか、好きでたまらないとか、登場人物のそういう気持ちは理解できなくて。恋愛しているリアルの人たちは本当にこんな恋愛してるの?って疑問が湧きました。

なかけん:自分はむしろ、逆の衝撃がありました。

恋愛漫画を読んで感情移入することに驚きました。漫画ってリアルとは完全に離れた創作物としてみんな読んでいるのかなと思ってたんです。ヒロインに感情移入するとか、自分がこの状況だったら...と考えるという話を聞いて、びっくりしましたね。

ー親子愛とか友情とか、恋愛じゃなかったら感情移入できることもあるんですよね。でも、恋愛作品に感情移入する人って結構いるんだなということも最近だんだんわかってきました。漫画だけじゃなくて、ラブソングとか恋愛ドラマとかもそうです。「会いたくて震える」とか、よくわからないですよね。

なかけん:震えないですよね(笑)。

まあ、恋愛する子でも「震えることはさすがにないけど」って否定はするんです(笑)。けど、確かに会いたくてたまらない時はあるよ、と言っていました。自分は、ラブソングとかはメロディラインが良いとか歌が上手だとかというところでしか聴いていないです。自分と照らし合わせて共感するといったことはないですね...。

-世の中にはたくさんの恋愛コンテンツが溢れていますが、どう感じていますか?

なかけん:自分は好奇心の方が働きます。「会いたくて震える」なんてことが起こり得る、そんな強いエネルギーを持っていることが興味深くて。恋愛コンテンツに関しては、そういう風に捉えていますね。

ー私も恋愛コンテンツを見るのは嫌じゃないです。まぁそういうのもあるよね、くらいの気持ちですね。でも、恋愛で全てが回っているような話とか、そういう生き方の人を見ると疑問が勝ってしまいます。「そんなに面倒臭いのになんで恋愛するの?」って。恋愛で悩んで病んでしまいそうな子を見ていると、何がそこまでこの人をそうさせるのか?と思います。そういうところは、本当にわからないですね。

◆ 「好きな人を教え合おう会」

HUFFPOST/KAORI SASAGAWA

ー私の経験ですけど、小中学校の修学旅行の夜に「好きな人を教え合おう会」みたいなことがあって嫌でした。男の子も、ああいうのはあるんですか?

なかけん:あれは地獄でしたね。男子は、もうちょっと性の話に近かったです。だから、余計に。

ー女子の方は、一人一人好きな人を言っていこうみたいなことをやっていたんですけど、私は全然いなかったので「私はいないから」と言うと「そうやって一人だけ隠そうとして!」と責められてしまったんですよね。

なかけん:空気読めない感じになっちゃうんですよね。

男子は、どうしても思春期は当たり前のように性的な話に興味があると思われることが多いので...。デリケートで言いづらいからこそ、言わないと隠していると思われるんです。だから、余計に深く聞かれる。学校生活では「誰が好き」といった恋バナが頻繁に話題にのぼったので、そのたびに毎回どうにか切り抜けていました。

そういう話を教えて信頼し合うようなことがコミュニケーションの一部になっているところもあるので、空気を乱すわけにもいかないと思っていっそ話に乗ってしまう時もありました。でも、それが更に自分をしんどくさせてしまう原因になる。しかも、その場しのぎでなんとなく言った誰々が好きって噂が広まって、本当に好きって話になっているということもあって...。

ーいつ告白するの、って勝手に話が進んでいくんですよね。

なかけん:そういう意味では、恋愛至上主義というのは恐ろしいなと思いますね。その人たちはあくまで良かれと思ってやっているわけなので。空気を作られてしまうと余計にどうしていいか分からなくなってしまいますよね...。

◆ 男性と女性の違い

ーこれまでの経験で、恋愛的な経験とか誰かに好意を寄せられたりすることはありましたか?

私の場合ですが、一回だけ男の子と付き合ったことがあります。付き合ってはみたんですが、なんか違うなと思って。その男の子と私の関係が、だんだんよくある恋愛的なイメージに当てはまっていってることに気付いて、気持ち悪くて嫌だと思ったんです。恋愛ってこんなんだったんだなと思って、別れたんです。

そのあとも告白されたことはあったけど全部断っていました。けど、断る時に「今は恋愛に興味がないので」と言うと「でもいつかは振り向かせます!!」みたいなことを言われたりして、引いてしまって。

なかけん:そういうのありますよね。余計に燃えちゃう、みたいな。アセクシュアルの女性だと、そういう悩みも自分はよくお聞きしました。言い寄られると、余計に、更に嫌になるみたいな。

ー興味がないと伝えたのに、それでも「いつかは振り向くかもしれない」と思われたのは嫌でしたね。

なかけん:自分は、女性から「当たり前に恋愛対象として見てくる」と思われるのがすごく嫌です。男性って、女性から「そういう目で見てるんでしょ」と思われる場面もあるじゃないですか。それがすごく嫌だったんですよね。

もちろん仲良くなったら誤解は溶けていくんですが、自分は女友達としてしか付き合う気がないのに、最初はそういう風に見られてしまうのがストレスで...。

自衛は大切だし必要だと思います。けど、こっちはただ友達になりたいとか普通に話したいとしか思っていないのに...って。何もしていないのに最初から壁を作られてしまう、みたいな。気持ちは似ているけど、逆側の悩みですね。

◆ アルバイト先の飲み会で好きな子を聞かれて

ー他にはどんなことがありましたか?

なかけん:アセクシュアルを自認する前の16歳頃に、アルバイト先の飲み会で、「若いし好きな子とかいるんでしょ」と聞かれて「恋愛感情自体があまり分からないんですよね」と何も気にせず言ったんです。

そうしたら、「え? それは恋愛だけじゃなくてその他諸々の感情もないってこと?」「恋愛感情がないのは多分あり得ないと思うよ~」「恋愛しないなんて、楽しくなさそうだね」みたいなことを言われたんです。この発言は傷つけようとして相手が言った言葉ではなく、自然に相手から出てきた言葉でした。でも、恋愛というものが人にベースとして備わっているものだと思っていたら、その発言もわからなくない。

ー恋愛しないなんてもったいない、みたいな感じですか?

なかけん:そうです。たった数人に言われたことなので、それだけだと思えばそれだけなんですけど。でも飲み会の席でそう言われたと考えると、実質その場にいる何人もから言われているのと同じだと感じてしまって...。自分って世間の感覚と違うんだと思ってショックでした。

それがきっかけとなってアセクシュアルについて調べた、というところにつながるんです。

今は、生きている限りはこういう話からは逃れられない、またこういうことがあったとき困るなと思って、理解してもらえるかはわからないけど相手に自分のセクシュアリティのことを伝えるようにしています。

HUFFPOST/KAORI SASAGAWA

後編は後日公開予定です。

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