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ノーベル平和賞受賞のコロンビア・サントス政権は 「持続可能な開発目標」(SDGs)の生みの親だった

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=新興国がグローバル・アジェンダを制するまで=

サントス政権が産み落としたSDGs

本年のノーベル平和賞は、南米・コロンビア共和国で、50年以上にわたる政府と「コロンビア革命軍」(FARC)の内戦の終結と和解に尽力したということで、コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領(Joan Manuel Santos-Calderon)に授与されました。

サントス大統領に率いられたコロンビア共和国が、昨年9月に国連で採択され、日本でも企業やNGOなどで「隠れたブーム」となっている「持続可能な開発目標」(SDGs)の「生みの親」であることは、実はあまり知られていません。

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サントス政権は、2011年の段階で「SDGs」の制定を発案し、グアテマラなど中南米のいくつかの途上国の支援を得て、2012年の「リオ+20サミット」(国連持続可能な開発会議)でこの策定を決定するよう売り込みました。同サミットでどのような成果を生み出すか考えあぐねていたブラジルはこの案に飛びつき、「SDGs」制定に向けた決議がこのサミットの主要な成果となったのです。

「内戦、誘拐、麻薬の国」のイメージからの脱却を目指して

SDGsはサントス政権が「偶然」思いついたものではありません。それまで、コロンビアには「内戦、誘拐、麻薬の国」という悪いイメージが付きまとっていました。一方、当時の中南米では、ベネズエラのチャベス政権を筆頭に、長年にわたるアメリカの支配から脱却し、極端な貧富格差を是正しようという左派民族主義政権のトレンドが席巻していました。

ところが、国内にFARCという強大な左派ゲリラが君臨し、さらにアメリカが主導する対麻薬戦争が国内で展開されていたコロンビアは、原理的に、この路線に乗ることができない状況にありました。アイデンティティ・クライシスの中、サントス政権は、中南米の「次の時代」に向けて、頭一つ抜け出るためにはどうするか、沈思黙考を繰り返していたのです。

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SDGsをコロンビア政府内で発案したのは、当時コロンビア外務省の経済・社会・環境局長を務めていたパウラ・カバジェーロ氏です。カバジェーロ氏はコロンビア外務省内に、「リオ+20サミット」に向けた小グループを組織し、コロンビアとして何を提案するか検討していました。カバジェーロ氏は会議中に、あることを思いつきました。

2001年に策定され、途上国の貧困解消に一定の成果を上げてきた「ミレニアム開発目標」(MDGs)を踏まえて、今度は「持続可能な開発」に向けて目標と指標、期限を設定した「持続可能な開発目標」(SDGs)を策定すればよい。それをコロンビアが発案すべきだ...カバジェーロ氏はこのひらめきを、コロンビアの外務大臣マリーア・アンジェラ・オルギン氏のところに持ち込み、「無条件の支持」を受けます。

さらにサントス大統領も、この提案を熱烈に支持し、「何があろうと、SDGsがリオ+20の成果として採択されるように頑張れ」とカバジェーロ氏を激励。カバジェーロ氏は、サントス大統領の支持を受けて、国連の場で「コロンビア? どうして?」「なぜコロンビアごときが」などと言われながらも、いろいろなアクターを説得してSDGsの制定に邁進します。

結果、SDGsは「リオ+20」サミットで採択され、様々なイニシアティブの競合を勝ち抜いて、世界の環境・開発目標として確立されるに至ったのです。

SDGsも「和平交渉の課題」に

サントス政権は、自らがSDGsの発案者であることを誇りに、コロンビアの国家開発計画をSDGsをベースに策定し、すべての開発政策をSDGsに紐づけて、その推進を図ってきました。

今回のサントス大統領のノーベル平和賞受賞の理由となった内戦終結のための和平交渉も、SDGsの「ゴール16」(平和、民主主義、執行力ある行政機関)に紐づいています。和平交渉は、10月2日の国民投票での否決で新たな局面を迎えましたが、政府、FARCともに和平への意志は固く、プロセスは再び軌道に乗るものと思われます。

サントス大統領のノーベル平和賞受賞は、和平や対話のみならず、SDGsの推進に向けた大きな追い風として受け止められます。また、中南米の一新興国コロンビアが、様々な才能を結晶化して「SDGs」を生み出し、グローバル・アジェンダに仕立てていったプロセスは、地域の新興国・途上国でもグローバルなイニシアティブ形成に主導権をとれることを示した歴史的事例であり、日本の外交や市民社会の活動にも大きな示唆を与えるものとなっていると思います。


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事務局長
稲場雅紀