国連総会SDGs採択サミット参加報告

ニューヨークは大変な熱気に包まれていた。

ニューヨークは大変な熱気に包まれていた。

記念すべき第70回目となる国連総会において、国連SDGs採択サミット(United Nations summit for the adoption of the post-2015 development agenda)が開催され、193の国連加盟国のうち130カ国以上の首脳の参加の下、持続可能な開発目標(SDGs)を含む「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ」が採択されたのだ。2年以上にわたるSDGsの策定プロセスに携わってきた各国政府関係者、市民社会、アカデミア、ビジネス界等々、様々な分野のステークホルダーたちが、その採択を見届けるため、世界中からニューヨークに集っていた。

動く→動かすの加盟団体であるワールド・ビジョン・ジャパンも、これまで数年にわたりSDGsの目標やターゲットに影響を与えるべく、日本で、またグローバルレベルでアドボカシーを行ってきたことから、SDGsの採択を見届け、さらに、今後のSDGsの目標達成を目指す「実施」に向けた議論に参加するため、他の市民社会メンバーとともにニューヨークを訪問した。

今回の記事では、国連総会特別サミットや期間中の市民社会の動きなどについて報告するとともに、SDGsを巡る今後の動きについて紹介したい。また、今回国連総会で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ」が私たち一人ひとりに求めることについても考えてみたい。

◯活気溢れるニューヨーク~国連総会SDGs採択サミットと100以上のサイドイベント!~

例年、国連総会の時期にはニューヨークの国連本部ビル周辺は2ブロック先から封鎖され、特別パスと国連関係者によるエスコートが無いと、国連ビル方面には進めない状況になる。各チェックポイントには警察官が立ち、封鎖されたエリアに入る一人ひとりに特別パスの有無を確認しているほか、様々なイベントに参加する人びとがつくる行列でごった返していた。今年は、SDGs採択という特別な総会であることから、市民社会だけで2,000人以上が参加を希望したとのことで、事前のパス入手も含め、国連へのアクセスは例年以上に手間と時間を要するものとなっていた。

SDGs採択サミットは、9月25日から27日の3日間に渡り国連本部で開催された。ローマ法王のスピーチで幕を開けた総会(Plenary)では、オバマ大統領をはじめとする世界各国の首脳が、新たな時代の幕開けに向けた抱負や各国の取り組みについて語っていった。また、総会と同時並行でSDGsの骨格を成す以下6つのテーマに関する双方向対話(Interactive Dialogue)も開催され、関係するステークホルダー間でスピーチが行われた。

・貧困と飢餓を終わらせる

・不平等に立ち向かい、女性および女子のエンパワーメントを行い、誰も取り残されないようにする

・持続可能な経済成長、変革、持続可能な消費と生産を促進させる

・我々の地球を保護し、気候変動に立ち向かう

・持続可能な開発を実現させる為に、効果的で、責任を有し、包括的な機関を構築する

・ポスト2015開発アジェンダの実現のためのグローバル・パートナーシップを強化する

また、これら国連総会の一部として行われた諸会議に加え、様々なステークホルダーが、SDGsに関連する諸テーマについて、総会期間中100以上のサイドイベントを国連本部内外で開催していた。筆者も、ワールド・ビジョンも共催していたサイドイベント(「質の高い保健と水衛生(Quality health care and WASH)」、「子どもに対する暴力撤廃(Building a world that is safer for children)」など)のほか、国際的なNGOネットワークであるBeyond2015が主催するSDGsの実施に関するハイレベル特別イベント(Implementing the Post-2015 Agenda Building Political Leadership for a Transformative Agenda)や、日本政府が主催するUniversal Health Coverageに関するサイドイベントなどに参加した。これらのサイドイベントにも、各国首脳や政府関係者をはじめ、国際機関や市民社会、アカデミアやビジネス界の関係者たちも多く出席しており、まさにマルチステークホルダーで議論が行われていた。

◯関係者の想いと今後の動きについて

これら一連の会議に参加して感じたことがいくつかある。

まず第一に、様々なセクターの参加者が主体性を持ってSDGsと関わっているということ。これは、SDGsの策定プロセスが大きく関係していると言える。トップダウンで決定されたミレニアム開発目標(MDGs)と異なり、SDGsは2年以上かけてマルチステークホルダーで議論が重ねられてきた。貧困や飢餓、格差の解消を含む17分野169項目の目標を盛り込んだSDGsは、目標の寄せ集めであり実現困難とも揶揄されているが、テンコ盛りになってしまったのは、このようなプロセスも一因となっているであろう。しかしながら、このインクルーシブな策定プロセスの成果としては、この策定に向けて活動を重ねてきた様々な分野のステークホルダーが、SDGsを押し付けられた目標ではなく、まさに「自分ゴト」として捉える大きな要因となったことが挙げられるであろう。

第二に、すでに関係者のマインドが「実施」に向かっているということ。サミットは、これまでの長きにわたる議論の成果が採択されるという歴史的瞬間であり、お祭りムードに包まれてもいたが、多くの会議やイベントでの議論のテーマは実施に関するものであり、関係者の間では、如何にSDGsを実現するか、という方向に既にマインドセットがなされていることを強く感じた。

今回のサミットでは、SDGsの17目標169ターゲットが採択されたが、その進捗や成果を測定する「指標」については、現在も専門家委員会で議論が続けられており、2016年3月に決定する予定である。また、実施に向けた体制作りや計画作りについては、今後各国政府が主体的に取り組んでいく必要がある。

我々の世界の変革とは?~誰もがオーナーシップを持つ必要性~

SDGsの特徴の一つとして挙げられる普遍性(universality)は、日本を含む先進国にもSDGsの達成を求めている。一見、開発途上国の課題のように思われるSDGs諸目標も、一つ一つをじっくり眺めてみると、格差や子どもに対する暴力、気候変動など、現在の日本にも当てはまる課題が多数含まれていることに改めて気付かされる。

採択文書の正式名称は、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ(Transforming Our World: The 2030 Agenda for Sustainable Development)」。国連事務総長特別顧問であり、SDGsの策定プロセスを率いていたアミーナ・モハメッド氏は、日本の市民社会と対話を行った際、SDGsを達成するためには、私たち一人ひとりが考え方とライフスタイルを変えていく必要があると語っていた。まさに、採択文書が求める「我々の世界の変革」は、私たち一人ひとりの変革から始まると言えよう。

ニューヨークに足を運び、この熱気に触れた者の一人として、新たな時代の開発目標を1人でも多くの人たちに「自分ゴト」として捉えてもらい、本当の変革をもたらすものとするために、関係者と協働しながら今後も活動を続けていきたい。

特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン(https://www.worldvision.jp/

アドボカシー・シニア・アドバイザー/チーム・リーダー

柴田哲子

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