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連載:アフガニスタンで平和について考えた  ~ 根本かおる所長のブログ寄稿シリーズ (最終回) 悲観的なムードの中で平和をつくるチャレンジャー、山本忠通特別代表

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私のアフガニスタン訪問記・連載ブログの第5回は、同国に展開する世界最大の国連特別政治ミッション、UNAMAを率いる山本忠通・事務総長特別代表をご紹介します。

治安の悪化、失業、腐敗の蔓延によって、国民の間に悲観的なムードが広がるなかで、和平と復興に向けた機運を高めるため果敢な挑戦を続ける山本特別代表はUNAMAのトップとしての仕事について、外交官人生でももっともやりがいを感じると述べています。

いよいよ最終回となった本ブログですが、5回の連載を通じて、ニュースで伝えられる悲惨の状況の裏に、人々の平和や平穏な生活への願い、また、山本特別代表をはじめ、その願いを叶えるべく活動する人々の思いがあることを感じ取っていただけたなら、こんなに嬉しいことはありません。

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アフガニスタンの人々の国民的なムードについて調査を重ねてきたものとして、アメリカに本拠地を持つアジア財団の「A Survey of the Afghan People」があります。2004年以来、毎年意識調査を行って結果の分析を発表していますが、2016年12月に発表された最新の2016年版の調査結果は、2014年の多国籍軍の大幅撤退以降の治安の悪化や失業率の悪化を色濃く反映したものとなり、回答の66パーセントが「アフガニスタンは誤った方向に向かっていると思う」と答えています。

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アジア財団「A Survey of the Afghan People 2016」より。「一般論として、あなたの経験では、アフガニスタンは正しい方向に向かっていますか、それとも間違った方向に向かっていますか?」との問いに、間違った方向と答えた人は66パーセントにものぼり、正しい方向の29パーセントを大きく上回る。

同調査では、このように悲観的な見方が強まっている背景として、人々は治安の悪化、失業、そして腐敗の蔓延を理由に挙げています。

2014年に多国籍軍の規模が大幅に縮小されると、反政府勢力タリバンはアフガニスタン国軍の防衛能力に挑戦し、2015年には情勢が悪化。

タリバンは支配地域を拡大したのに対して、アフガニスタンの治安・防衛部隊は守勢に回る格好となり、最近ではイスラム国も活動を活発化させています。

こうした中、2016年に戦闘やテロによって民間人が死傷した数は1万1,418人と、UNAMAが調査を開始した2009年以降最悪の数字を記録しました。UNAMAの発表によると、2009年初めから2016年末までに民間人の死傷者数の合計は7万人を超えています。

今年に入ってからも各地でテロ事件が相次ぎ、5月31日の首都カブールの各国大使館が集中する地区での爆破テロ事件は日本でも広く報じられました。

アフガニスタンのガニ大統領は、6月6日、この事件による死者の数が150人以上、負傷者は300人以上に上ると明らかにしています。

また、失業率は、2013年に8パーセントだったのが、2014年には25パーセント、2015年には40パーセントと急上昇している、というデータもあります。

駐留軍や海外からの支援が生む需要に依存する経済構造になってしまっていたところ、2014年の多国籍軍の大幅撤退を受けて経済が落ち込んだことなどの影響を強く受けているものと見られます。

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間違った方向と回答した人に、その理由を聞いたところ、地方(濃い緑の棒)でも都市部(薄緑の棒)でも、トップ・スリーは治安の悪さ、失業、そして腐敗・汚職。

このような中で和平と復興に向けた機運を高めるのは至難の業ですが、それに果敢に挑戦しているのが、アフガニスタンで2014年から事務総長副特別代表、そして2016年6月から事務総長特別代表を務める山本忠通さんです。

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アフガニスタン東部の拠点都市、ジャララバードにて(UNAMA Photo)

現在世界11か所で展開されているミッションの中で最大規模のものが、「国連アフガニスタン支援ミッション(UN Assistance Mission in Afghanistan、略してUNAMA)」です。

2001年11月のタリバン政権崩壊を受けて、2002年3月に国連安全保障理事会の決議により設立されました。

UNAMAのスタッフの規模は総勢1,500名以上で、現地に拠点を置く特別政治ミッション全体の陣容5,000人超の3分の1を擁し、山本特別代表はそのトップを務めます。

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インタビュー後に談笑。インタビュー中、庭にいるクジャクや猫の鳴き声がして、びっくり(UNAMA/Anna Maria Adhikari)

国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)の長である山本特別代表は、アフガニスタン国内に12のフィールド・オフィスを持ち、草の根の市民団体と連携して人々に寄り添って課題に取り組むUNAMAの基本姿勢を強調します。

山本特別代表は、アフガニスタン和平への道筋のカギとして周辺国などを含めた地域協力の推進に力を入れ、シャトル外交を行っています。また、和平交渉への下地として、タリバンとの接触にも乗り出しています。

2016年10月にブリュッセルで行われたアフガン支援国際会合では、2017年から2020年までの援助として、世界全体で総額150億米ドルを上回る額を支援することで合意しましたが、同時にアフガニスタン政府が支援の実施についてガバナンスと説明責任を果たすことが求められています。

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2016年10月ブリュッセルにて。左から山本特別代表、フェルトマン政治局担当事務次長、潘基文事務総長(当時)、アフガニスタンのガーニ大統領、アブドッラー行政長官(UN Photo)

その中で特に重要なのが腐敗の防止です。アジア財団の意識調査からも、腐敗・汚職が国・県・自治体・地域・暮らしレベルで蔓延し、問題視されていることがわかります。

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a.毎日の生活(濃い橙色)、b. あなたの住んでいる近所(薄い橙色)、c. あなたの自治体の行政(灰色)、d. あなたの県レベルの行政(薄緑)、e. アフガニスタン全体(濃い緑)で、腐敗・汚職が大きな問題かどうかを聞いたところ、YESの回答のパーセンテージをグラフに。

山本特別代表の強いコミットメントのもと、UNAMAは2017年4月、『アフガニスタンの腐敗との闘い:もう一つの戦場』と題する報告書を発表しました。

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2017年4月25日、アフガニスタンの法務大臣とともに報告書を発表した(UNAMA / Fardin Waezi)

その記者発表で、「反腐敗正義センター(Anti-Corruption Justice Centre)」の開設をはじめ大きな前進があることに触れながらも、「腐敗はまるで病魔のように長年にわたって蔓延し、人々の暮らしのあらゆる局面において複雑に根付いてしまっている」と述べています。

私にとってはほんの数日のアフガニスタン滞在ではありましたが、強く思ったのは、国連ならびに日本への信頼です。日本出身の国連職員として、その信頼の重みをヒシヒシと感じさせられましたが、それは山本特別代表も実感していることです。

世界最大の国連の特別政治ミッションで、多岐にわたるマンデートに関わる1500人以上の国連職員を指揮している山本特別代表ですが、外交官人生の中で最もやりがいを感じていると述べています。

5月31日の首都カブールの各国大使館が集中する地区での爆破テロ事件は多数の犠牲者を出し、この国の脆弱性を改めて突き付けることになりました。

前回のストーリーに登場した、バーミヤンのホテル運営と地域の女性たちの手工芸品を扱う会社を経営している安井浩美さんは、治安が悪化の一途をたどっているアフガニスタンの今について、「悲しい、残念、悔しいの3つの言葉です。この国のあらゆる問題ですが、問題の根源がわかっていながらどうしようもできない歯がゆい状況に常におかれていることに憤りを感じるとともに、武器をもって戦うこともできない無力な自分が苛立たしく思ったりします」とコメントを寄せてくださいました。

この秋、アフガニスタンに関係する国際会議が東京で開催されます。

ユネスコは日本政府の支援により、9月27日から29日までバーミヤン大仏再建のための技術会合を東京藝術大学で開催します。

参加者は情報文化大臣をはじめとするアフガン政府要人の他、世界遺産や文化財保護の専門家、教授、ユネスコ職員等計50名に及び、3日間の技術会合に続く9月30日には、同じく東京藝術大学で一般の方を対象に公開シンポジウムが開催されます。

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バーミヤンの西大仏の前で、ユネスコ職員らから説明を受ける (UNAMA/Anna Maria Adhikari)

このバーミヤン大仏再建の会議は、壊された文化財をどのように補修するかという技術論に留まらず、テロによって破壊され、オリジナルの部材がほとんど散逸した文化財を新たに建立することの是非や、その作業指針についても話し合われます。

そのため会議の結果次第では、従来の世界遺産条約の作業指針に大きな影響を及ぼす可能性がある重要な会議です。

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東大仏について、今後の方針が9月の東京の会議で話し合われる(UNAMA/Anna Maria Adhikari)

バーミヤンの文化遺産の保護については、生前ユネスコ親善大使だった平山郁夫氏の尽力に加え、日本政府・日本の専門家が多大なる協力を行ってきました。

文化的な側面から世界の平和をどう築くべきか話し会う場が日本の支援によって東京で設けられることは大いに意義のあることでしょう。

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壁画が剥がれ落ちそうになっている箇所もあり、素人でも心配になる(UNIC Tokyo/Kaoru Nemoto)

この5回にわたる連載を通じて、ニュースが伝えるテロの被害を受けた人々の数の裏側に、人々の平和と平穏な生活への願い、喜怒哀楽、そして一人一人が持つ可能性があるということ、そして国連や日本の関係者の思いがあるということを感じ取っていただけたならこんなに嬉しいことはありません。

ラマダン中の6月14日、アントニオ・グテーレス国連事務総長がアフガニスタンをサプライズ訪問し、相次ぐテロ事件などで傷ついたアフガニスタンの人々への連帯の気持ちを表明しました。

同時に、「平和こそが解決策だ」と強調し、和平にむけた動きを事務総長として支援する用意があると表明しました。

日本の皆さんにも、これからもどうぞアフガニスタンに関心を持っていただければ幸いです。