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「砂漠化について考える。日常を非日常にしないために。」 ~6月17日は、砂漠化および干ばつと闘う国際デーです~

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砂漠化について考える。日常を非日常にしないために。

国連砂漠化対処条約(UNCCD)事務局
コミュニケーションチーム・リーダー/スポークスパーソン
堀 幸恵(ほり・ゆきえ)

砂漠化。日本に住む多くの人々にとってなじみのない言葉だと思います。私はドイツのボンにある国連砂漠化対処条約(UNCCD)事務局で10年近く広報の仕事をしていますが、「砂漠化問題が実は砂漠のことではない」ことは一般的にあまり知られていません。「砂漠」という言葉自体が自分とは関係のないどこか遠くの問題だと解釈されてしまいがちだからです。

しかしながら、砂漠化とは乾燥地における土地の劣化全般を指すものであり、その世界的影響は大きいのです。こうした理由から、砂漠化対処は2015年9月の国連サミットで採択された新たな国際目標「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に盛り込まれ、17の持続可能な開発目標(SDGs)の1つとなりました(目標15)。一人でも多くの人に砂漠化を「自分に降りかかる問題」として捉えて行動してもらうことが私たちUNCCDの課題です。

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土地の劣化は単に自然や生物の多様性に影響を与えるだけでなく、人々の暮らしと密接につながっています。その最たるものは食料安全保障の問題でしょう。砂漠化の人為的要因として、過放牧、無計画な森林伐採、農業用水による塩害、化学肥料の使い過ぎなどがありますが、近年では鉄砲水・干ばつの長期化など気候変動の影響が、農作物のみでなく土地の生産能力に深刻な影響を及ぼしています。これは私たちにとって食料価格の高騰などに跳ね返ってきます。

そして農業に従事する人々、特に途上国で天水農業に従事する小作農家にとっては、生活の糧を失う打撃となります。現在、途上国の約10億人が極度の貧困に苦しんでおり、そのうち3分の2が農村部に住んでいます。彼らにとって気候変動、砂漠化は生死に関わる問題なのです。

生活の糧を失った人々はどうなるか。まず、そうできる人は一時的にでも頼れる親戚や、職のありそうな都市部に移動するでしょう(移動した土地で必ずしも生活基盤が築けるわけではありませんが)。それもできず、なおかつ行政の援助が見込めない人々は最悪の場合、難民として住む土地を離れざるを得ないことになります。

これは1950年以降、農地の約65%の土壌が劣化したといわれるアフリカでは特に深刻な問題です。また、同じくアフリカではこれまでにない人口増加が起きており、2050年には現在の人口の2倍に膨れ上がると予測されています。

人口の8割が農業など自然資源に頼る生活をしている現状において、砂漠化は望まずとも移住をせざるを得ない状況に人々を追い込むことになります。そういった状況におかれた人々のおよそ六千万人が、今後30年間にサハラ以南のアフリカの砂漠化した地域から北アフリカやヨーロッパに移動する可能性が指摘されているのです。

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このような大きな人口移動は、民族間の緊張が存在する場合は特に、社会的混乱や紛争などの要因となる危険性をはらんでいます。食料、エネルギー、水などの資源競争が激化するにつれて、生活の糧のない人々はなすすべがなく、時には急進派や政治的過激主義、争いや紛争の格好の餌食になってしまうのです。

これはニジェールの紛争のホットスポットと呼ばれる小都市で移民支援のために働いていた私の同僚の話です。その街に集まるのは西アフリカ各地からの若者、彼らに危険思想はありません。

ただ、未来へとつながる仕事を求めて北アフリカやヨーロッパへの仕事をあっせんしてくれる業者をそこで待つのです。中には中継地点であるアルジェリアやリビアへの渡航に失敗し街に戻ってきた若者が、何年も無職のままその地に留まります。資金に枯渇し職のない彼らは、時にテロリストからの「就職斡旋」を受けます。日本円にして5万円にも満たない報酬で口車に乗り、犯罪に加担する者もいるのです。

もちろん、砂漠化が必ずしも紛争につながるわけではありません。しかし、今日アフリカで起こっている紛争の多くは、自然資源に関する争いに端を発しており、砂漠化により生産性のある土地を失うことで危険な人生の選択を迫られる人々がいることも確かなのです。他方、大規模な人口の流出、流入に伴う社会的混乱は一見、無関係に思われる他の国々にも様々な影響を及ぼします。

砂漠化が人々の日常の生活を奪い、非日常に追いやっていく- もしこのまま、砂漠化に対して各国が自国に関わる問題として取り組まなければ、非日常が日常になる社会を助長することになりかねません。生産的な土地を失うことは、自然災害や食料問題だけでなく、社会が成り立つために必要な多くの物を奪いかねないのです。

では、砂漠化対処とは―。国は、私たち個人は、何ができるのでしょうか。

まず、砂漠化対処のメリットを挙げてみます。土壌の復元は鉄砲水等の災害を防ぐのみでなく、本来その土地に生息する生物、植物を呼び戻します。農業用地の土壌を回復すれば食料安全保障と土地利用者の収入が同時に確保できます。

持続可能な土地管理(Sustainable Land Management: SLM)によってほぼ恒久的に同じ農地や牧場を使用できれば、他の用地を農業・放牧用地として開拓する必要はありません。つまり、酷使により劣化した土地を捨て新たな土地を劣化することになるという悪循環を防げるわけです。土地を生産的に活用できれば、人々はその土地から離れずに済みます。

それは、意に沿わない移住や都市のスラム化を防ぎ、貧困撲滅、生活の向上による治安の安定につながります。

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そう簡単にはいかないだろう、と思われるかもしれません。でも砂漠化対処はそれほど難しいことでもないのです。SLMの手法はUNCCDが持つデータだけでも250以上あります。ではどうするか。簡単に言うと、まず、今ある劣化されていない土地をそのままの状態で保ちます。その土地が土地劣化の原因となる使われ方をされていればそれを止めます。第二に、劣化した土地を回復させます。

これには、植林、環境保全型農業の導入、または食べ物を無駄に捨てるなどの消費パターンの見直しなどが含まれます。もちろん、温暖化防止行動も砂漠化防止に役立ちます。SDGs目標15の掲げる「土地劣化の中立性」を達成することは、土地と他の開発目標達成との間に不可欠なつながりを生み出します。

言い換えれば、土地劣化を中立することによって、砂漠化へと進む悪循環が、生産的な土地管理で食糧確保、雇用の増大、環境保全をもらたす等の好循環に変わるということなのです。

例えばサハラ以南アフリカの3億ヘクタールの農地のわずか25%で土地と水の管理が改善できれば、作物収量は50%増加し、さらに2200万トンの食料確保が可能となります。砂漠化により移動をせざるを得ない多くの人々のうち、どれくらいが、その土地の回復によって食糧と収入を得て地元に住み続けることができるでしょう。

事実、緑の壁サハラ・サヘルイニシアチブなど、広大な範囲での土地の回復を目指す試みが成果を上げています。

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そして日本からも砂漠化対処への支援は行われています。昨年ケニアで開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)では砂漠化がグローバルな課題として認識されました。UNCCDも政府や国際協力機構(JICA)と砂漠化対策の支援協力に取り組んでいます。またNGOや民間企業の乾燥地への技術援助や支援事業も行われています。

今年2月に東京で開催された「砂漠化と闘う」国際シンポジウムでは、環境省のモンゴルにおける遊牧民の気候変動への適応力向上への取り組みや、JICAのセネガルでの土地の回復と有効利用促進プロジェクト、また、東レとミツカワが各社の技術を活かして共同開発した緑化システムなどが紹介されました。

鳥取大学乾燥地研究センターをはじめとした、砂漠化や干ばつなどの乾燥地の諸問題に取り組む研究機関と途上国の研究機関との共同研究も行われています。

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食糧自給率(カロリーベース)が39%の日本において、輸入に頼る食料供給の不安定化は食料価格の変動や物資不足など深刻な影響を受けかねません。そういった意味でも、砂漠化と土地劣化の影響について私たちは傍観することはできないのです。国外でどう土地が管理されているかは国内での生活と深く関わってくるのですから。

国連砂漠化対処条約(UNCCD)は持続可能な開発のための2030アジェンダと土地劣化問題を繋ぐ唯一の国際条約です。196条約加盟国(EUを含む)は健全な土地の保全を促進し「土地劣化の中立性」を目指すことによって2030アジェンダの達成を目指しています。

条約は食料、水、エネルギーのもととなる土地を干ばつや劣化から守ることにより、気候変動の影響や自然資源を巡る紛争を減らし、現在から未来へ向けて人々がそれぞれの国で活気にあふれるコミュニティーを築くことができるようになることを目指しています。

さて、砂漠化が少し身近に感じられるようになりましたでしょうか。少なくとも、「砂漠化問題が実は砂漠のことではない」ことを覚えていていただければ幸いです。そして、今日食べた野菜や肉の生産地に、それを育む土に、思いを馳せてみてください。私たちの日常はいろいろな世界の土地やその土地に住む人々の暮らしと関わっているのです。

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