この人に聞く:危機の時代に「軍縮の大切さ」を強調する、中満泉(なかみつ・いずみ)軍縮担当上級代表

私は、国連での仕事を通じて全世界に被爆者の言葉を広げるとともに、国際社会から拾い上げた声を日本に持ち帰るメッセンジャーとなることができます。

2017年7月6日 - 中満泉氏は、世界が紛争防止に投資する必要性が最も高まっている時期に、軍縮問題に関する国連の最高責任者に就任しました。

国際の安全をめぐる環境が悪化している時代に、軍縮を語ることは的外れではないかという議論も見られます。

「私たちはこの主張に反論します」新たに軍縮担当上級代表に任命された中満氏は、国連 News にこのように答え、安全保障問題をめぐる緊張が高まる時代だからこそ「軍縮が大切」であることを強調しました。

中満氏は「軍縮には、危機下で大惨事を予防するという意味があります。緊張を緩め、対話の余地を作り、信用と信頼を構築することに役立つからです」と語っています。

"軍縮には、危機下で大惨事を予防するという意味があります"

中満氏はまた、核軍縮が重要な段階を迎える中で任命されました。国連加盟国は、核兵器禁止に関する条約の交渉を進めていますが、この交渉は7月7日に妥結する予定です。

しかし、これまでのところ、米国とロシアをはじめとする核保有国のほか、日本を含むその同盟国の多くも、この交渉に参加していません。朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)も、話し合いに加わっていません。

中満氏は「最終的に、これらの国も参加できるような条約の成立を望んでいます」と語り、また、「すべての国々に門戸を開放するとともに、この包摂性を条約に盛り込まねばなりません」と強調しました。

中満上級代表は、ジュネーブ軍縮会議の膠着状態、就任後100日に向けた抱負、そして国連の幹部職を目指す女性に向けた助言についても語りました。

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UN News:事務総長は紛争予防を最優先課題のひとつにしています。軍縮問題はこれとどのような関係があるのですか

中満泉:軍縮には、危機下で大惨事を予防するという意味があります。私たちが行う軍縮の交渉や議論はすべて、予防という文脈に組み込む必要があります。私たちの活動には、極めて大きな予防効果があります。

軍縮は、紛争の政治的解決の一環でもあります。緊張を緩め、対話の余地を作り、信用と信頼を構築することに役立つからです。国際の安全をめぐる環境が悪化したり、紛争が増大したりしている時代に、軍縮について話し合うことは的外れだという主張がありますが、私たちはこれに反論します。

むしろ、安全保障をめぐる状況が困難を極めているからこそ、私たちは軍縮について語らねばならないのです。軍縮には紛争を予防し、信頼を構築する効果があります。どのような紛争についても、軍縮は政治的解決策の一部としなければなりません。

UN News:軍縮は政治色の濃い問題です。これにどのように取り組むつもりですか。

中満泉:はい。政治的に慎重を要する困難な課題であることは間違いありません。しかし、私たち国連が行う活動はいつも困難で、政治的にもデリケートです。

私たちには、政治的立場を異にする加盟国間の橋渡しを行い、技術的、実質的なレベルで適切な助言を提供し、こうした政治色の濃い問題について話し合っている加盟国が、自力で解決策と妥協点を見出せるようにするという役割が期待されています。

政治的な困難は私たちの仕事に付き物です。付け加えさせていただければ、この仕事の面白さもそこにあります。

UN News:国連では、法的拘束力のある核兵器禁止条約の交渉を行う会議が進められています。どのような成果が期待できますか。核保有国とその多くの同盟国や、DPRK などの国は、交渉に参加していません。こうした国々が話合いに加わっていないことで、成果が骨抜きになってしまうことはありませんか。

"核保有国とそのいくつかの同盟国は、現時点で交渉に参加できませんが、最終的に、これらの国も参加できるような条約の成立が望まれます"

中満泉:国連総会は、加盟国に条約交渉のマンデートを与える決議を採択しました。この交渉は継続中なので、最終的に成立する条約がどのようなものになるかは、まだ分かりません。加盟国は7月7日の期限までに交渉を妥結すべく、懸命な取り組みを続けています。

多くの国が交渉への不参加を決定したのは事実です。個々の加盟国には、どの交渉に参加するかを決定する権利があるため、私たちがそれについて口を差し挟むことはできません。しかし、事務局は交渉に参加する加盟国に対し、核軍縮という目標を達成したいのなら、将来的な包摂性を備えた条約を締結せねばならないという助言を行っています。

核保有国とそのいくつかの同盟国は、現時点で交渉に参加できませんが、最終的に、これらの国も参加できるような条約の成立が望まれます。すべての国々に門戸を開放するとともに、この包摂性を条約に盛り込まねばなりません。私は、交渉当事国が不参加国により表明された懸念に配慮することを期待しています。

UN News:ジュネーブ軍縮会議(CD)は1996年以来、具体的な結果を出せていません。この膠着状態をどのように打開できるとお考えですか。

中満泉:軍縮会議では過去20数年間、膠着状態が続いています。私は最近、ジュネーブを訪れた際、会議に参加する加盟国の多くが、実質的成果を上げられていないことに対する苛立ちを共有していることを感じました。何とかしなければ、という気持ちが共有された結果、今後の道のりに関する作業部会も設置されています。

加盟国は、ともに知恵を出し合うプロセスに着手し、今後の進め方に関するオプションを模索し初めています。私は関係加盟国に対し、型にはまらない発想で創造性と革新性を発揮し、妥協点を見出すよう助言しています。加盟国は依然としてCDを重要な手段と考えています。私は加盟国による取り組みを徹底的に支援していきます。

UN News:軍縮は核軍縮に限られた問題ではありません。国連軍縮室(UNODA)がその他、どのような活動を行っているか、簡単に説明していただけますか。

中満泉:核軍縮は引き続き重要です。現時点で核兵器禁止条約が交渉中であるほか、2020年の核兵器不拡散条約(NPT)締約国再検討会議に向けた準備プロセスも始まっているからです。私たちは核軍縮問題全般について、重要な段階を迎えています。

"現在、犠牲者の大多数は小型武器や軽兵器をはじめとする通常兵器で殺害されています"

しかし、化学兵器の分野にも、極めて深刻な優先課題があります。シリアでの化学兵器の使用は、UNODAだけでなく、安全保障理事会と国際社会にとっても優先課題のひとつです。きわめて強力かつ包括的な化学兵器禁止条約はあるものの、残念なことに、化学兵器の使用はもはやタブー視されなくなってきています。

私たちは、この規範の回復を確保し、いかなる化学兵器の使用も認めないことはもとより、これに対する違反があった場合、実行犯の責任を問わなければなりません。私たちには、生物兵器禁止条約や、多種多様な軍縮条約もあります。私たちは、これら条約の適切な実施と機能を確保する必要があります。私たちはいくつかの点に関し、資金的問題も抱えています。よって、財政の健全性も回復しなければなりません。

通常兵器と軽兵器は、私たちが現地での実質的なインパクトをさらに実証できる分野です。現在、犠牲者の大多数は小型武器や軽兵器をはじめとする通常兵器で殺害されています。このことははっきりと強調しなければなりません。国連が平和活動などで展開している作業と直接の関連性があるからです。私たちは各国政府との協力により、暴発や弾薬の流用を防ぐために弾薬備蓄の安全と安心を高める方法を含め、この分野での能力構築を支援しています。

私が大きな関心を抱いているのは、事務総長が「フロンティア問題」と呼び、注力している分野です。その中には、サイバーセキュリティや人工知能も含まれています。サイバー攻撃は頻繁に発生するようになりました。

私たちは、科学技術の急速な進歩と密接に関係するこうした新たな問題を、加盟国の最優先課題とする必要があります。各国は現在、専門家レベルでこうした懸念に取り組んではいますが、この分野での私たちの活動をさらに加速、本格化せねばなりません。

このように、軍縮には多くの次元があります。軍縮教育における私たちの取り組みのいくつかを通じ、一般市民、特に若者が、非常に複雑で多面的な軍縮課題の構成要素に対する包括的な理解を得られることを期待しています。

UN News:現在のポストに就任されたのは5月ですが、就任後最初の100日間と任期全体を通じ、何を達成したいとお考えですか。

中満泉:私は軍縮の初心者です。ですから、最初の100日間は、まず軍縮問題の完全な理解に努めたいと思っています。この問題は極めて複雑で、技術的にも細かい点が多いからです。私はすでに、この問題の政治的側面について理解し始めていますが、100日以内に、こうした技術的な詳細についても理解し、軍縮の全分野をさらによく把握したいと思っています。

次に、任期全体を通しての抱負ということですが、私は控え目なほうなので、中長期的な抱負を気の利いた言葉で飾ることはできません。でも、2つ言えることがあります。現在、国際の安全を取り巻く環境には極めて厳しいものがありますが、私は国連のほとんどの加盟国の間で、政治的な理解を達成したいと切に望んでいます。軍縮は難しいからこそ、大切だということを。

第2に、加盟国のレベルで政治的意志を作り上げたいと思っています。21世紀の軍縮に関する国際社会のビジョンのようなものです。サイバー(セキュリティ)や人工知能など、新たな問題もあります。軍縮は実際、国連の最も古くからあるマンデートのひとつで、その歴史は国連創設時にまでさかのぼります。私たちは国連の中で独特な位置を占めているのです。

しかし、私たちが軍縮を21世紀の問題として捉え直し、国際社会が取り組まねばならない新たな問題や、より安全で安心な世界をつくるために、私たちが知恵を出し合って検討しなければならない優先課題とその順序を把握できれば、これほど素晴らしいことはないでしょう。軍縮とはまさに、世界をより安全、安心な場所にすることに他ならないのですから。

動画:新任の中満泉・国連軍縮担当上級代表は、21世紀の軍縮が直面する新たな課題を指摘しつつ、これに取り組む各国による政治的意志の強化を求めた。

UN News:事務総長は、事務局の幹部ポストでジェンダーの平等実現を約束しています。女性が国連軍縮部を率いることに、どのような意義がありますか。

中満泉:国連の軍縮最高責任者に女性が就任するのは、私で2人目になります。私自身、それについて実際に考えたことはありません。どの専門分野でも、男性と女性のどちらがリーダーになるかで、大きな違いが出るとは思っていません。大事なことは、男性であれ女性であれ、最も有能な人間がその職に就くべきだということです。それこそが、伝えるべきメッセージです。

UN News:女性が軍縮にどのような力を及ぼせるか、少しお話しいただけますか。

中満泉:私は一般論を語らないようにしています。私がフィールドで活動していた時には、女性の狙撃兵もいました。女性がすべて平和主義者だとは言えません。それでも、女性の穏やかな口調や柔らかい物腰は、緊張が高まっている時に大きな違いをもたらすことがあります。

私はこうした状況でいつも、最も話しにくい人々と話し合うことができています。ひとつには私が女性であることが理由だと思います。私が政府や現地、さらには検問所での交渉に臨む際、司令官たちは女性が交渉の場に現れるとは思っていませんでした。

軍縮を含む平和と安全の分野は、依然として男性が支配する傾向にあります。これまで軍出身の関係者が多かったからです。しかし、この状況は変化しつつあります。私たち国連は、政治的な活動をしています。ですから、平和と安全の分野に関心のある女性にとって、門戸は大きく開かれているのです。

UN News:国連の幹部を目指す女性に、何かアドバイスをいただけますか。

中満泉:一生懸命に仕事をしてください。頑張って成果を上げ、組織の中には、自分の仕事を見て、評価してくれる人がいつもいるという信頼感を持ってください。仕事でどのように自分の力を発揮できるか、そのことを考えるようにしましょう。

UN News:平和維持活動局(DPKO)国連開発計画(UNDP)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など、国連システムの各所でのこれまでの経験は、現在のポストにどのように生かされていますか。

中満泉:さまざまな点で役に立っています。これだけ多くの分野を経験できたことを、幸せに思います。何よりも、私が国連システム全体で作り上げた人脈が役立っています。どこに行っても、知っている人がいるのが普通です。何かをしたり、難しい案件を動かしたりする必要がある場合、いつでも電話をかけて、助言をもらえる人がいるのは助かります。

しかし、もっと本質的なこととして、さまざまな分野で何年も経験を積んだことで、私は紛争、平和と安全、人道問題と開発の間にある密接な連関と、こうした要素をさらに包括的に判断して、解決策を見出すことがいかに必要かについて、深く理解できるようになりました。国連システムでも、その他の組織でも、縦割りの弊害は弱点としてしばしば指摘されることのひとつです。

UN News:世界で唯一、核攻撃の受けた日本の国民として、軍縮を進めるためにできることはありますか。

中満泉:原爆の被害を受けた被爆者の方々は、勇気を持ってそれぞれのストーリーと経験を共有しています。このことが、国際平和運動や全世界の市民社会で大きな影響力を持つ多くの人々を現実に動かしました。

そして、核軍縮交渉を存続させただけでなく、これに新たな勢いを与えました。私は、核軍縮について語るとき、いつも被爆者の勇敢な、絶え間ない努力について触れるようにしています。私は、国連での仕事を通じて全世界に被爆者の言葉を広げるとともに、国際社会から拾い上げた声を日本に持ち帰るメッセンジャーとなることができます。

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