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シリーズ「南スーダンからアフリカ開発会議 (TICAD VI) を考える」 (12・最終回)

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2016年8月27~28日、ケニアで第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催されます。

初めてアフリカで開催されるTICADに向けて、国連広報センターでは日本の自衛隊が国連PKOに参加し、また多くの日本人国連職員が活動する南スーダンを事例にして、様々なアクターの皆さんに、それぞれの立場からTICADで議題となる課題について考えていただくという特集をシリーズでお届けします。

シリーズ最終回は、WFP国連世界食糧計画(国連WFP)南スーダン事務所で2012年から政府連携担当官及びプログラム・オフィサーとして勤務している橋本のぞみさんです。南スーダンは独立直後の国家建設の時期を経て、内戦の勃発、和平合意と暫定政府の樹立、さらには紛争の再燃と経済危機と、情勢が激動しています。

そのような中、橋本さんが所属する国連WFPは、人々の命と健康を守るために、無条件で食糧を提供する緊急支援と並んで、支援に頼らずに自活していけるようにするための自立支援とを、状況に応じて柔軟に調整することで使い分け、南スーダンにおける支援を継続してきました。

第12回 WFP国連世界食糧計画(国連WFP)南スーダン事務所 橋本のぞみさん

飢餓のない南スーダンを目指して〜紛争を乗り越え自立へ〜

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写真:活動現場出張中の筆者。自立支援プロジェクトの参加者及び同僚と(2016年7月)Photo: WFP

橋本 のぞみ(はしもと のぞみ)

WFP国連世界食糧計画(国連WFP) 南スーダン事務所 政府連携担当官

東京大学教養学部教養学科卒業後、中国留学を経て中国及び日本にて民間企業勤務。2006年、米国コロンビア大学国際行政学院で国際学修士取得。在ウガンダ日本国大使館で北部ウガンダ復興及びインフラ整備支援に携わった後、2009年より国連WFPに勤務。ウガンダ事務所で政府連携担当官及びプログラム・オフィサーとして勤務した後、2012年1月より、南スーダン事務所勤務

2012年1月、私は独立後の興奮さめやらぬ南スーダンに赴任しました。新国家建設に立ち会うという機会を得て、私自身もわくわくと南スーダンへ向かったものです。それから約4年半、独立直後の国家建設の時期を経て、内戦の勃発、和平合意と暫定政府の樹立、さらには紛争の再燃と経済危機と、国の状況は刻々と変化し続け、まるでジェットコースターに乗っているかのようでした。

私が勤務するWFP国連世界食糧計画(国連WFP)は、飢餓のない世界を目指して食糧支援を行う国連機関ですが、この間、変りゆく情勢に応じていかに最適な支援を実施するかということに腐心してきたように思います。

新国家の基盤作り


赴任当初の南スーダンにおいて、最大の課題は新国家の基盤作りでした。40年にわたる独立紛争の結果、南スーダンには社会基盤(インフラ)もこれといった産業もなく、食糧事情にしてみても農業が脆弱で自給自足がおぼつかない状況でした。

食糧不足には様々な原因があり、それに応じて最適な援助の形も変わります。紛争や自然災害の発生時には、人々の命と健康を守るため、無条件で食糧を提供する緊急食糧支援が必要です。独立紛争中の南スーダンにおいては、このような支援が主軸となっていました。

他方で、ある程度の生活基盤がありつつも慢性的に食糧が不足している場合には、支援に頼らずに自活していけるようにするための自立支援が必要です。この場合には、無条件に食糧を提供するのではなく、公共の役に立つ工事などに参加し肉体労働をすることを条件とし、その労働の対価として食糧を提供する形をとります。私が赴任した当初、国連WFPはまさに緊急人道支援から自立支援へと、大きく援助方法を転換しているところでした。

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自立支援プロジェクト。道路建設作業に参加する対価として食糧が提供される(2014年6月)Photo: WFP

2013年4月から、希望がかなって私はこの自立支援を担当していました。当時の南スーダンの農村においては、紛争こそ終わったものの、インフラは未整備で、自然災害が多発し、人々の技術や知識は不足しているという、極めて脆弱な状況でした。人々は、雨量の変動に対応できずに不作に襲われ、生活を向上させる学習機会も少なく、今日明日の食糧確保に奔走していたのです。

そこで、国連WFPの自立支援プロジェクトでは、農業の効率化、災害への対応力強化、そして地域の基礎インフラづくりなど、自活を助ける支援を行ってきました。例えば、洪水の多い地域には堤防、干ばつに襲われやすい地域にはため池を作ったり、果樹の植林や農地拡大のプロジェクトを実施したりし、働いた人には報酬代わりに食糧を配給しました。

こうすることで、人々は目先の食糧探しに奔走することなく、生活を改善する活動に専念できるわけです。

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自立支援プロジェクト。ため池の建設作業に参加する対価として食糧が配布される(2013年2月) Photo: WFP/Nozomi Hashimoto)

紛争下でも自立支援を継続


2013年12月、紛争が再燃した日も、私たちは翌年に向け、自立支援プロジェクトの準備に邁進していました。しかし、ジュバ市内では激しい戦闘が繰り広げられ、週の終わりには、私や自立支援に携わる同僚は国外へ一時的に退避することを余儀なくされました。

それから2年半。戦闘が起きた地域では、被災者の命を守ることが優先されたため、救命に直結しない自立支援は中止となり、緊急食糧支援に切り替えられました。紛争の影響を直接被っていない地域でも、不安定な情勢や職員の配置転換などの影響で、活動を予定通り行うことは難しくなりました。

しかし紛争の只中にあっても、可能な範囲で自立支援を継続することはきわめて重要です。緊急食糧支援は一時的には非常に有効な支援ですが、根本的に飢餓を解消するものではありません。それに対し、自立支援は今の食糧不足を補うだけでなく、自給自足に必要な基盤を作るものであり、南スーダンの未来につながります。そのため、国連WFPは、情勢に応じて緊急支援と自立支援を使い分け、実施計画を柔軟に調整することで自立支援を継続してきました。

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畑で作業する、自立支援プロジェクトの参加者 WFP/Nozomi Hashimoto

そのためには、様々な工夫がありました。例えば、全世界の国連WFP事務所から何十人もの職員を緊急招集し、人員不足に対応しました。安全管理の面でも、治安や紛争の状況に関して忍耐強い情報収集を行いました。また、各地で地方自治体や地域社会との協議をおこない、課題や地元の意見を確認しました。資金面では、日本を始めとする支援国が、紛争中にも自立支援への資金援助を続けてくれたおかげで、活動を継続することができました。

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地元の問題やプロジェクト参加者の要望などの聞き取り(2014年6月) Photo: German Agro Action

またしても紛争再燃、でも諦めない!


昨年から今年の初めに向けて、南スーダン情勢は好転しているように見えました。2015年8月には和平合意が調印され、2016年4月には暫定統一政府が成立、国際社会は早くも紛争後の復興に向けた協議を始めていました。

しかし、政治プロセスの前進の影で食糧問題は深刻化していました。内戦の影響で、唯一の国家収入だった原油の生産は落ち込み、世界的な原油安もあって政府の歳入は激減しました。収支バランスの悪化により南スーダンの通貨は暴落し、食糧を含めほとんどの物品を輸入に頼っている南スーダンでは、生活必需品の価格が高騰しました。

南スーダン政府統計局によると、現在南スーダンのインフレ率は600%を超え、不名誉にも世界一となっています。そんな中、高騰した食糧を買えない人々は、食糧を求めて近隣国へ難民となって流出しています。紛争が続き非常に厳しい人道状況におかれているスーダンのダルフールにさえ、今年に入って7万人もの南スーダン人が難民となって押し寄せているのです。

このような経済の崩壊による食糧危機は、2015年までの紛争や自然災害による局地的な危機と違って、南スーダン全国に甚大な影響を及ぼしています。事態を受け、国連WFPは今年、これまで自立支援を中心としてきた地域の一部で、緊急食糧支援を始めましたた。

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南スーダンの人々の命綱となっている食糧支援 UN Photo/JC McIlwaine

今年7月初旬には首都ジュバで武力衝突があり、さらに事態が悪化しました。商業・流通の中心であったジュバからの供給が絶えた地方都市で、品薄により更に物価が高騰したのです。これ以上の食糧難を防ぐために、国連WFPは大量の食糧を現地に空輸することにしました。ジュバでの戦闘を受け、私を含め数多くの国際職員は再度、近隣国への一時退避を余儀なくされましたが、最も必要な支援を届けるべく、不眠不休の努力を続けています。

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緊急食糧支援のため、食糧を空中から投下 UN Photo/Isaac Billy

南スーダンにおいては、この4年半、人道危機から早期復興、そして開発へと続く道のりがスムーズに進まず、一進一退を繰り返してきました。よく、「人道支援から復興・開発への継ぎ目のない支援」が大切だといわれますが、それを実現するには、状況を常に把握し、支援方法を変える柔軟性と対応力が必要だと感じています。

私たちの最終目標は、「将来国連WFPが南スーダンに必要でなくなること」、すなわち南スーダンの食糧問題が解消されることです。道のりはまだまだ遠いですが、この目標がいつか達成されることを信じて、支援を続けています。

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国連WFPの自立支援プロジェクトの一環として、脱穀作業を行う人々 Photo: WFP/Samson Teka