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シリーズ「南スーダンからアフリカ開発会議 (TICAD VI) を考える」 (8)

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2016年8月27~28日、ケニアで第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催されます。

初めてアフリカで開催されるTICADに向けて、国連広報センターでは日本の自衛隊が国連PKOに参加し、また多くの日本人国連職員が活動する南スーダンを事例にして、様々なアクターの皆さんに、それぞれの立場からTICADで議題となる課題について考えていただくという特集をシリーズでお届けします。

シリーズ第8回は、JICA南スーダン事務所の古川光明所長です。

長期の紛争を経て2011年に独立した南スーダンは、2013年12月に再び政治的理由から紛争に陥ったため、JICA南スーダン事務所の日本人関係者は一時同国から退避せざるをえませんでした。

しかしその間もJICAは日本や隣国ウガンダからの支援を試みたり、開発が比較的進んでいる周辺諸国の人材などを活用する「南南協力」を進めたりするなど、新たな形での開発支援を行いました。

古川所長は、これらの活動を通じてアフリカ開発会議(TICAD VI)で話し合われる平和構築のあり方にも貢献することを目指しています。(この寄稿は2016年7月の戦闘再発の前に執筆されたものです)

第8回 JICA南スーダン事務所 古川光明所長

~退避中も続けた支援で強まった両国の絆~

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古川 光明 (ふるかわ みつあき)

JICA南スーダン事務所所長

大阪府出身。法政大学経済学部卒業後、清水建設を経て、JICA(当時 国際協力事業団)入団。1997年米国デューク大学院公共政策学部修士、2014年一橋大学より博士号(社会学)。国際捜索救助諮問グループアジア太平洋地域の初代議長、タンザニア事務所次長、英国事務所長、JICA研究所上席研究員などを経て、2014年より現職

2016年7月9日で、独立から5年を迎える、世界で最も新しい国、南スーダン。独立以降、世界はその復興の歩みに注目していました。

しかし2013年12月に発生した政府与党内の派閥抗争が激化し、国内各地で暴力行為が深刻化しました。JICAは関係者を騒乱の直後に日本に一時退避させましたが、その間も現地に残る南スーダン人職員らと連絡を取り合いながら支援を継続しました。

首都ジュバのある南部は2015年1月に治安の改善が確認され、JICA関係者はジュバへの渡航と駐在を再開しました。その後、和平プロセスの交渉は難航し、ようやく2015年8月に和平合意がなされ、2016年4月、暫定政権が樹立しました。

南スーダンは40年以上と長期化した南北スーダン紛争により、ガバナンスや経済社会開発を含む全ての面が大きな影響を受けています。社会経済指標は極めて低く、国家歳入の98%を石油に依存しているため、紛争と世界的な石油価格の下落で財政赤字が急増しています。

また、6か国に隣接する内陸国で生活必需品の多くを輸入に依存しているにもかかわらず昨年末に急きょ為替の変動相場制に移行したため、物価の上昇も大きな課題となっています。

長年続く紛争の主な要因は、大統領ポストなどの政治的な権力争いと、農村部での伝統的紛争とも呼ぶべき、牛など家畜の争いに起因するものです。

南スーダンでは牛を婚資とするなど、伝統的に重要な資産として扱う一方、その略奪などを巡り部族間や村落間で殺し合いが頻発してきました。それが部族間の遺恨につながり、銃がまん延する中で政治的権力争いによる部族間抗争とも重なって紛争が助長されているのです。

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南スーダンでは伝統的に重要な資産である牛 UN Photo/Tim McKulka

退避後のJICA支援

JICAは、2013年12月の紛争発生後の退避期間中も、南スーダンへの支援を継続しました。

JICA南スーダン事務所はウガンダ事務所に執務拠点を移し、南スーダンに残った現地スタッフや南スーダン政府関係者と連絡を取り合いながら、日本国内での研修員受け入れや周辺国に南スーダン関係者を招いたセミナーや研修を行いました。

また、現地では南スーダン関係者が日本側の専門家からの遠隔指導アドバイスを受けながら活動を続けました。

具体的には、南スーダンテレビ・ラジオの組織能力強化プロジェクトで、ウガンダやケニアのテレビ局と連携し、研修を行うなど、通常業務では実現できなかった支援対象国外からの支援という、新たな形の南南協力を展開しました。

また、職業訓練支援フォローアップ事業として、南スーダン人インストラクターの技術向上に加え、ウガンダに定住している南スーダン難民に対する支援を目的とする事業を行いました。

南スーダン人の裁縫、木工、左官の3人の職業訓練インストラクターを2週間、JICAが支援してきたウガンダのナカワ職業訓練校に送り、業務を通じた教育(OJT)でスキルアップを目指してもらいました。

3人のインストラクターは、カンパラの北約200キロの所にあるキリヤンドンゴ難民居住区で主に南スーダン人難民を対象に木工、左官、ヘアードレッシング、裁縫など3か月間の職業訓練を実施しました。

この訓練により、卒業生98人のほとんどがウガンダで職に就くことができ、大きな成果を上げました。講師としてウガンダに派遣された1人は、子どものころにこの難民キャンプ過ごした経験があり、手に職を付けることで、故郷南スーダンに帰ることができたのです。

このように難民キャンプから自国に戻った人材が再びキャンプを訪れ今度は講師として支援する姿は、今もなお難民として生活している人たちに大きな勇気を与えました。 

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ウガンダのナカワ職業訓練校(JICA南スーダン事務所)

JICAは、これらの取り組みの事業成果をFacebookへの投稿、テレビドキュメンタリー作成、メディアへのプレスリリース発表、広報誌への寄稿などを通じて国内外に発信しました。

その結果、南スーダン政府高官から「JICAは我々を見捨てなかった(JICA never abandoned us)」の発言を得るなど、JICAの南スーダンにおける活動の認知度を向上させることにつながりました。

現在の支援

JICAは現在、様々な支援を展開しています。例えば、南スーダンを横断するナイル川に初めての恒久橋を架けるナイル架橋建設、ジュバ港の拡張工事、ジュバ給水施設建設、職業訓練支援、農業開発支援、テレビ・ラジオ支援、生活廃棄物支援などです。

今後も様々な支援を通じて、平和構築に向けた安定と国家建設支援を行っていきたいと考えています。そのためには、紛争などで疲弊している南スーダンの人々に目に見える成果を示すこと、人道援助から開発援助への切れ目のない展開を実施することが重要となります。

その理念の下、今後も重要幹線で地域を結ぶ「回廊インフラ」の整備や拠点都市インフラの整備、主に石油資源依存型経済からの脱却を目指すための農業の振興、それを支える職業訓練や教育支援などを展開していく必要があります。 

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建設中のナイル架橋(JICA南スーダン事務所)

南スーダンでの事業を行っていく上で、南スーダンの特殊性も考慮する必要があります。

一つ目は、政府と反政府、首都と地方、部族間などのバランスを考えた平和構築支援が必要であるということです。紛争で引き裂かれた国民間の信頼醸成と結束を向上させるため、スポーツを通じた平和構築も有効な手段だと思います。

南スーダンは昨年8月、国際オリピック委員会にオリンピック正式メンバーとして承認され、スポーツを通じた国民の結束や信頼醸成を高めるには絶好の機会となっています。

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開会式で入場行進する選手団 (JICA南スーダン事務所)

具体的な取り組みとして、たとえば、今年、1月16日、南スーダン独立後初となる全国スポーツ大会を文化・青年・スポーツ省とともに開催しました。

首都ジュバで開幕し、全国9都市から男女約350人の選手が参加。政府はこの日を「National Unity Day(結束の日)」と決め、大会テーマを「Peace and Unity(平和と結束)」としました。

国立競技場で行われた開会式には副大統領をはじめ大臣6人も出席し、盛大に行われました。開会式でスピーチを行った政府高官の一人は「今、われわれは平和と結束を最も必要としている」と述べるとともに、選手が南スーダンの国旗を手に入場行進した際には、涙する閣僚もいたほど、本大会は南スーダンにとっての悲願だったのです。

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開会式は政府高官が多数出席して行われた(JICA南スーダン事務所)

また、伝統的な紛争の大きな要因となっている牛への考え方や管理のあり方の変容をもたらすための、取り組みも重要であると考え、現在、そのための調査を実施しています。

2点目は、適正技術移転の観点からもJICAが支援する南南協力に適した国であるということです。

2011年に独立した新しい国ということもあり、南スーダン政府の行財政能力は極めて低く、ウガンダ、ケニア、エチオピアなど周辺諸国から行政能力強化のため行政官を受け入れています。JICAも、その視点を持ちながら事業を展開していきます。

3点目は、南スーダンは現在唯一日本が国連平和維持活動(PKO)施設部隊を派遣している国であるということです。

2015年に改定された開発協力大綱にも明記されたように、PKO施設部隊との事業連携も強化し、オールジャパンとして南スーダンへの協力を進めていきたいと考えています。

すでに、ジュバ港拡充支援の一環として自衛隊による防護柵の設置や、南スーダンテレビ(SSTV)・ラジオの組織能力強化プロジェクトに関連してSSTVの敷地で自衛隊施設部隊が側溝整備を行ったほか、職業訓練生の自衛隊による実地研修、大使館、JICA、自衛隊、ジュバ市によるクリーンアップキャンペーンの開催、道路の改修、ナイル架橋起工式での自衛隊による和太鼓と花笠踊りの披露など、多くの連携を行っており、今後もオールジャパンとして対南スーダン協力に取り組んでいきます。

また、これらの活動を通じ8月にナイロビで開催されるTICAD VIでの平和構築のあり方にも寄与できるようにしていきたいと考えています。

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道路の補修を行う自衛隊施設部隊(JICA南スーダン事務所)