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日本の国連加盟60周年記念シリーズ「国連を自分事に」(12)

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昨年日本は国連加盟60周年を迎えました。

国連と日本のあゆみにおいて、それぞれの立場から国連の理念につながる活動や努力を積み重ねている方々が大勢います。重要な節目となる今年、国連広報センターでは、バラエティーに富んだ分野から国連を自分事と考えて行動している方々をご紹介します。

第12回 国連宇宙空間平和利用委員会 科学技術小委員会議長の向井千秋さん

~国の枠を越えた、「UNITE」を実現する宇宙利用を目指して~

アジアで初の女性宇宙飛行士として2度の宇宙飛行を果たし、日本の宇宙開発分野に大きく貢献されてきた向井さん。2017年1月からは外務省の嘱託として国連宇宙空間平和利用委員会の科学技術小委員会議長に就任し、世界の宇宙活動の持続的で協調的な発展に関する多くの審議に取り組まれました。理系分野における女性の活躍への期待が社会に高まるなか、東京理科大学の副学長としての試みや、これまでのご自身のキャリアの築き方について、3月8日の国際女性の日を前に幅広く貴重なお話をお伺いすることができました。
(聞き手: 国連広報センター 根本かおる所長)

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向井 千秋(むかい ちあき)さん ©UN Vienna


【1952年群馬県館林市出身。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学博士号取得。慶應義塾大学医学部外科学教室医局員として病院での診療に携わる。85年、宇宙飛行士に選定された後、NASAジョンソン宇宙センターの宇宙生物医学研究室にて心臓血管生理学の研究に従事。1994年スペースシャトル・コロンビア号、1998年には同ディスカバリー号に搭乗し、日本人として初めての2度目の宇宙飛行を経験。仏国際宇宙大学修士コースの客員教授、JAXA宇宙医学研究センター長などを歴任した。2015年4月より東京理科大学の副学長に就任し、2017年1月からは国連宇宙空間平和利用委員会の科学技術小委員会議長を務める。】

根本:1月30日から2月10日まで、日本人として初めて、また女性の宇宙飛行士として初めてウィーンの国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS) 科学技術小委員会で議長を務められましたが、どんな感想をお持ちですか?

向井:任務が終わってホッとしています。科学技術小委員会の議長というとこれまで男の人ばかりでしたし、科学技術や宇宙というエリアに入ってくる女性は非常に少ないんですよね。

小委員会では、議長の私のことを「マダム・チェア」と言う呼び方をしてくださっていて、その「マダム・チェア」という音の響きでも、多くの人に科学技術小委員会のような場所で女性が議長をやっていると感じ取ってもらえたと思っています。ジェンダー平等の面でも貢献できていたらいいなと思いますね。

根本:国連宇宙部(UNOOSA)の部長も女性ですよね。

向井:そうですね、シモネッタ・ディ・ピッポさんも女性ですし、前任のマズラン・オスマンさんも女性でした。

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シモネッタ・ディ・ピッポ国連宇宙部長 ©UN Photo/ Runa A

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マズラン・オスマン元国連宇宙部長 ©UN NEWS CENTRE


根本:インタビュー前の打ち合わせで、向井さんと持続可能な開発目標(SDGs)の話で盛り上がりましたが、科学技術小委員会で議論されていることがどのようにSDGsの課題につながっているのでしょうか?

向井:小委員会では、各国の宇宙活動のステータス、デブリ(宇宙ゴミ)の問題を含む持続可能な宇宙空間の利用方法、あるいは人工衛星を用いて地球環境をどう守るかなど、テーマごとの議題がたくさんあります。

SDGsにどうやって貢献していくかという点については、縦割りのテーマというよりは横軸で通しての捉え方になります。2018年に開催されるUNISPACE+50(宇宙空間の探査と平和利用に関する国連会議50周年記念会合)では、国連に対し宇宙がどういう役割を果たすか、というテーマが7つあり、そのそれぞれのテーマが実際にどうSDGsに貢献していくのか、を議論しようとしています。


宇宙こそが"UNITE"を体現する場

根本:先ほど、ホッとしているというのが率直な感想だということでしたけれども、議長を務められて、何が大変で、何が醍醐味でしたか?

向井:一つはリソースの配分がポイントですね。国連で6ヶ国語に通訳するので6ヶ国分のリソースが必要になるんですよね。だから会議時間内に決められたアジェンダを全部こなしていく、特に最後のアドプション(採択)の場面では、どのくらい議論が出て来るかわかりませんから、時間配分・調整については気を遣いました。

二つ目は、皆さんがプレゼンテーションをされるので、時間がないとはいえ十分に皆さんが言いたいことを言える環境を作らないといけません。開発途上国の人でも先進諸国の人でも自由に意見を言える雰囲気を作っていくということが難しいし、醍醐味だと思いました。

もし私がもう1回議長をやることになったとしたら、UNOOSAや国連の自体の枠組みのなかでもっと宇宙について取り組めたらなと思います。

なぜかというと、今の一番の悩みが、宇宙に限ったことではなく、国連も"UNITED"というように、みんなでUNITEしようよ、という意味で戦後に作られた体制が変化しようとしていることです。

ヨーロッパも、それぞれの国が"UNITE"してヨーロッパ連合(EU)を作り結束する方向だったのが、今やブレクジットでイギリスがEUを離れようとし、アメリカではトランプさんが「アメリカ・ファースト」を唱えていて、"UNITE"ではなくて孤立の方向に振り子がふれているように感じます。

国連の議論においても私が期待をしているのは国の枠を超えた人類としての観点での議論ですが、どうしてもその前段階で各国の国益がぶつかりあっていると思うんですね。でも宇宙というのは1967年に宇宙条約が締結し、宇宙は海や空みたいに国の領域はなく、どの国にも属さないと定義されています。

つまり宇宙のリソースはみんなが共有する場所なのです。だから本当の意味で各国が"UNITE"して、違いから学びあって、同じであることを慈しんで、そして国連の本当の意味でのスピリットを出せるのは、宇宙なんじゃないかと思うんですよね。

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科学技術小委員会議長を務められる向井さん (シモネッタ・ディ・ピッポさんTwitterより)


根本:宇宙からみた地球の写真をみると、謙虚な気持ちになれるのは何故だろうと思っていたのですが、なんだか腑に落ちました。

向井:もちろん自分の国や街、家族を良くしていくために取り組むことは、していかなければならないことですが、まずは一度問題解決をするときに、国や、自分が所属している組織などの枠の一つ大きい垣根で物事を考えてみると、今まで壁に当たって考えつかなかったものが考えられるのではないかなと思います。

根本:宇宙では多国籍のチームと協力し、また閉鎖された空間のなかで長期間チームとして活動されていたかと思いますが、その時の躍動感やチームスピリットというのは、今の世界の宇宙開発の議論に参画されているなかで活きていますか?

向井:まず宇宙はなぜ一つでまとまれるか、というと、共通の目的を持っているからです。みんなで取り組まないと事故や問題が起きたら生存できない、あるいは自分がやろうと思っていたミッションがあるとしても、1人でやれることには限界があって宇宙飛行士だけでなくて地上のチームとみんなで連携しないと仕事ができないんですね。だから連携することが当たり前だと思っています。

同じ意見の人とチームを作れば楽かもしれないけど、ダイバーシティがあるなかで各々がリーダーシップと共通の目的を持つことで、初めて強いチームが出来ます。ダイバーシティはウエルカム、違う意見もウエルカム。そうでないと、どんなに出来る人でも自分の見落としている部分や、新たな発想は見えてこないからね。

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1998年 軌道上にて、スペースシャトル・ディスカバリー号のクルーたちと共に ©JAXA/NASA



"初"であること

根本:向井さんは、本当に色々と「初」という冠のつく肩書きが多いですね。どうやって未知の分野、誰もやったことがない立場を色々と切り開いていくことが出来たのでしょうか。怖くないですか?

向井:怖いっていうより、どっちかというと面白いです。人間って知らないものを見たら、ドアを開けてみてみたい、聞いてみたい、食べたことないものを食べてみたい、って誰でもあると思うんですね。私はそこが自分のちょっと悪いとこでもあって、面白そうって言っているうちに、どんどん仕事の数が増えちゃって(笑)。

最近は年を取ってきて、昔みたいに3日で出来ると思ったものが出来なくなったりしてるから、あんまり引き受けすぎてしまうと皆さんに迷惑がかかるので、調整をするようにはしています。ですが、本来は話を聞くと、「何それ、おもしろそう、私知らない、教えて教えて」ってなります。

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インタビュー中の向井さん ©UNIC Tokyo


根本:子どもの頃から好奇心の塊だったんですね。宇宙飛行士分野では「アジアで初の女性飛行士」、今回の小委員会の議長は「日本人として初」ですよね。そういうところで、背負ってしまう部分や身構えてしまう部分はありませんでしたか?

向井:そういう"初"というのってグループ分けを小さくするから初になるだけであって。「向井さんは女性初の宇宙飛行士ですよね」って言われると、「うん、まあそうなんですけど、群馬県館林初の飛行士ですから」っていうんです。私だって、ガガーリンみたいな、まだ、本当にそういう空間で人が生きられるかも分からないところに挑戦していった人類初の取り組みはすごいと思います。

でもその後の、新聞見出しになるために、グループ分けを小さくして"初"になっても、誰だって何だって"初"なんて作れるよ、って思ってしまいますね。もちろん、それによって地元の人が喜んでくれたりするのはとても嬉しいです。でもだからといって、私が初だから、ということで背負い込んだりすることはないですね。

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1994年 スペースシャトル・コロンビア号搭乗クルーとなった向井さん ©JAXA/NASA



理系専攻を仕事につなげる流れを作りたい

根本:ウイーンでは、科学における女性・女児の国際デーに向けたパネルディスカッションで登壇なさっていましたね。まだまだ科学分野、理系、STEM分野での女性の割合が少ないですが、どうすればもっと女性がこの分野で活躍できるようになるでしょうか?

向井:まずは母集団が少ない。この分野に女性をいれる努力は今まで沢山の人がされてきて、中学生や高校生が理科に触れ合う機会は増えていますし、理科が好きな女の子もいっぱいいるんです。でもそれだけでは不十分で、今私が副学長を務める東京理科大でやろうとしていることは、流れを作る、つまり東京理科大にきて勉強したり、理系を面白いって思ったことを仕事につなげていく出口をつくることです。

研究職や企業勤め、教員など、もっともっと出口がたくさんあるようにしていかないと、入り口だけ増やしても意味がないと思います。

また、理科系を勉強して将来マネジメントをしてもいいわけですよ。理科系にはいると、学部の縦の繋がりのなかでのみ自分の将来を考えがちですが、そうではなくて、学んだことを使って違う分野に、私が医学を学んで宇宙に飛び出したように、違う分野に飛び出していってもいいと思います。

自分の将来を広げていくような考え方を学生たちが持つようになれば、元々理科が好きな人たちが理科系に進むことが増えるんじゃないのかな、と思いますね。

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「女性の宇宙(Space for Women)」の会議に参加する向井さん ©UNOOSA


向井:私は幸か不幸か子どもがいないので、24時間を自分のために使ってきましたが、やはり男の人もふくめて、自分がやりたいと思ったキャリアをバランスをとりながらやっていけるような環境を作らないといけないと思いますね。

今はITも進んでいて、必ずしも仕事場にいかなくても、仕事が出来ますし、自分の努力だけではなくて、社会で子育てや介護をする、社会の努力で出来るようになる仕組みをつくらないといけないと思います。


自分の体験から共感を見つけて

根本:向井さんは現在、東京理科大学の副学長として、国際化の推進という大きなテーマにも携わっておられます。最近の若者は内向き思考であるとよく言われますが、彼らが世界に足を踏み出すにあたってどのようなメッセージを送りたいと思っていらっしゃいますか?

向井:やはり、世界中の人たちはどこに住んでいようと、どの言葉を話していようと、結局人としては同じだと心に留めておくことです。例えば、母親が子どもを心配する気持ちだとか、自分が恋した人を愛する気持ちなどは、日本人であれどこの国の人であれ同じです。また、自分が大事にしていた人やモノをなくすこと、それは交通事故で亡くすにしても戦禍の下で亡くすにしても、その時に流れる涙も同じです。

そのように考えると、例えばテレビの映像で爆弾を踏んで足がなくなってしまった子どもを見た際に、自分の子どもに置き換えて考えてみると、やはり涙は流れるだろうし、理不尽な悔しさも生まれます。また、自分が好きな食べ物を美味しいと思うのと同じように、相手も同じものを食べて美味しいと思ってくれるんだと気づいたりすると、相手の国が好きになってみたり、とどのつまり皆同じ人間なんだと思うことができます。

そのようにして私たちが共感し合えること。それが本当の意味での国際化なのかなと思います。

根本:必ずしも国際化とは世界に行くことではなく、やはり普遍的なメッセージを読み取って、共感し、痛みがわかるところが基本なんですね。

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対談中の根本かおる所長 ©UNIC Tokyo


向井:その共感に至るために、やはりコミュニケーション手段として英語ができたほうが良いし、社会についても勉強していたほうが良いと思いますが、それらはツールだと思うんです。

けれど、そのツールだけを教えても、こういうことをやってはいけないとか、こういうことをやらなければならないとか、自分の中から湧き上がってくる感情が大元にないと、ツール自体を使えないですからね。だから、自分の体験の中から勉強するということが大事なんじゃないのかな。


自分のプライオリティを選んでいく

国連広報センター インターン岡嵜:
これまで向井さんがご自身のキャリアを選ぶ上で、数多くの選択肢の中からどのように歩む道を選んできたのですか?

向井:やはりそれは自分の中のプライオリティじゃないでしょうか。人間って1日24時間しか時間がないし、自分も必ず死ぬということを考えると、いくらお金を持っていたって偉くたってみんな平等です。だからその人生をどのように使うか?

私の場合、人生が終わるときに、もう一度生まれ変わってもこの人生をやりたいって思えるような人生が一番良いものだと思っています。

私は小さい頃からオペラ歌手になろうと思ったり、スキーのオリンピック選手やパン屋さんになりたかったりと夢がたくさんある好奇心旺盛な子どもでした。でも、脚の不自由な弟と一緒に過ごすなかで、苦しんでいる人たちを助けたいという気持ちが常にあったため、数多くのやりたいことがある中でも、一番強かった夢は医者になることでした。

そうやってプライオリティを選択していく上で大事な事は、自分でそれを選ぶ事です。自分で選ぶと後悔しないですから。お父さんとか、お母さんとか誰かが選ぶと、辛い時に文句が言いたくなって、逃げ道を作っちゃうんですね。

辛い時って自分の選んだ道でもいくらでもあるし、好きでやってる仕事だって辛いことはたくさんあるけれど、自分で選んだからしょうがない、って自分を納得させて考えることができますから。


『女性だから』と言い訳をしない

国連広報センター インターン城口:これまでのキャリアにおいては、今ほど女性の活躍が推進されていた時代でもなく、悔しい思いをされたこともあったかと思いますが、どのような思いでご自身の道を突き進まれてきたのでしょうか。

向井:私は仕事に関して、例えば失敗した時などに、その理由を女だからとか男だからとか、そういう言葉で考えないようにしてきました。日本人だから失敗したの?アメリカ人だったら成功してたの?というふうに考えると、別にどの国の人であっても自分が成功するかしないかだけなんです。

女だから失敗した、というように性別によって自分を納得させるのではなく、男であれ女であれ日本人であれアメリカ人であれと考えて、逃げられない状況を作ったほうが良いです。自分の能力が達していなかったからこの仕事が失敗したんだって思うようにね。

私はそういう風にやってきていて、同じように他の人のことも評価しています。実際は、『〇〇だから』って、多くの人が自分で垣根を作っちゃっているけれど、仕事が良い悪いというのは、その人ができる能力なり環境にあるかであって、女性とか男性とかじゃないと思うんですよね。

根本:3月8日の国際女性の日に向けて、女性のロールモデルとして活躍されてきた向井さんからエネルギーが欲しいという女性たちに一言メッセージをいただけますか。

向井:いや、女性はみんなエネルギーあります!(笑)だから、自分が今やっていることで本当に良いと思うことを、仲間を作って進めていくことですかね。やっぱり1人じゃできないこともあるから、自分に追い風を吹かしてくれるような同志を見つけること。私は女性は一般的にはかなりエネルギーがあると思うけど!

あと、女性はやろうと思ったならば見栄も外聞もなく、ばんっと実行できるような勢いもあります。お互いがwin-winの関係になるような解決策を見つけ出すことも得意だと思うし、そのような強みのある分野に女性がたくさん入っていくことも良いと思いますね。

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インタビュー後の記念撮影。向井さんと根本かおる所長(左)©UNIC Tokyo

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