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教育水準が高いシンガポール地元校を日本人は選ばない

2014年03月28日 21時11分 JST | 更新 2014年05月27日 18時12分 JST

教育目的でのシンガポール移住:ジム・ロジャーズ氏



最近のシンガポール界隈で「シンガポール進出や移住は節税目的でなく子供の教育目的だ」という"珍説"を唱える人も出てくるなど、一部でシンガポール教育が強引に脚光を浴びることがあります。(なぜ"珍説"かと言うと、大企業進出が終わっているシンガポールに今頃進出する企業は、国内売上中心のガラパゴス企業。それがシンガポールに現地法人を作ったり本社を移すだけでは、売上が日本にある以上日本の税制影響が強く、節税困難。節税で目立った効果が無い以上、移住目的が節税には最初から成らない)

シンガポールへの教育目的移住で最も有名なのは投資家ジム・ロジャーズ氏。2007年に家族とともにニューヨークからシンガポールに移住。理由は娘が中国語を習得し、アジア文化への理解を深められるように。ニューヨーク時代から中国人ベビーシッターを雇い、中国語で話しかけてバイリンガルに育てています。移住地を中国にしなかったのは、公害がひどいことが理由。娘の進学先は、インターナショナルスクールでなく、地元校(ローカル校)のナンヤン・プライマリー・スクールです。地元校の中では名門校ですが、それでもクラスで唯一のアメリカ人です。

「1807年にロンドンに移住することはbrilliant(素晴らしい、明晰なこと)だった、1907年に米国に移住することはbrilliantだった、そして2007年にアジアに移住することが次のbrilliantだろう。」とジム・ロジャーズ氏は言っています

AsiaX: トップインタビュー: ジム・ロジャーズ

プレジデントオンライン: シンガポールで密着――ジム・ロジャーズの24時間


滅多にいないシンガポール地元校を選ぶ日本人/欧米人

ところが、です。「やっぱりそういう時代よねぇ、シンガポールやロジャーズ氏はすごいよね」「地元校だとうまくいったら、日本語・英語・中国語のトリリンガル?!」と口で言う人は割りと多いですが、ジム・ロジャーズ氏の後に続いて地元校に進学する日本人/欧米人家族は少数派です。大半は日本人学校かインターナショナル校を選びます。地元校を選ぶのは、日本人や欧米人でもシンガポール人と結婚した家庭が大半です。その理由を4つ紹介します。

1. 学校を選べない

欧米人の最大の理由がこれでしょう。

シンガポールの学校は学区制ではありません。つまり住所と学校が1対1に対応していません。小学校の時点から国内の全学校に選抜を経て進学可能です。なので小学校の時点で地元校の中にもロジャース氏の娘が入学するような有名校があり、そこに入れるために教育熱心なシンガポール人の親は死に物狂いです。

小学校入学時のため、入学選考には学力以外の要素が使われます。選考がフェーズごとに行われ、国民と永住者が優先して選択し、それでも空きがある最後のフェーズで初めて外国人が申し込むことができます。

つまり、外国人は、国民と永住者が選び終わって、それでも定員を充足していない学校にしか入学できません。また、小学校入学後にシンガポール赴任などで移住し、小学校一年以降に申込では、定員に空きがある学校にしか申し込めません。

小学校一年入学以前にシンガポールに居住し永住権を保持しておかないと、学校選択の余地が格段に落ちます

今のシンガポールでの永住権取得は、居住開始から永住権取得まで5年超かかるのが一般的になってきています。駐在員や現地採用者では赴任してすぐに永住権取得は困難で、学校選択に制約がでます。GIPという40億円以上の年間売上企業を持つ富裕層起業家が2億円をシンガポールに投資するスキームや、シンガポール人との結婚による配偶者スキームでは、移住前後での永住権取得も可能ですが、利用できる人は限定されています。

2. 英語力不足、学力不足

日本人が地元校を選ばない最大の理由が英語力不足です。

シンガポールの公用語の一つは英語です。地元校の授業は原則英語で行われます。授業が英語なので、英語が不得手な日本人生徒は学力も劣ることになります。英語補修のESLがあるインター校はありますが、地元校にはありません。日本人の転入では、入学前の学力診断で、「学年を落としてくれ」と言われるのがザラなので、大半がこれで断念し、日本人学校かインター校を選びます。途中からの転入には相当な努力が必要です。つまり、小学校一年の段階からローカル校に入っていないと、英語力・学力ともについていけない事が多いです。日本人には「地元校>>>インター校>>日本人学校」の順に難易度が高くなります。

両親共に日本人だと、日本語・英語・中国語のトリリンガルは相当厳しいです。英語は学校教育に期待するとして、日本語の補習が必要になります。日本語維持だけでも精一杯なので、母語が中国語・マレー語・タミル語の標準語以外だと、母語教育は免除を申請できるのですが、それでは地元校を選択する魅力に欠けると考える人もいます。

欧米系家庭だと、英語力は問題なくとも、学力不足がネックです。

シンガポール地元校は教育を大学卒業までシンガポールで完結するのであれば強力ですが、そうでもなければ「つめこみ教育は可哀想」「そこまでする意味があるのか」「他にすべきことがあるのでは」と考える日本人/欧米人の親は多いです。シンガポールには限定された期間のみを住む人が、日本人と欧米人では大半なのですから。

シンガポールはどれぐらい教育レベルが高いのか

シンガポールの地元校がどれぐらい教育レベルが高いかを、PISAとIBDPの指標を使って見てみます。

PISAでシンガポール3位、日本5位、英国23位、米国29位

PISAという国際学習到達度調査があります。OECD加盟国の多くで義務教育の終了段階にある15歳の生徒を対象に、読解力、数学知識、科学知識、問題解決を調査したものです。PISA最新2012年度の結果は以下のようになっています。参加65カ国中の順位です。

数学化学読解
1位上海(中国)上海(中国)上海(中国)
2位シンガポール香港香港
3位香港シンガポールシンガポール
7位 日本4位 日本4位 日本
26位 英国20位 英国23位 英国
36位 米国28位 米国24位 米国
52位 マレーシア53位 マレーシア59位 マレーシア



とは言え、米英は国内でも教育格差が激しいです。日本の駐在員より欧米系駐在員は少数精鋭です。エリート家庭であることが多い欧米系インター校生徒の層を、母国のPISAで判定することは、実態との乖離があるでしょう。そこで次の指標を紹介します。IBDPです。

IBDP (国際バカロレア: ディプロマ)

国際バカロレア (IB) という教育プログラムがあります。インターナショナル校の卒業生が、国際バカロレアの中でもディプロマ(DP)の課程を修了することで、大学入学資格を得ることができます。ディプロマ資格取得には、統一試験への合格が必要です。統一試験とあるように、ここで取得した成績は学校が変わっても同じグレードとして評価されています。なので学校が異なっても、点数を比べることが可能です。

下記のアングロチャイニーズはシンガポールのトップ地元校、UWCSEAはシンガポールのトップインターナショナル校です。試験は45点満点です。

アングロチャイニーズ 41.54点
シンガポールローカル校平均 36.53点
UWCSEA 36.5点
世界平均 29.95点

2013年にシンガポールでは、IBDPを975人が地元校から受験しています。世界平均が30点のところ、シンガポールの国としての平均は37点、合格率は97%。シンガポールでは45点満点が43人、32人の満点はアングロチャイニーズから。アングロチャイニーズは、総受験者457人で、平均42点という"狂ったような高得点"を叩き出す学校です。

IBDPで卒業とする地元校は限られてるとはいえ、シンガポール地元校平均がトップのインター校と同等、地元トップ校にインター校トップでも遥か及ばないのです。UWCはとても優秀な学校です。試験のスコアで比べると、アングロチャイニーズがあまりにぶっ飛びすぎているため、こう見えるのです。


インターナショナル校での最難関は学費の工面

なお、インター校で最も苦労するのは学費の工面でしょう。

小学校低学年ほど学費は安く、年齢が上がり、高校卒業が近くなると学費が高くなります。

シンガポール・アメリカン・スクール (SAS) では、高校(グレード10-12)で初年度S$5万、翌年度以降S$3.5万。合計S$12万と高校三年間を通して約1千万円弱が必要になります。一般的な大学学費よりも高価な費用が、高校三年間でかかるのです。

Singapore American School: SAS Fee Schedule & Policy 2014-15


3. カリキュラムが分断

駐在員は海外を転々とする転勤族なことが多いです。国際バカロレアや母国カリキュラムであれば、シンガポールの次の国でも、転校容易です。また、シンガポール赴任前の学校とのカリキュラムの分断も最低限に抑えられます。しかし、シンガポール独自カリキュラムの地元校に入れると、カリキュラムの分断の負担が生徒に高くなります。

4. 偏見

「自分の子供を現地人のようには育てたくない」という考えの人が残念ながらいます。

「子供にはシングリッシュを話させたくない」というものや、「アジアなまりのクセをつけないために子供の英語の先生には白人教師が良い」というのもこの亜流でしょう。

この価値判断を優先させる日本人の親は、かなりの確率で親自身が英語ができず、日本人コミュニティ中心の生活をされることは、指摘しておきます。日本人もシンガポール人も韓国人も中国人も、別大陸の人からはみな同じアジア人で、日本人が思っているほど大差なく見られているのですが。英語に抵抗がなく、多文化での生活経験がある親は、アメリカ英語/イギリス英語の発音矯正を受講させても、「日常生活はシングリッシュ、ビジネスなどオフィシャルでは標準アクセントとの英語で。その時の状況でアクセントを使い分けられるように」という考えが主流です。

※シングリッシュ: シンガポールアクセントの英語。一部で時制の軽視が見られるが、文法や構造は英米と基本的に同様で同一言語。「シンガポールで話されている英語」を特に言う時に"シングリッシュ"と言われることが多い。