シンガポールでは小中高の学費4千万円のインター校より、4万円の地元校が学力が高い~慶應1400万円~

これだけの学費を負担可能なのは、欧米系企業駐在員や、日本からの駐在員です。

小中高の学費: 日本とシンガポール

米国CNBCで「シンガポールのインターナショナルスクールの費用は小中高を通し40万米ドル(約4,800万円)」という記事が流れてきました。「学費高騰は最近のことで、2010年比で2020年には52.3%増になる。値上げは施設や学習体験に使われる」とのことです。

物価が高いことで知られるシンガポール。その中でも高いのは、不動産・車・アルコール/煙草・外国人向け教育費です。一方、日本より安価なのは、交通費・フードコートの食事・現地民向け教育です。

2015年12月時点で、日本とシンガポールの小中高の学費の比較をします。

※日本人が日本でインターナショナル校に通うことは現状では更にまれとなるため、日本のインターナショナル校はとりあげていません。

※シンガポールで私立校(Privately Funded Schools)は3校しかなく、いずれもカリキュラムはIB等インターナショナルです。そのため、シンガポールの私立校は本記事で対象外です。

シンガポールでの公立の国民向け学費は4万5千円で、日本の公立の36万円より安いです。

ところが、インター校になると費用は一変します。UWCで4400万円(S$52万)、シンガポールアメリカンスクール(SAS)で3800万円(S$44万)です。日本で高額とされている慶應義塾の1,400万円が安価に見えます。日本人学校も、シンガポールの区分ではインター校扱いです。実はシンガポールの日本人は恵まれています。日本人学校はインター校の中では破格に安価だからです。とはいっても、実質的に私立校としての運用であり、義務教育期間も無償ではなく、初年度は160万円(S$1.9万)、その後も学費は毎年80万円(約S$9千)します。小中を通すと840万円(S$9.9万)です。

シンガポールの日本人が恵まれているもう一つの理由は、早稲田渋谷シンガポール校があることです。日本の高校課程を海外で就学できる地域は少なく、シンガポールがその少ない一つです。しかし、学費は他のインター校と比べても若干安い程度にまで差は縮まります。日本の教育課程をシンガポールでおくるのに小中高で1600万円(S$18.8万)かかりますが、その授業料の半分近く750万円(S$8.8万)が、わずか3年間の早稲田渋谷シンガポール校への学費です。高校以降ではインター校志望や、早稲田渋谷シンガポール校に入学できる学力がないと、更に高額な学費が必要になったり、子どもを帰国させて日本の高校に通学させる家庭もあります。現在、早稲田渋谷は一学年が100名で、早稲田大学に65名の推薦枠があります。

こんな学費を負担できるのは誰か

これだけの学費を負担可能なのは、欧米系企業駐在員や、日本からの駐在員です。駐在のパッケージとして子供の勤務先による学費負担が盛り込まれています。一般的に、日系企業の駐在員と比べて少数の欧米系企業の駐在員は、住居・学費など諸手当が手厚いです。日系企業では、無条件で希望校の学費負担をする所は大企業でも減ってきており、「日本人学校がある地域では、インター校ではなく日本人学校を学費提供」「学費負担は義務教育期間まで」「学費の福利厚生はつけない」「家族帯同を認めず単身在任」など様々な扱いがあります。企業負担にしても結局は従業員の働きが原資なので、相応の仕事ぶりが求められます。

あとは、特に日本からも増えてきている富裕層です。日本人で英語コンプレックスを持つ人は少なく無いですが、シンガポール在住の富裕層日本人でも、この点では然程変わりません。親の英語コンプレックスが深いほど、子供に苦労をさせたくない思いでインター校に躍起になる傾向があります。日本人でも親が米英トップ校卒や両親東大等の方が、あっけらかんと子供を地元校に通わせていたりします(親が高学歴の家庭のインター校も当然あります)。もちろん、地元校に通わせる日本人の最多層は、シンガポール人が旦那で、奥さんが日本人の、二重国籍家庭です。旦那が日本人で、奥さんがシンガポール人だと、日本人学校が多いです。

外国人は義務教育の対象外

シンガポールでは義務教育は小学校のみです。その小学校での義務教育も、シンガポール在住の外国人には適応されません。シンガポール教育省は「学籍が確保できなかった在住外国人は、シンガポール以外の教育課程も検討するように」と明言しています。

(外国人への)入学許可は保証していません。国民と永住者の子どもを学籍に割り当てた後に、外国人生徒への学籍は限定されているからです。そのため、外国人生徒の両親は、私立校(インター校)のような他の教育オプションも含めて検討して頂きたい。

シンガポール教育省MOE: International Student Admissions: Overview

日本でも、外国人は義務教育の対象外ですが、希望すれば無償で必ず提供されます。

シンガポールは国民・永住者・外国人とで、公教育費用負担が異なる

もう一つの日本との違いは、シンガポールでは国民と永住者と外国人とで、学費が異なることです。小さい政府のシンガポールでは、在住外国人からは社会保障費を徴収しませんし、政府は社会保障を提供しません。外国人は各種保険や年金を含め、自費での購入負担あるいは勤務先負担になっています。国が提供する社会保障(つまりそこには税の補助があることが多い)を利用可能になるのは永住者PRになってからです。公教育でもこの方針が貫かれています。外国人は実費負担に近く、国民には補助を支給して、ということです。

その一方、極めて優秀な外国人生徒には、スカウトをして奨学金を出し、永住者になるように勧誘します。将来的には国民になることを、当然期待してでのことです。どの人材がシンガポールに必要か、という区分と待遇が明確です。

シンガポールで学力上位は、インター校でなく地元校: 国際バカロレア

シンガポール教育に、実態以上の喧伝をする人物が一部にいます。そこで持ち上げられているのは、地元校(ローカル校)ではなく、上記のインター校のような「湯水のごとくお金をかけた環境」です。シンガポールは教育熱心な国なのは確かです。PISAというOECD加盟国を中心に対象とした国際学習到達度調査があります。義務教育の終了段階にある15歳の生徒が対象です。PISAにおいてシンガポールは、数学2位(日本7位)、科学3位(日本4位)、読解3位(日本4位)です。このPISAのシンガポールでの母集団は公立校であって、インター校は含まれていません。インター校の学力は個別の学校事情になります。

その学力面で、インター校は地元校に大きく水をあけられているのが実態です。日本でも広範な導入を目指している国際バカロレア (IB) という教育カリキュラムがあります。国際バカロレアのディプロマ (DP) 課程を修了することで、大学入学資格を得ることができます。ディプロマ資格取得には、統一試験への合格が必要です。統一試験とあるように、ここで取得した成績は学校が変わっても同じグレードとして評価されています。なので学校が異なっても、点数を比べることが可能です。

下記は2014年のIBDP成績です。アングロチャイニーズスクール(ACS (Independent))はシンガポールの地元トップ校、UWCSEAはシンガポールのトップインターナショナル校です(シンガポールアメリカンスクールは米国教育課程(Advanced Placement)のためIB不参加)。試験は45点満点です。

2014年にシンガポールでは、IBDPを2千人超が地元校とインター校あわせて20校から受験しています。世界平均が29.94点のところ、シンガポールの国としての平均は36.43点。シンガポールでは45点満点が66人、そのうち34人の満点はACS (I) から。ACS (I) は、総受験者449人で、平均41.3点という"とんでもない高得点"を叩き出す学校です。

IBDPを課程とする地元校は限られてるとはいえ、シンガポール地元校平均得点がトップのインター校と同等、地元トップ校にはインター校トップでも遥か及ばないのです。世界平均と比べても、UWCSEAは十分に優秀な学校です。スコアで比べると、ACS (I)があまりにぶっ飛びすぎているため、こう見えるのです。

インター校は、学力養成ばかりにフォーカスしているわけでもありません。かけられる学費と学力に相関関係があったとしても、学費のみが学力を決定するわけではない、という話です。

先進国出身者に不人気な地元校

その地元校ですが、シンガポール在住の日本人を含め先進国出身家庭ではそれほど人気がありません。地元校の生徒比率は永住者9%、外国人5%です。インター校学費の高騰や、シンガポール教育の人気で、ここ数年、地元校に小学校入学の学籍をとれない外国人も出ていますが、積極的な地元校希望はまだまだ少数派です。シンガポール在住の投資家ジム・ロジャーズ氏は子どもを地元校に入れましたが、珍しい選択です。代表的な不人気な理由は下記。

  • 英語力不足や学力不足で、入学/編入困難
  • シンガポール滞在は一定期間のみであり、母国の教育課程との分断を避けたい
  • シンガポールの詰め込み教育は嫌だ、そこまで勉強させたくない、インター校の方が創造力と国際性豊かで、子どもがのびのびとできる
  • 地元校は国民優先で、好みの学校に入学困難、定員に空きがない
  • シングリッシュ(シンガポールアクセントの英語)を身につけさせたくない、シンガポール文化と距離を置きたい

全ての子どもが、外国での学力強化を乗りきれるタフさを持っているわけでないですし、インター校の学費を納められる親を持っているわけではありません。在住外国人がシンガポールで教育を受けるには、どちらかがないと帰国というこれもまた苦渋の選択になります。

高い学力に基づく実力勝負の世界では、序列が比較的明確です。それよりかは、序列化されにくい人間性の豊かさを文化障壁にし、親の財力をバックにリスクティクを学生時代に身に付ける方が、富裕層は自分達のリソースを差別化して活用できます。成功した親ならば、子供には果てしないレッドオーシャンで有象無象と戦わせるかより、インナーサークルに早期から属して生き残れるパラシュートを持たせてやりたいと思うのは、合理的な親心です。シンガポールのインター校は、まずは費用負担という障壁を置くことで、それらのマーケットをがっちりと掴んでいます。

結局は、学力養成なら地元校、育ちを通して富裕層のインナーサークルに入りたければインター校です。子どもの適正と親のリソースから、選択するしか無いのですから。

本記事は下記の要約版です。学費の計算方法などは下記に記しています。記事の改訂時には下記で実施します。

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