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「乳がんを乗り越えて」って言わないで欲しいんです

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最後の化学療法の日。「卒業おめでとう」というメッセージをもらった(UZMA YUNUS)

「母は私に、もう乗り越えた方がいいって言ったの」

「乳がんはもう克服したでしょう、って」

女性は目に涙を浮かべながら、そう私に話してくれました。彼女のお母さんは、彼女が乳がんを患った過去にいつまでもこだわり、前向きに将来を考えようとしていないと考えていました。

「みんな、わかってくれない」。そう言って、彼女はため息をつきました。「だけど、あなたはわかってくれますよね。がんは決して乗り越えられるものじゃないって」

そう言って、まっすぐに私を見つめる彼女に向かって、私はこう答えました。

「わかります。決して乗り越えられるものじゃない」。私たちは互いに微笑みました。がんを経験した人にしかわからない方法で痛みを理解しあえる。そう感じてホッとしました。

私の友人のがんサバイバーたちの多くは、「がんを乗り越えてほしい」と望む家族と向き合っています。もしあなたががんサバイバーであれば、友人やパートナー、近所の人や家族から、同じようなことを言われた経験があるかもしれません。私もそうでした。がんの経験をブログに綴っている私を見て、「必要以上にがんに固執しすぎると、前に進めなくなってしまうよ」とアドバイスした人もいます。

がんを経験したことがない人は、「化学療法や放射線治療、手術を終えた人は、がんを克服した」と考えているのかもしれません。だけど、それは違います。私たちにとって、がんは決して「克服できる」ものではないんです。

女性は私にこう訴えました。

「健康に見えたり、髪が生えたりしているからといって、がんを克服したというわけではありません。体重が増えたし、いつも疲れています。何も感じられないこともあります。1日をなんとか終えるという日も珍しくありません。それでも克服したと言えるんでしょうか」

私には、彼女の言うことが心の底から理解できました。乳がんの治療後、私も同じように感じていました。そして2年後、がんが再発し転移していると告げられました。女性は医師から「がんを克服した」と言われてもまだ苦しんでいました。私もそうでしたし、それは今に至るまで続いています。

がんサバイバーたちは、すぐに仲良くなりますが、それはお互いの気持ちが理解できるからです。がんサバイバーは、治療後に家族や友人、介護者に「がんを克服して人生を思いっきり楽しみなさい」と言われると落ち込んでしまいますが、同じサバイバーとは、他の人とはできない方法で絆を結べます。

実際、治療を全て終えた後から大変でつらい時間が始まります。がんの治療中は、定期的に病院に通い、お医者さんに体の状態をチェックしてもらっていました。だけど、治療が終わって「治療は終わりました。これからは人生を楽しんで下さいね」と言われると、多くのがんサバイバーたちは、どうしていいかわからなくなってしまいます。6カ月〜1年もの間、治療に専念した後では人生の楽しみ方を忘れてしまっているんです。よく頑張った、と褒められても、がんになる前の世界は、今では縁のない場所のようになってしまっています。そして多くの人が、本当に自分は「サバイバー」なのかと、疑問を感じています。

私たちは、「がんは全てを変える」と思っています。1度がんになると、人生は変わってしまいます。例えるなら、高速道路を下りた後、長い間道に迷い続けていたような感覚です。また高速道路に戻っても、スピードを出す高速車線に戻るのはとても難しい。周りの人たちがすごい勢いで走るのを見ると怖くなります。自分はのろのろしか走れない車でのような気持ちになります。

肉体的にも精神的にもつらい治療を続けると、体は消耗していきます。副作用はいつまでも続きます。多くのサバイバーの体には、手術の傷跡が一生残ります。できることは限られますし、神経障害や関節の痛みが残るときもある。多くの人がホルモン治療を続けなければいけないし、更年期が襲ってくる人もいます。しかも、それは変化の一部に過ぎません。さらに手術を受けなければいけない人もいるし、乳房再建をして元の体に近づけようとする人もいます。

がんと向き合うというのは、悲しみや喪失を何度も感じるということでもあります。治療が終わって「がんを克服した」と言われても、私たちはがんから自由になることはできません。不安や見えない将来を抱え、がんの恐怖に付きまとわれます。多くのサバイバーが、安心して眠れません。私もがんの治療中は、夜何度も目が覚めましたし、毎日関節が傷みました。乳がんを患った女性は、5〜10年にわたってホルモン治療を続けなければいけません。副作用に苦しみながら、静かに生活しなければいけないのです。だけど「命が助かったんだから、つらいのを我慢して幸せであるように振る舞わなければいけない」と思っているから、不満を口にしないようにしています。

再発を告げられた時、私は奇妙な安心感を感じました。もう再発を恐れなくてもいい。ショックでしたが、まるでもう片方の靴がようやく落ちたかのような感覚でした。再発していない人たちは「再発したらどうしよう」という恐怖に駆られて生きていかねばなりません。

多くの人は、がんサバイバーを見て「健康そうだし、不満も口にしていない。回復したんだ」と思うかもしれません。だけど現実は違います。がんサバイバーは、治療で受けた身体的な痛みや感情的な苦しみに、何年間も対処しなければなりません。病院を訪れる度に、恐怖や不安が襲ってきます。テストをしたり、検査を受けたり、今までにないような症状に直面したりするたびに、動揺してしまいます。がんが再発するのでは、という恐怖がいつでもそばにあるんです。

うつ病や不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱える人も少なくありません。がんが消えたと言われた後でも、がんとの闘いは続きます。がんの恐怖は容赦なく襲ってきます。私を含め、サバイバーの30%は再発して、治療を最初から始めなければいけません。転移性乳がんを抱える人に撮って、がんに終わりはないのです。恐怖は膨らみ続けます。

がんの進み具合に関係なく、がんを経験した私たち全員は、心に一生の傷を負っています。まるで自分が、過去の自分の影であるかのように感じることも珍しくありません。一生懸命頑張って、人生の折り返し地点にたどり着いたと思ったとたん、大切な時間の多くを失ってしまいます。「乗り越えて」という言葉は、必ずしも助けになりません。私たちが必要としているもの、それは愛とサポートです。恐怖は毎日私たちに付きまとっています。大きい日もあれば小さい日もあるけれど、なくなる日は決してありません。私は、がんから完全に自由になった人を知りません。特にがんになってから5年以内の人は、精神的・身体的な不安に押しつぶされやすいと思います。

お願いがあります。今度乳がんサバイバーと話す機会があったら、「乗り越えて」と言わないで欲しいんです。その代わり、手を握ってこう伝えて下さい。「がんの治療のために、できること全てをやっているんだね。これからもサポートし続けるよ」

ハフポストUS版に掲載された記事を翻訳しました。

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乳がん手術後、再建手術を選ばなかった女性たち
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